・理想郷の統治者と侵略者編ー12.“悪夢”と“希望”
「ハァッ……ハァッ…………、なんだ……?」
解放されて意識を取り戻すりんた。突然うなり始めたユウリの方を向く。
「グァああッ……!あアああッ……!!アアあアアアアアアぁ…………ッ!!」
ユウリは頭を抱えながら、地面をのたうち回っている。
「……見なかったことにしておこう」
りんたはそこから目を逸らした。
しかし、辺りを見回してみてもどうなる訳でもなく、脱出の手立ても見つからない。辺りは一面闇の中。背後では、ユウリの苦しそうなうなり声がするだけだ。
さすがにりんたも気の毒になり、ユウリの元に戻る。
「おーい、大丈夫かー……」
やる気のないかけ声を出すりんた。
一方で、ユウリはそれに気づく余裕もなくただひたすらもがいている。
「おーい」
いつまた何が起こってもおかしくない中で、ユウリの身体をゆさぶるりんた。しかし、ユウリにとってはそっちに気づく余裕もない。
「うゥ……グる、ぢ……こロ…………グォはっ……」
彼は、時々鋭い目つきでりんたを見つめながら、揺れる意識の中で苦しみもだえている。それは側から見たら、悪魔か何かに取り憑かれている他ない。
そこから何かを感じとったのか、りんたは病人をいたわるように、ユウリの身体をそっと撫ではじめた。
「俺を殺したい?今はそれどころじゃないだろ……」
「けれド、ほんトうは……グっッ!!……お前、ナンだヨ…………。同情してんのか……!!」
闇の意識に囚われたユウリが再び息を荒げ、りんたの首をガッと掴む。
「落ち着けっ!!」
すかさずそれを引き離そうとするりんた。しかし、男子とはいえど尋常じゃない握力。りんたの意識は、再びぼやけてくる。
それでも彼は諦めなかった。腕を震わせ、出せる限りの力を出し、ユウリの手を微妙な範囲だが剥がしていく。
「やっ……!イタっ……クソっ!!」
急に女々しい声を出すユウリ。りんたは疑問を感じる。
「どうした?急にそんな声を出して」
その時。
「……お前には、関係ないだろ……!!さっさと死……」
突然、ユウリの動きが止まった。手はぷらんと下がり、彼は死体のように大人しくなる。
「なんだ?」
りんたは辺りを見渡す。すると、鬱蒼とする闇の中に一人、白く光り輝く少女が立っていた。
「これはまた、ややこしい事になったみたい……」
少女はこちらに歩いてくる。白い髪、金色の瞳、白いワンピースをまとい、光に包まれながら弓をその片手に持つ姿は、まるでキューピッドのようだ。
「今日の悪夢は……、ってえ!?ユウリっ?!」
その少女はユウリの知り合いなのか。彼を見るや驚き、急いでこちら側に駆け寄ってきた。
「あの時はありがとう……。今度は私の番だね……」
少女がユウリの胸あたりに触れると、そこから優しい光が溢れ出す。ユウリの身体も白く光り、浄化されていく。
しばらくすると光は弱まり、やがて何も無かったかのように消えてしまった。
少女は、その様子を見て笑顔を浮かべる。
「これで大丈夫なはず」
その次の瞬間だった。
「……きゃっ!!」
ユウリが、その少女の片足をぎゅっと掴んだ。鬼のような形相で少女を睨みつけ、まるで少女のように甲高く、恨みがこもった声をあげる。
「また現れたわね……セイヤ……!!」
「ナイトメア!!」
少女……セイヤも声をあげる。
「ナイトメア?」
様子を見ていたりんた。状況を把握し、悪さをしたのだと確信する。
セイヤは自らの身が危ないにも関わらず、りんたの方を向き状況を説明し始める。
「お兄さん、彼は人の心に漬け込む悪いやつ・ナイトメアに操られていたの。今助けてあげたいんだけど……なんだか様子がおかしいんだよね……」
「ああ、俺もあいつがなんだかおかしいと思っていたよ……ってふぁっ!!」
りんたは、セイヤの足を掴む腕を思いっきり踏みつける。その手がパッと離れると、りんたはセイヤの身体を押し飛ばした。
その反動でセイヤは腰を強打してしまう。
「っ……!」
「大丈夫か?」
りんたはすぐにセイヤの上から退き、彼女の腰をさすり始めた。
「大丈夫……それよりユウリは?」
セイヤの腰にはじわじわと強い痛みが走る。しかしそれよりも、操られているユウリの方が気になり、そちらの方を見ていた。
「いてぇ……あれ…………」
腕をこれでもかと踏まれたユウリ。その反動か、正気をわずかに取り戻しているような雰囲気が漂う。
その様子を見たりんたは、彼の方へと向かう。
「あ、お兄さん!気をつけて!!」
セイヤは大声で忠告をする。
「分かってるよ」
りんたはそう言いつつ、ユウリの前へとたどり着いていた。彼は、その手を優しく差し伸べる。
「お前には非があったとはいえ、こっちもこっちで色々とごめんな?あと、足を踏みつけたのもお前を救うためだったから許してくれ」
「……今思えば、俺が悪かったよ。ごめんなさい」
ユウリは謝罪の言葉を口にしながら、りんたに手を伸ばす。
りんたは、その手をぐっと掴む。
「反省しているなら、もういいよ。気分といい腕といい大丈夫か?ユウリ」
「大丈夫だよ。闇咲邸で治す」
ユウリはりんたに支えられながら、ゆっくりと立ち上がる。
対立していた二人の男子。その和解と友情が今始まろうとしていた……
「ぐッ……!!」
突然苦しみ出すユウリ。再び目つきが鋭くなり、白眼も黒く染まっていく。
「おい!」
危険を察知したりんた。すぐにユウリの手を離し、彼から距離を置く。
「ナイトメア!出て来なさい!!」
セイヤは、光の弓をユウリに向かって射る。矢はユウリの胸に直撃、ユウリ……いや、ナイトメアは唸り声を上げる。
「ヴぁああアあアあぁァァァ……!!」
ユウリの苦しむ声とナイトメアの慟哭する声が入り混じる。光の矢はきらめき、彼の身体からは湯気のように影がもやもやと立ち上っていく。
「俺も手伝ってやるよ」
りんたはステキナペンで宙に絵を描き、宙から光に包まれた白銀のライフルを出現させる。ライフルを手に持つとその銃口をユウリに向ける。
「F××king b* *ch.」
彼はそう囁き、引き金を引く。弾は見事にユウリの胸に的中。
「伏せろ!」
りんたはその場から離れ、セイヤもユウリのいる方から目を背けて伏せた。
すると時差で、銃弾の当たったところは閃光を発しながら大爆発。断末魔と共に辺りは真っ白に包まれる……
「おボ……えてロ……!!」




