・理想郷の統治者と侵略者編ー11.悪夢の復讐者
一方で、リオレ荘では。
やみとりんたは、庭でボール遊びをしていた。
庭は畑と野原に分かれている。野原エリアからは、すぐ側に流れる川へと続く通路があった。
「やみたーん、行くよー」
りんたがボールをころころと転がす。ボールは、やみとは少し逸れた方向へと転がる。
「にぱにぱ、にぱにぱ」
やみは顔だけ形を残し、スライムのように溶けた状態で、ボールの方を向いて移動。そして体全体を使いぴたっと止める。
「にぱにぱ!」
今度はやみが、りんたに向かってころころとボールを転がす。ボールは、りんたとは全く違う方向……川へ続く通路に転がっていく。
それを見てやみは、きゃっきゃと笑っている。
「こらっ…!」
りんたはそれを追いかけ、川へ続く通路に向かう。その時だった。
ザクッ
突然、りんたはその場に倒れる。ボールは待つ気配もなく、ころころと川の方へ転がっていく。
「りんた!」
やみはすぐ側に寄り、溶けている身体から腕を出してりんたを揺さぶる。
りんたは苦しそうに唸りながら、こちらに気づかずに眠っている。それどころか、身体から黒いもやが溢れ出しているではないか。
「にぱ……」
そこへ、畑で農作業をしていたフウが駆けつけ、りんたの異様な様子に驚く。
「りんたさん!?」
「悪い予感がするの……にぱ……」
うるうるとした瞳で、心配そうにフウを見つめるやみ。
「すぐにリオレットを呼んできますね!」
フウは家の中へと走っていった。
そして、数分後。リオレットや異変を察した仲間たちが集まってくる。
リオレットはりんたの前に座り、黒いもやに手を伸ばす。
「大変だわ……」
「にぱにぱ……りんた、死んじゃう?」
やみは顔をくしゃっとさせ、ぴぇえ……と小さな声でぐずり始めていた。
「りんた……ねぇ、どういう事なの?!これは」
ももかはシビアな表情で、リオレットの両肩をつかむ。
するとリオレットは、急におどろおどろしい雰囲気を出しながら話し始める。
「私にもよくは分からないけど……。最近噂で、異様なオーラを発しながら眠り、まるで悪夢を見ているかのようにうなり声をあげたかと思ったら、次見たときには消えていたというのがあるわ……」
集まっていた周りの仲間たちも、嫌な予感を感じていた。
それを聞いたももか。今度はとっさに、りんたの身体をゆさぶる。
「まさか……ねぇ、りんた!起きなさいよ!ねぇ!!」
「りんた起きるんだめう!いくらりんたでも消えるなんてそんなの嫌めう!!」
こちらも負けじとりんたの身体をぺちぺちと叩いているゆめ。
と、次の瞬間。
「りんたっ?!」
その場にいた全員は驚く。
なんと、さっきまでいたはずのりんたが消えていたのだ。まるで、通り魔か何かが全員の隙をついてさらっていったかのように……。
「じゃあ、やっぱり……」
ももかとゆめは、お互いの青ざめた顔を合わせる。
「にぱ……」
やみも口をぽかんと開き、それを呆然と見ている。
その場は、重い空気の中静まり返ったのであった……。
***
りんたは目覚めた。そこは、黒紫色のもやが渦巻くよどんだ空間の中。空気は冷たく、肌に突き刺さるようだ。
「……what?!」
彼の身体には、黒いツタのようなものが絡みついていた。その枝は硬く、隙間もないくらい複雑に、脇の下や指の間にまでぐるぐるとたくさん絡んでいるため、とても出られそうにはない。
そうしてもがいていると、聞き覚えのある声がどこからと響く。
「りんた……お前を許さない」
「……ユウリ?!」
りんたは呆然とした。
すると黒い渦の中から、ユウリが彼の目の前に現れる。しかし彼の様子はどこかおかしい。
髪が白いのはいつしか見た通り……なのだが、その目は全体が真っ黒の中、真っ赤な瞳孔が鋭く、虚ろにもこちらを向く。そしてだらっとした姿勢からは、何かに取り憑かれたような禍々しい雰囲気がこちらに伝わってくる。
りんたは異様な雰囲気に押されながら、それをまじまじと見つめた。
「お前、なんかおかしくねえか?」
「おかしいも何も……お前が悪い……!」
ユウリは目を見開き、こぶしをグッと握る。
すると、それと連動するかのように巻き付いていたツタがりんたを締めつける。
「また責任転嫁か……てめぇ。こんな事をして何がしたいんだ……」
「どんな手を使っても、俺たちを邪魔する者は消すと決めた……。この力を使ってまずお前を消す……」
ユウリはりんたをより一層睨みつける。
りんたに絡むツタもそれに連動し、さらに強く締まる。
「ほう。狂ってまで俺を殺して……何がしたい……」
「俺が再び一番になり、俺たちの日常を取り戻すだけだ」
「一番?何だ?」
「俺はずっとアルカディアで一番強い奴と言われていた……しかし、お前たちがそれを邪魔した」
「知らないな……あの時は、偶然神様が助けてくれたようなものだし。大体ここのルールでお前らが一番かは知らないけど、やりたい放題してもいい理由にはならんぞ……」
「うるさい……しかもそれに加え、レイナをたぶらかしただろ……」
「レイナ……あの子から謝りにきたんだ……。あの子はいい子ってこと、一緒にいた癖に気づかないのか……?」
「お前なんかに言われてたまるかっ……!!」
ユウリは再度りんたを睨みつける。
りんたに絡まるツタは、より一層彼を締め付け、身体にじわじわと苦痛を与えていく。
「っ……ぐっ!!」
息さえままならないりんた。
「だからお前は、ここで消えろ……りんたぁああ……っ!!」
その一方で、己の復讐に燃えるユウリ。力を込め、真っ黒な剣をその手に呼び出す。
「分かったから落ち着け……ユウリ……ぐはっ!!」
りんたの口から血が勢いよく吐き出され、それが小さく音を立てて床に散る。同時に彼の視界がぼやけ、意識が朦朧とする。
「いい気味だな……りんた、お別れだね」
悪意と狂気が入り混じった笑みを浮かべるユウリ。目を見開き、口も大きくにやけさせ、それはまさしく悪夢……どこぞやの殺人ピエロのようだ。
一方でりんたはもう息も出来ず、視界が真っ白に染まっていく。
りんたはここで息が途絶え、ユウリは復讐を果たす……
……と思われた。
「グッ……なんダ…………!ゔぅッ……!!」
突然、胸を抱えて苦しみ始めるユウリ。
同時に、りんたを縛りつけていたツタが黒くどろどろと、まるでアイスクリームのように溶けていく。




