・理想郷の統治者と侵略者編ー9.憂鬱な昼下がり
朝を迎えて昼下がり。昨日の嵐が嘘のように止み、雲と雲の間から光がほんのりと差していた。
それとは対照的に、影を見せている者がいた。
「あいつ……。レイナに何をしたんだ……」
ユウリは一人、自室で寝転がりながら携帯ゲーム機をいじる。
あの時からの苛立ちや執念が邪魔をして、ゲーム機を弄っていてもイマイチすっきりしないようだ。
しまいに映るのは、『Game Over』の文字。
「はぁ……」
ユウリはそのままうつ伏せになった。まるで戦闘不能状態だ。
コンコン。ドアをノックする音だ。
「ゆーりぃん。入っていいー?」
外からはレナの甲高い声が聞こえてくる。
「今はほっといてよ……」
ユウリは首を横に向け、外に伝わるのか伝わらないのか分からないくらい、ぼそぼそとした声で返す。
少し間が空くと、レナはよく通る声でこう返す。
「わかったー。ご飯はもうみんなで食べちゃったから、ゆーりんも好きな時に食べてね」
足音が遠のくとまたひとり、べたりと寝そべるのであった。
一方、ドアの外では。
「やっぱり二人とも引きずっているんだよね……」
ため息をついて長い廊下を歩くレナ。足音が今日は彼女の心により一層響く。
「こんな時こそ、私がしっかりしなくちゃ……!」
内心ちょっとした焦りさえ感じているようだ。
すると、レナの隣を黒い影がスッと通りすぎていった。
レナはふと立ち止まり窓の外を見る。しかし、外はほどよく明るいばかりで誰もいない。
「何ぼさっとしてるの。甘えん坊さん」
声に気づいたレナは再び前を向く。そこには白髪で黒ずくめの背の高い女がいた。
「ちょっと、リナ、どこから入ってきたのよ……!!」
《リナ……度々闇咲邸にちょっかいをかけてくる悪魔。なんか下品でやたらでかい。》
レナは身構え、一歩後ろに引いている。
「そんなに身構えなくてもいいんじゃないのぉ?私たち、何かと長い付き合いじゃない」
それに対して、リナは自信満々で馴れ馴れしい雰囲気を出していた。
「いつも勝手に入るのはやめてって言ってるでしょ!……で、今日の要件は?」
「あんた達がなんかおかしいから覗きに来たまでよ、レナ」
足をクロスさせ「相談に乗ってやるよ」と、上から目線のリナ。
一方でレナの頭の中には、思わず嫌な予感がよぎった。
「まさか、弱っているところをおねーちゃんに加え、ゆーりんにまで手をつける気……!?」
「何よ。私ってだけで、それはあまりにも失礼じゃないの?」
高圧的な態度を保ちつつ、首をかしげるリナ。
それがレナの逆鱗に触れてしまう。
「その日頃の態度が悪いのよ!!」
レナは声を荒げる。その腕はぴんと前に突き出し、指はリナを鋭く指す。
リナもまた、それに釣られたように興奮する。彼女は腕を前で組み、レナを見下すようにしてにらみつける。
「はぁ!?私ってだけでどうしていつもそんな態度取るわけ?」
それから二人はお互いに沈黙しながら睨み合い、辺りは一気にピリピリとした空気に包まれる。
「ケンカ……だめ……!」
そこに現れたのはミライだった。レナの背後から、ぎゅっとしがみついている。
「……みーちゃん?いつの間に……」
我に帰り、そちらを振り向くレナ。一方で、ミライはこちらをじっと見つめる。
「レナ……、無理してない?」
「私はいつも通り。大丈夫だよ」
「そう……かな……?リナ……いつもとは違う感じ……」
ミライに言われ、レナはゆっくりとリナの方を向く。
一方のリナは、相変わらず高圧的な雰囲気でむっすりとしていた。しかし、その瞳はレナをじっと、どこか心配するように見つめているようにも見えた。
レナは一歩下がる。
「……リナ。今日は私が悪かった」
「何よ」
リナは素っ気ない態度をとる。
「あんたも、あんたなりに考えてくれたんだよね。それだけは感謝する。……でも、おねーちゃんたちに手を付けようものなら、許さないんだからね!」
レナもまた、リナに対して素っ気ない態度をとる。
少しの間黙るリナ。相変わらず素っ気ないままレナにこう返す。
「フン、せいぜい負け犬ごっこしてるといいわ」
そうしてリナは消えていった。カラスのような黒い羽を数枚残して。
「はぁ…」
ため息をつくレナ。彼女の肩からは、一気に強張っていた力が抜ける。
それを心配して見つめるミライ。
「レナ……大丈夫……?」
「大丈夫……じゃないね。明らかにいつもとは違うことが起こってる。おねーちゃん達も、私も、きっとみーちゃんも、落ち着かないんじゃないかな……」
レナはさっきまでとは違い、優しげな様子を見せている。
不安げにうつむくミライ。
「私は……」
彼女はそう言いかけると、何を思ったのか瞳をうるませながら黙りこんでしまった。
そんなミライをレナはぎゅっと抱きしめる。
「大丈夫だよ。みんな一緒ならきっと今も乗り越えられるはず。だから、みーちゃんもそんなに心配しないで」
レナも本当は不安なのか、その手は微かに震えている。敏感なミライはそれを感じとり、上を向く。
「レナも……心配しないで」
「うん……」
闇咲邸に憂鬱な空気が流れる昼下がり、静かな廊下で二人はお互いに抱き合っていた。
窓の外からは、優しい光が二人をはげますように差し込む……
《闇咲邸はなんだか重い空気が流れてるね。リナもひとまずは去ったんだけど、本当に大丈夫かな……》




