・理想郷の統治者と侵略者編ー6.アルカディアに蔓延る闇
「スイレンの言った通り、今からする話は、この村で大っぴらにされてはいけない事なの。闇に葬り去られるは、大層な話かもしれないけれど、実際に私たちもそれによって、仲間を何人か失ってるわ。だからよく聞いて、心に留めておいてね。
私もこの村に来てからのことしかわからないけど、私の最初は、ユウリの遊びによって召喚された気がするわ。彼とは前々から仲が良かった気がして、なぜ『気がする』のかはよく思い出せない、思い出そうとするとなぜか
頭にもやがかかったような感覚がするんだけど、そんな感じだった。
その頃の闇咲邸も、今のようにはなってなかったわ。レイナを始めとし、その妹のレナ、そしてミライとユウリ。そしてメイドのクロロ。彼女に近い仲の者達がただ、闇と共存するように、でも私たちとも仲良く、今のように村の体制も整ってなく、ただ自然豊かな中で気楽に過ごす毎日だった。
そんな中私は、皆が楽しく過ごせる場所を過ごしたいと、リオレ荘を立ち上げた。当時はもっとたくさんの仲間達がいて、この村で一番の集まりだったわ。
そして仲間は増え、月日と共にある程度この村の体制も整ってきたある日だった。
この村を、とても大きな地震が襲ったの。それはそれはもうとても大きくて、皆の恐怖として根強く残る勢いだったわ。
けれど不思議なことに、地震後の被害は何も無かった。建物が倒壊しようが、地面が割れようが、人が巻き込まれて死のうが不思議がないはずの地震だったのに、地震なんてそもそも無かったようだったわ。
その頃を境に変わってしまったの。
レイナ達が『Yamisaki Clover』を名乗り上げ、改めてこの村の強い統治を図ったの。
この村に様々な“革命”を起こった。その一つが、この世界の神から授かったと言われる『スケッチ・オブ・システム』。
闇咲邸は、『魔法や能力の差があるこの世界で、既存の能力に左右されない新たな能力』とうたっていた物だけど、魔法のペンを使って欲しいものを描くと出てきたり、それを生かして仮想の世界で戦ったり出来るシステムなの。
彼らは他にも、この村を色々と変えていったわ。
それだけならまだ良かったの。
彼らは“変わってない”ように見えて、“変わって”しまったの。
今の彼らは、前から関わっていた者からしたら何も変わってないように見える。
あなた達も出会ったなら、普通に見えたはずかもしれないわね。
しかし、彼らの目は確実に今までとは違うものなの。
普通に明るくて気楽そうに見えながら、どこか冷たく淀み、どこか自分勝手。今の彼らはそう、自分たちのやりたい放題だわ。そのためなら悪事だって厭わない。裏切る事も、何かを取ることも、もしかしたら殺すことだって……。
ここにいる者の一部を含め、ほとんどの住人達が『Yamisaki Clover』に従う中、私は何か違和感を感じていた。
レイナのどこか寂しそうな目、レナのどこか傲慢な目、ミライと、特にユウリの目はどこか死というか、何かに操られているように感じたわ……。
この時の私は性に合わないまま、なぜかはっきりと感じとっていたの。
そんな時、この村の外れにいる魔女がやって来て私に話しかけてきた。
『今までも警戒して見ていたけど、この村の今は特におかしいわね。貴方は友達の目を見てそれに気づいたのね』
私は、はい、と返事をしたわ。
『私にもよくは分からないけれど、これから更に恐ろしい事が起こりそうな気がするわ。ここの人々の想いや心、肉体や精神の全てを踏みにじりそうな恐ろしい事がね……。貴方は、私に協力してくれるかしら?』
私に迷いは無かった。あんな目の仲間達は見たくないと思い、協力することにしたわ。
すると魔女はこう言った。
『今なら貴方の元から離れつつある仲間達を取り戻せるわ。さぁ、今すぐ動きなさい』
その後、私はすぐに行動を起こしたわ。
なんとか説得して、いくらかは私の元に戻って来た。
それが今ここにいる、スイレン、フウ、メイル、ヒスイよ。
