・理想郷の統治者と侵略者編ー5.リオレ荘の仲間たち
やみとりんたはリオレットに連れられ、広々としたリビングへと案内された。そこには、自分たちと同じくらいか小さいくらいの少年少女達、そしてゆめとももかが既に集まっていた。
ゆめは、やみとりんたを見つけるや指をさす。
「やみしゃんとりんたの生存確認、完了めう!」
「生きてたのね……良かったわ」
一方でももかは、安心感からか胸に手を当てていた。
「お前らも無事だったのか。良かった……」
りんたもまた、全員生存が確認できて一安心した様子が表情に浮かんでいる。
「にぱにぱ」
やみも何か思ったのか、にこにことしながら鳴いていた。
「今日は久々にお客さんが来たからね、パーティメニューよ!」
リオレットが嬉しそうに取り仕切る中、大きなテーブルの上にはたくさんの料理が山盛りで並んでいた。からあげにフライドポテト、色鮮やかなサラダ、ナポリタンスパゲッティにチーズフォンデュ、デザートには色とりどりのゼリーまで。まさにパーティにはうってつけのメニューである。
「流石ですね、マスター」
そう言いつつ携帯ゲーム機を動かしているのは、ももかやりんたと同じくらいであろう女性。腰まで伸びたサラサラの金髪、すらっとした体格、儚げな雰囲気に白いキャミワンピを纏ったその姿は、まるで異界からやってきた天使そのものである。
《スイレン…ゲーム廃人の厨二病。自分のことを天使と思いこみ、任務と称してゲーム漬けの毎日を送っている》
隣でそれを見てため息をつく少女。その子は恐らくやみと同じくらいの年ごろで、スイレンとは対してショートヘア、現実的でしっかりとした雰囲気を纏っている。
「スイレン……いや、ミズキ。ごはんの時ぐらいはやめなさいっていつも言ってるでしょ」
《フウ…スイレンのいとこで、ゲーム廃人の彼女にいつも頭を焼いている。フウ本人はどちらかというとシンプルでナチュラルな志向》
しかし、スイレンは聞く態度を見せない。ゲーム機の画面をじっと見つめ、指を小刻みに動かしている。
「もう少しだけ待ってくれないかしら……まだ奴を倒せていない……」
そんな中立ち上がり、彼女の側へと行ったのは端正な顔立ちの少年。彼は、スイレンの肩をそっと優しく触れた。
「フウの言う通りだ。食事を取って英気を養うのも任務の一環だからね?」
するとスイレンは、何かに導かれるようにゲームの中断ボタンを押した。
それを見た彼は、微笑みながらスイレンの頭を撫でる。
「よし、やっぱり貴女は有能な天使だね」
スイレンはただ、照れ臭そうにしていた。
「すごいめう……なんかりんたが女を口説く時みたい!」
それを見ていたゆめは、彼の説得術に感心していた。
「おい。それはどういう事だ?」
りんたは指でピストルを作り、それをゆめに向けながらにっこりと怪しい笑みを見せる。
「それは私も同感だわ、女垂らし」
そこへももかが、横槍を入れるように言う。
「よし、二人とも後でおしおきな」
りんたは、にこにこと微笑んでいた。
一方で、やみは。
「にぱー……」
幼さ残る王子様のような服装に、髪にはミニハットを合わせてまるで人形のような彼。お姫様、あるいは人形のようなゴスロリを纏うやみと並んで歩けそうな彼をじっと見つめていた。
そこへ、部屋から一緒に戻ってきた少女が元気いっぱいな様子で紹介する。
「私のお兄ちゃんのヒスイだよ!」
「おにーちゃん?」
《ヒスイ…優しくて紳士的、少し現実離れをしたその振る舞いは王子様そのもの。実はある事情があり……?》
「そう、かっこいいでしょ?」
少女は、ふふふと笑っている。
「うん。僕、こういうの好きかもしれないの」
やみも、にこにこと笑っていた。
「わーい!私は彼の妹のメイル。よろしくね」
《メイル…素直で、お人形遊びが大好きな女の子。ヒスイの妹である》
メイルからは、ヒスイには感じられない活気というか生気があふれていた。出で立ちもヒスイとは違い、二つ結びにしたミディアムの髪に、シンプルでカジュアルな青のシャツワンピースを合わせている。
「到底兄妹には見えないわね」
ももかは思ったことをすぐに、ストレートに口にした。ヒスイとメイル。二人の違いは明らかで、それはももかだけでなく、恐らく誰が見てもそう感じ取るであろう。
「そうかなぁ……そうだよね」
メイルは、少し照れていた。何かを隠しているようにも見え、でも誇らしげな様子だ。
「不思議な兄妹もいるんだめう!」
ゆめは元気よく、締めるように言った。
「そうだよね」
ももかも、ひとまずはそういう事にしておいた。
