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箱庭ぱらだいす! Hakoniwa Paradise -“Arcadia” of graffiti-  作者: Saku†Project -ParadoX-
番外編・special
38/41

【2017クリスマス】リリウムとユウリの、悪夢が蘇るクリスマス?!〜聖夜の夢の中へ〜(1) 《We wish you a merry christmas,and past nightmare?!》

《12月24日 クリスマス・イヴ》


「サンタさん早く来ないかなー」

少女はマンガを読みながら、胸をわくわくと躍らせながら窓の外を眺めていた。窓の外の暗闇には、真っ白な雪が降っている。

彼女の名前は聖夜。十四歳。もうサンタクロースを信じなくなりつつあるお年頃だが、彼女は小さな子のように心からサンタクロースを信じている。

「聖夜、早く寝なさい。もうとっくに日が変わっているわよ」

母親の声がする。時計の針はもう十二時を回っていた。

「はーい」

聖夜は時計を見ると、慌てて寝室へ向かうのであった。



「サンタさん、早く来ないかなー……サンタさん、サンタさん……」

聖夜は、暗闇の中でずっと瞬きをしていた。眠たくても眠れない、そんな感じだ。

すると、彼女に話しかける声がする。

「こんばんは。眠れないの?」

その声の主は聖夜の目の前に立ち、手に持っていた懐中電灯をつけた。

現れたのは、雪のように白い髪の少年。彼は黒いメガネをかけ、正真正銘、サンタクロースの服を着ており、大きな袋を持っている。

聖夜は、本物のサンタクロースが目の前にいることに対して挙動不審になる。

「はわわっ……サンタさん、ごめんなさい……」

「いいよー。信じてくれてて嬉しいから」

サンタクロースは、怒ったり隠れたりする気配はなく、フレンドリーに聖夜に接している。

それを見た聖夜は緊張がほぐれ、サンタクロースににっこりと微笑んだ。

「ありがとう。サンタさんって意外に若いんだね」

「そうかな」

「おじいちゃんというかおにいちゃんだね」「まぁ、そんなサンタクロースもいるよ。さて、そんな君にプレゼントをあげようかな」

サンタクロースは、縛ってあった袋の口をほどく。そして、ほどいた口を聖夜の方へ向ける。

「何だと思う?」

サンタクロースはたずねてきた。

聖夜は、胸に想いを膨らませて答える。

「えーと……欲しかった……」

答えている途中だった。何かが、聖夜の腕を強く握りしめる。

「きゃっ」

聖夜がそちらを見ると、不気味な少女が笑っていた。ミルクティーががかった金髪は、前髪がぱっつんで横の毛を少しだけ短く残したロング。服は真っ黒。彼女の端正な顔立ちに青白い肌、そこには映えるほど真っ黒なゴシックメイク。黒く囲まれた目の周りと、真っ黒な白目にあたる部分が同調し、更に紫の瞳が鋭く光っている……

そんな少女は、聖夜を見つめながらクククと笑う。

「何っ……何なのっ……」

聖夜は顔を青ざめさせている。体は寒さなのか恐怖なのか、ガタガタと震えており動けない。

「プレゼントでもあげるとでも思った?」

聖夜がサンタクロースの方を向くと、さっきまでとは一転。少女と同じく、真っ黒な服に青白い肌、真っ黒な目元、そして真っ黒な目。瞳孔が開き、赤く光る瞳は聖夜を見下すように睨みつけている。

それを見た聖夜は、あまりの変貌ぶりに言葉も出ない。

「俺はサタンクロース。愚かなガキの魂を狩る者だ」

サンタクロース……サタンクロースはそう名乗った。

「サタン……クロー……ス……?!」

聖夜は、驚きとショックで頭がいっぱいだ。

そんな彼女の首筋を、サタンクロースは指の先でなぞる。そのまま語り口調でこう告げる。

「そうだ。お前らは所詮、欲の塊だろ?『サンタさんに欲しいものを頼む』とか『そのためにいい子にしてる』とか『イエス・キリスト様の生誕を祝う』とかな。見返りを求めていつも“いい子ちゃん”のふりをして、裏では悪口を言ったり、サボったり、悪いことをしてただろ?第一に、あれは迷信なんだよ。いいか?サンタクロースなどこの世にはいない。ただの言い伝えで、実際は悪魔の誕生日。俺ら悪魔の祭りなんだよ」

聖夜は、もう何も言えずにただ呆然とするしかなかった。

「そうか、ショックだろ。でも、これが現実なんだよ!リリィ、連れてけ!!」

サタンクロースは高らかにそう言い放った。

少女リリィは袋の中から、石像のように固まる聖夜をぐいっとひっぱり、こちら側へと引き込んだ……



そうして、ある時間軸から子供達が楽しみにしていた“クリスマス”は滅亡した。その時間軸では、2014年12月25日の事だった。




《三年後》



この世界では、クリスマスは子供達にとって恐怖の祭りになっていた。

この時期になると、子供達が集まる学校や幼稚園では、今年は誰か連れていかれないか必ず話題になる。教会には、サタンクロースとリリィに子供達が連れ去られないように、魔除けの護符やご加護をかけて貰おうと、連日人が並ぶ。大人の一部には、クリスマスにディナーを食べて今まで通り楽しむ者もいたが、クリスマスムードになると必ずと言っていいほど子供達が怖がるため、世間では自粛し、日が近づくと親たちが子供によりそい眠るのが習慣になっている。