私達は非力ながらも、なんとか闇咲邸の暴走を止め、元のこの村にしたいと四人でチームを作ったの。
それが、『サツキエンジェル』。
メイルとヒスイの生まれ月と、スイレンが天使だった事、この村を救いたいと思う気持ちからみんなで決めたわ。
ただ私達は、下手に動けないの。
実は他にもメンバーはいて、もう一つチームを作っていたの。当初はそちらの方がよく動いていたんだけれども、何が悪かったのか、ある日を境に行方知らずになってしまったわ……。
他にも、被害はあったはずなんだけども、『Yamisaki Clover』に従う者達は誰も気に留めてない様子。
現状の私たちはただ、侵食されないように端っこで無気力に、この様子を見つめているだけよ……」
話の途中で遮るものは無く、リオレットの話はこれで終わった。話し終わった彼は、とても疲れた様子だ。
やみ、りんた、ゆめ、ももかは、今までに思い当たる節はたくさんあるものの、返す言葉が頭に浮かばず、しばらく呆然としているしか無かった。
それを見たスイレンは、こう付け足した。
「すぐに理解出来なくても不思議ではないでしょう……。しかし、これが理想郷に蔓延る闇なのです……。私たちも少しながらですが、この村にいる以上影響されています。それはマスターを見れば分かることでしょう……」
「……いや、なんとなく分かるよ?でも、この村で起こっていることが、思った以上に凄すぎて整理が追いつかないんだよ。それに、これって俺らに救ってくれって言ってるの?流石にそれは……」
りんたには、何が起こっているかなんとなく察せていたし、今まで自分の身に降りかかってきた事とこの話の筋が通っていることも分かっていた。しかし、いきなりの話の規模とその裏に見え隠れする思惑については困惑している。
そこへ更に、ももかがバッサリと切り込む。
「私達には無理よ」
「話を聞いてる限り、あのメガネと仮面と猫かぶりとアンデッドに太刀打ちするなんて無茶にも程があるめう!」
ゆめも、ネタみたいな口癖が出たものの、この時ばかりは真剣であった。
「にぱー。にぱにぱ……」
やみに至っては、もう上の空だ。
「はぁ……やっぱり……」
リオレットは、ため息をついた。協力して貰おうと考えていたが、やはりそう簡単には行かないものだな、と諦めも感じている。
そこへ、スイレンがささやく。
「しかしマスター。私にはこの者たちは、何か手ごたえを感じるように思えますよ。特にあの男は、一応は理解しようとするように思えます……」
リオレットは彼女の指差す方を、ゆっくりと見上げた。確かに彼女たちにとって、りんたはいい目をしているように見える。
「……でも、無理は言えないわよ。今までだってそうだったじゃない……」
リオレットは諦めた様子のまま、またため息をつく。
そんな時だった。来客を知らせるチャイム音が鳴る。
「……あら、こんな時間にお客様?」
リオレットは不思議に思いながらも、すぐに玄関へと向かった。
ドアを開くとそこにはなんと、レイナが一人でたたずんでいた。彼女は土砂降りの雨の中で、ふんわりとしたスカートの裾を濡らしている。
この話の流れで、こんな悪天候の時に、Yamisaki Clover主格である彼女がたった一人で来るとは。リオレットは驚きを隠せなかった。
「レイナ?!こんな時間に……闇咲邸なら普通かもしれないけど、どうしたの?」
「やっぱり少し……謝りたい人がいて……」
レイナは急いで来たのか、息を切らしながら言う。
「謝りたい人?」
リオレットがたずねると、レイナはどこか急ぐ様子でこう聞き返す。
「リオレット?この辺に、人は倒れていなかった?」
「私が助けて、今ここにいるけど……」
「中に入れてくれる?」
レイナは、どこか焦っている様子だ。
リオレットは、嘘偽りのなさげなその様子を見て、心配しながらも快くうなづいた。
「分かったわ。この雨の中だし、中へいらっしゃい」
「ありがとう」
そう言ってレイナは、リオレ荘の中へと入っていった。
《突然、レイナがリオレ荘にやって来た理由とは?それはまた、続きにて》




