・理想郷の統治者と侵略者編ー4.勝者と敗者の行方
見事に勝利を収めたユウリ。空間上で一人、清々しい顔をしている。
「ふぅ……ひとまずはスッキリしたかな」
『ゆーりんやったね。因縁も果たせたんじゃないの』
彼の内部からレナの意識が、嬉しそうに語りかける。
『すごい……』
ミライの意識は、今の状況にただ驚いている。
『でも、これで本当に良かったのかな……』
レイナの意識は、嬉しいという気持ちがやまやまながらも心残りがあった。
そんな思いをそれぞれ抱えながら、戦いの場は何事もなかったように閉じていく。
そして四人は、闇咲邸の外にいた。
青空が広がり、地面にはふかふかの芝生がぼうぼうと生い茂っている。そこに心地の良いそよ風がさらさらと吹く。
「に、しても疲れた……」
ユウリは、芝生の上に大の字になって寝転がった。
「お疲れ様」
レナは、そんな彼の口にチョコレートを放り込んだ。
「やっぱり美味しい」
戦いの後の甘味は、戦士の心身に染み渡り癒していく。彼の大好きなチョコレートだが、この時はいつも以上に美味しそうに食べていた。
「クロロ特製ストロベリートリュフだよ」
レナの手には、トリュフが入っているだろう、ピンクの不織布袋がある。
「みーにもちょうだい……」
ミライは手をひらを向けている。
「はい」
レナはミライの手のひらに、トリュフをひとつのせた。
「いただきます……はむっ」
ミライは、小さな口でトリュフをかじった。
「いちご……!」
いつも鬱気な雰囲気の彼女の表情は、一気に幸せで満たされて笑顔になる。
「みーちゃん苺大好きだもんねっ」
レナは、ミライにウインクを送った。
「うん……」
「ところでおねーちゃん、なんか元気ないね」
レイナは、敵に勝利後にも関わらず、一人浮かない顔をしていた。
「なんでもないよ……」
彼女はそう言うと、ただ遠くをぼーっと見つめ始めた。
「おねーちゃん……」
レナも、姉の様子が気がかりになりそちらを見つめていた。
そんな彼女の肩に、ミライが手を置く。
「とりあえず……奇襲でみんな疲れてるから……立て直しだね……」
「そうだね……」
レナとミライも、上を向いて空を眺め始めた。
同じ空を見上げる四人の時間は、雲のようにただ穏やかにゆっくりと流れていた。
「んんっ……」
りんたは目覚めた。ふかふかのベッドの上だ。
今にも沈みそうな夕焼け空が、窓から微かに光を照らしている。
「にぱ……起きたの」
彼の身体の上には、やみが乗っかっていた。
「起きてたのか……。ここは……」
「目覚めたのね」
りんたが寝ぼけていると、栗色の髪の少女がベッドの側に立っていた。
「ここはどこだ……俺たちはメルヘンキャッスル号に乗ってあいつと戦っていたはずだが……」
「夢でも見てたのね。あなたたち、このリオレ荘の前で倒れていたのよ」
少女はそう語る。
「倒れていたのか……ありがとうな」
りんたはまだ寝ぼけながらも礼を言う。
すると、少女は何かを思い出すようにクスクスと笑い始める。
「しかしあのYamisaki Clover、レイナやゆーりんにいきなり突撃するなんて中々無茶するわね」
「いや、元凶はあいつらだから」
「そうだとしても、あれはこの村で真っ向から対抗するものじゃないわよ」
少女は微笑みながらも、その裏は笑い事では済まないと言うような様子だった。
「え?」
「あ、自己紹介を忘れていたわね。私はリオレット。この館、リオレ荘のオーナーよ」
《リオレット…リオレ荘のオーナー。お嬢様風のキャラクターは作っているつもりが、こうして暮らしているうちに染み付いたものだ》
「俺はりんた。で、この子はやみ……」
「もう聞いてるわよ」
「にぱっ」
やみとリオレットは、お互いの方を向いてウィンクをする。
「そうか。助けてもらってすまない……」
りんたは礼を言うと起き上がり、ベッドの外に足を下ろして座る。
「いいのよ。とりあえず今、うちの仲間がごはんを作ってくれてるから、もうしばらくゆっくり休んでね」
リオレットは、とても好意的に接していた。
やみは、後ろからりんたの肩に手をかけ、おんぶをするようにつかまった。
「にぱにぱー……でろぉ」
そして、いきなり溶けた。
突然どろりと溶けてスライム化したやみ。リオレットは、思わず手を口に当てて驚く。
「ひゃっ。溶けてしまったわ!」
「驚かせてしまってすみません……。こら、やみたん?」
りんたは謝罪をすると、後ろを向いてニッコリ微笑んだ。
「にぱー……」
やみはりんたの身体にひっつき、完全にリラックスしている。
「出来れば人前でその姿を見せるなと言ったよね?」
りんたは、やみをにこやかに睨んでいる。
しかし彼女はそれに動じようとはしない。でろんと溶けたまま、気持ち良さそうににぱにぱ……と小さく鳴いている。
「やれやれ……」
りんたはあきらめ、溶けたやみをそのまま背負っていた。
リオレットはそれを微笑ましく見ている。
「仲いいわね。彼女?それとも、使い魔か何か?」
「まぁ……彼女みたいなやつかな」
りんたは一瞬迷い、自信なさげに答えた。
「友達以上恋人未満ってやつ?いいわねぇ」
リオレットは何の裏も取ろうとせずに口元をにやけさせ、羨ましそうにそれを見ている。
「結構相手は大変だがな」
そう言っているりんたの顔からは、日頃の苦労がじわじわと滲み出ている。
それに対してリオレットは、何やらクスクスと笑っていた。
「個性派(?)女子ねぇ……付き合うのは大変だけど、その分普通の女の子との付き合いでは得られない、ドキドキやトキメキがあるんじゃないかしら」
「そうかなぁ?気にした事無いんだけどなぁ……」
りんたは、余韻と共にやみをじっと見つめ始めた。
「にぱ……?」
それに釣られるようにやみも、りんたの肩部分から顔をひょっこりと出した。問い詰めてその化け物のような、でもつぶらな瞳で彼の事をそのままじっと見つめている。
すると、リオレットが横槍を刺してくる。
「あら。二人とも意識してるの?」
「いや?」
りんたは、いたって冷静な様子で前を向いた。
「にぱっ!」
その一方でやみは、頭部を一気に溶かして引っ込んでしまう。
それをみてまた、リオレットはフフフと笑った。
「あらあら。実は恥ずかしがりやさんかしら?」
「そうでもない気はするけどな……」
りんたは苦笑いしていた。
そうしていると、ドアを開けて小学生くらいの少女がやって来た。
「リオレットー。ごはん出来たよー……お客さん?」
少女は、にこにこと笑っている。
「そうよ。さ、ごはんが出来たみたいだしとりあえず行きましょう」
リオレットの一声で、皆は部屋を立ち去るのであった。
《リオレ荘……今のところやみやりんたに敵意はなさそうだけど、どんな住人がいるのかな?》