聖夜は生きていた。あれからどうにか助かったようだ。しかし、彼女には深いトラウマが残っており、あれから体調不良を度々起こしては学校にも行けず、高校に進学できずにほとんどの時間は引きこもる日々。そして夜になると毎晩のように、あの“悪夢”を繰り返していた。

彼女は、久々に外に出ていた。あの“悪夢”以来通っている、病院の帰り道。冬の澄んだ空気、明るい空、行き交う人々。何もかもがいつも通り、あの“悪夢”が起こる前のままだ。

しかし。時々横を通りすがる子供達の目は、彼女と同じように死んでいる。

そうして帰宅。すぐに自室に向かうと、身体が崩れるようにベッドに横たわった。

ふとスマートフォンを起動すると、日付は12月23日。子供達が怖がる、“悪夢”の日のちょうど手前だ。

聖夜は必死に、そばにあった大ぶりのうさぎのぬいぐるみにしがみついた。あの時の“悪夢”が脳裏によぎっては、身体が震え、息がとても苦しくなる。

「あがっ……助け……」

そうして彼女はもがきながら、心身の疲れと共にゆっくりと眠りについた。



***



起きて、起きて───

聖夜は、聞こえてくる声と共に目を覚ました。霞む視界がゆっくりとひらけてくる。

すると目の前にいたのは、なんと“悪夢”の少女そのもの───

「きゃぁああああああああああ!!」

聖夜は叫ぶ。背景が黒紫色のマーブル模様で、歪んだ空間の中を一目散に逃げ始める。風はびゅうびゅうと吹き荒れ、周りには枯れ木や、まるで色を反転させたような不気味な色と、美しさより気持ち悪さが際立つ装飾のクリスマスツリー、これまた気味の悪い表情を浮かべた黒い雪だるまがあちこちに見えている。またその他にも、壊れたブーツや腐ったお菓子、壊れたおもちゃなども無造作に散乱している。

なんで、なんで今日は……偶然なのか、あの日に近いからなのか、とにかく分からないけれど、もうこんな思いは嫌だ。そう思いながら、聖夜はひたすら走り続けていた。

そうして逃げていると突然、何かにぶつかって跳ね返される。

「きゃっ」

彼女を取り囲むのは、巨大な立方体のようなものだった。それを形どる水色の光の筋が、うっすらと見えている。

「落ち着けっ」

何もないところから少年が現れる。それは、聖夜が見たあの“悪夢”のサタンクロースのよう……

「きゃぁぁぁあああああああ」

聖夜は、また一目散に走り始めた。しかし、跳ね返されては進路変更を余儀なくするも、行く先行く先が全て光の筋を境に見えない壁になっていて、逃げる事が出来ない。

そのあまりの恐怖に彼女は、ついに過呼吸を起こしてしまう。

「そんなに俺が怖いの?」

聖夜の意識が霞む中少年は、している。

聖夜は、その場で震えながらうなづく。

「俺は君を襲ったりしないよ。落ち着いて?」

少年は、優しく聖夜に微笑みかけた。

しかし、まだ聖夜には信じられなかった。聖夜が見た“悪夢”も、最初は優しく微笑みかけたのだから。

「大丈夫?」

しかし少年は聖夜に敵意なく、彼女を落ちつかせようと背中をさすり始める。聖夜はそれに、次第に落ち着いていった。

「よかった。落ち着いて」

少年は、影ひとつなく微笑んでいた。彼は、雪のように白い髪に青空のような瞳、黒いメガネまでは“悪夢”と同じ。そこに、白いパーカーを着てジーンズを履いている。

聖夜は彼をよく見ると、とっさに頭を下げた。

「さっきはごめんなさい。あなたに似た人が私を昔、襲った奴そのものだったから……」

「それはそうかもね。だってここは、君の悪夢の中だろ?」

「うん」

「俺はユウリ。聖夜、よろしくね」

ユウリは、初対面のはずの聖夜の名前を見事に言い当てた。

“悪夢”に似ているからなのか、それとも……。聖夜は、またトラウマに心が囚われてしまう。

「どうしたのー?」

そこへ、“悪夢”のような声がした。

「ひゃっ」

聖夜はまた前に逃げ出すも、ユウリにぶつかる。

彼女は気を取り直し、後ろを向いてみる。すると、さっきの少女がそこにはいた。

「さっきからビクビクしてばっかなの」

少女は、にやにやと笑いながら聖夜を見ている。

「あなたは……」

「リリウムだよー。みんなからはリリィって呼ばれてるのー。君は聖夜でそー?よろしくねー」

リリウムもまた、聖夜の名前を知っていた。聖夜はそれに驚いた。けれども、ユウリと同じ理由だろうと考えた。

リリウムは紫のシャツに、ゴスロリ風の黒いベストとスカートを着ていた。胸にはオレンジのタイがついている。瞳は緑で、頭には黒いリボンをしており、作り込まれた人形のようだ。