「さて、みんな食べて食べて。さぁさぁ」
リオレットが、進んで料理をお皿に取り分ける。
皆は、お皿に取り分けられた料理を思い思いに食べ始めた。
「いただきまーす」
りんたもあいさつをしてから、皿に盛られた唐揚げを一口。カリッとした衣と、程よく味のついたジューシーな肉汁が口の中に広がる。
「んー、おいしい」
「そりゃみんなで作った料理だからねー」
リオレットはにこやかに笑う。
「なぁ。一つ聞いていいか?」
「何?」
「あいつらの強さはよく分かったのだが、どうしてやり合うべきでは無いのだ?」
リオレットは思わず息をのむ。しばらくすると彼女は水を飲み、りんたの耳元でそっとささやいた。
「それは、この村と近辺であいつらに逆らうと消されるという噂だからよ」
「……え?」
りんたはそれを半身半疑で受け止める。
彼はそのはずだったが、嫌な予感も多少感じ取っていた。
一方、その隣ではやみとゆめ、そしてももかは美味しそうにバクバクと箸を進めていた。他のリオレ荘の住人達も、話をしながら楽しく食事を進めている。
箸が止まるりんたを見かねたリオレット。安心させようとにこやかな表情に戻る。
「後で話すから、今はとりあえずご飯を食べましょ」
「そうか。分かった」
りんたは、その事が気になりながらも食事を進めるのであった。
そして、食事後。
外から雨がしとしとと降り、時々雷が鳴る音が聞こえてくる。
「急に雨降ってきたね」
「そうだな」
メイルとヒスイは、カーテン越しに窓の外を見ていた。
「こういう時こそ任務よ……」
スイレンはそう言いながら、ゲームの続きを一生懸命やっている。
そんな彼女に、フウは注意をする。
「こら、今から大事な話があるからやめなさいよ」
「用件は」
スイレンの即レスだ。
「はぁ……『サツキエンジェル』の活動会議みたいなものよ」
フウは、やれやれと呆れた様子で言う。
「分かったよ……」
話を聞くとスイレンも、しぶしぶとゲームを中断した。
それを見たフウは、一つため息をつく。
「全くゲーム中毒で厨二病ニートのいとこを持つと……」
そこへ、ゆめがやって来て同じようにため息をつく。
「その気持ちわかる。私もワガママで、課金中毒と男性依存のお姉様を持っているか……」
「あなたの方が問題児よ!」
ももかは、ゆめの頬を強くひっぱたいた。
ゆめは軽く吹き飛ばされ、その衝撃で舌を噛んでしまう。
「お姉様ひどい……舌噛んだ……」
「捏造しないでくれるかしら」
痛がるゆめをよそにももかは、厳しい顔をしている。
「そちらも大変ですね……」
フウは二人のリアクション茶番に、そこまでするかと若干引き気味であった。
やみが、そんなフウの肩を叩く。
「にぱにぱ。気にしないで。いつも通りだよ」
やみは、彼女にとっていつも見慣れた光景に、にこにこと笑っていた。
「そうなのね……」
それでもフウは、若干引いたままであった。
そこへりんたが、「よく聞いておけ」と言わんばかりに抑揚をつけてこう言ってくる。
「お前ら静かにしろ。騒がしいぞ。これからリオレットが大事な話をするそうだ。気がついたらいた、この地のことやあいつらのことも分かるかもしれない」
ゆめとももかは、お互いに向いていた意識を彼の方に向ける。
「お姉様、りんたどうしたんだろうね」
「いつも通りだと思うけど」
「さぁさぁ、みんな座ってー」
リオレットは麦茶の入ったお菓子を並べ、その場のにいる皆に届くよう声をかける。
皆は、何事もなくすぐに席についた。
それを見るとリオレットもイスに座り、ゆっくりと深呼吸をする。話すのに勇気がいる事なのか、どこか落ち着かない様子だ。
それを見たスイレンは立ち上がり、やみ、りんた、ゆめ、ももかの方を向いて深々と会釈をする。
「マスターは、今からするお話をされるのにとても勇気がいります。それは、この理想郷では大っぴらに話せぬこと。いわば、この理想郷においては、知られ、広められてはならない禁忌事項。もしもこの話が、闇咲邸の悪魔達の耳につけば、彼らの手によって、貴方達も闇に葬り去られるでしょう。そのくらいの事なのです。貴方達が単なる、この理想郷に迷いこんだだけの者なら、マスターもお話などされないはずです。今から話されることは、どうか心の内に留めておいてください。私たちからのお願いであります」
スイレンは、礼をして締める。フウ、メイル、ヒスイも続けて礼をした。
その後、心の整理が出来たのか、リオレットは口を開いて話し始める───
《アルカディアに蔓延る闇とは一体、なんだろうね…………》