そこで、聖夜も自己紹介をすることにした。

「私は、二人の言う通り聖夜。まだちょっと怖いけど……とりあえずよろしくお願いしますね……」

しかし彼女は緊張と恐怖で声が震え、上手く出すことが出来ない。

けれども、リリウムとユウリはにこにことしながら「よろしくね」と返した。

その笑顔は聖夜にとって、嘘か真かまだ分からない。しかし、確かに伝わる暖かみは“悪夢”で怯えきっていた彼女の心を癒す。

「大丈夫なのー。怖くなぁい、怖くなぁい……」

リリウムは聖夜の顔をじっと見つめながら、指先を振り子のように左右に動かす。

聖夜は、ゆらゆらと揺れるそれに意識が奪われていく。

「何、催眠かけてるの」

ユウリがそこに覗きにきた。その声で聖夜は意識を取り戻す。

「別に悪いことなんてしてないの」

リリウムは揺らしていた手指を下ろし、濡れ衣を被せられたと顔を膨れあがらせる。

「さっき明らかに催眠術をかけてたよな?」

ユウリは、リリウムの顔をじっと見つめている。

そこへリリウムが言い分を返す。

「彼女は何かトラウマに悩まされてるみたいなの。さっきの反応だって、りり達が追ってる奴に何か関係あるんじゃ……」

ユウリは、少し頭の中で考えをまとめる。そして、彼の中で何かが繋がったのか、納得した様子を見せた。

「確かに、俺たちは化け物じゃないのに怯えるなんて話もおかしいよな」

「じゃあ、聖夜は人間不信なのか……」

リリウムは、目を伏せて考えていた。

一方でユウリは、こう話す。

「それとも、夢主ユメヌシって奴かもしれないね」

「なら見つけたの!!」

リリウムは、急に声のトーンを上げる。

「あのー……何話してるのですか?」

話についていけていない聖夜は、割り込むようにたずねる。

「ここは聖夜の夢の中で合ってるの?」

逆にリリウムが嬉しそうに聞き返す。聖夜は、当たり前のように自然にうなづいた。

するとリリウムは彼女の両手をとり、握った。

「なら説明するの。りり達はズバリ、“悪夢”を倒しに来たの」

「!」

聖夜は、その事実に驚きを隠せない。それどころか、もうこの悪夢を見なくてもいいのだと、希望と開放感さえ感じていた。

そこへリリウムが新たに、聖夜へ質問を投げかける。

「りり達はその“悪夢”を追っていたんだけど、似た奴は見なかった?」

「毎日見たどころか、苦しめられていたよ……」

聖夜は今まで毎日感じさせられていた苦しみを、重いため息にして吐き出した。

「それは大変だったのー……。でもりり達が来たからには、やっつけてあげるから大丈夫なの!」

リリウムは、自信満々な様子だ。聖夜もそれを頼もしく思い、期待していた。

そこへユウリが、二人を指差して指摘に入る。

「けれど完全に“悪夢”を倒すには、夢主の力が必要じゃなかったっけ?」

リリウムは、急に我に返って憂うようにつぶやく。

「そうなのー……」

「私の力……」

その指摘を聞いて、聖夜の表情はまた影を見せていた。

それを見たユウリが、彼女を気にかける。

「聖夜、大丈夫?」

「うん……」

聖夜は自信無さげに、生返事をした。

リリウムは、そんな彼女の頭を優しくなでる。

「大丈夫そうじゃないの」

「けれどもこれで彼女も、みんなも救われるんだよね?」

ユウリはリリウムの耳元でささやきながら、視線を合わせる。リリウムはそれを感じると、彼から逆に視線を逸らして小声で言う。

「……事実を突きつけるのは後でもいいの……」

この時のリリウムの表情もまた、憂っていた。

「大丈夫……?」

今度は逆に、聖夜がリリウムを気にかける。

「大丈夫なの。りりやユウリがついてるから、一緒に悪夢を倒しに行こう?」

リリウムは作り笑顔をしていた。

しかし、聖夜の表情はどんどん不安を色濃く見せていく。

「聖夜?」

ユウリも、聖夜が気になって仕方がない。

「やっぱり私には無理……、無理だよ…………」

聖夜はその場に小さく丸まり、顔を手で塞いで震えながら涙を流し始めた。

リリウムとユウリはすぐそばで、 彼女を見つめている。それを見つめる彼らもまた、複雑な心境だった。

聖夜はぐずぐずと泣きながら、その場で弱音を吐き始める。

「だって私……、また“悪夢”に襲われなきゃいけないの……?もう嫌だよ……。大体……“悪夢”と戦うって何……、こんな私なんかに出来るわけがない…………」

ぽろぽろと流れた涙が、手や頰に伝い、そのまま雫となり下へ伝い落ちていく。そんな時だった。


『そうだ。お前はずっとこの悪夢に囚われ続ける』

『ずーっと囚われ続けて、そのまま現実でも居場所を失うの』


聖夜に向かってどこからか、不気味に染まった“二人”の声が聞こえてくる。

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