・理想郷の統治者と侵略者編ー3.城と異空間の巨人
操縦席の窓の外には、不思議な光景が広がっていた。
辺り一面が水色でそこには、様々な立方体があちこちにたくさん浮かんでいる。所々にある謎の数列はめまぐるしく動き、まるでコンピュータの中のようだ。
「一体ここは……まさか」
りんたは、目をこらして窓の景色やモニターをチェックする。
しかし、怪しいものは何も映ってない。気配すらない。
「おかしいな……何か感じるはずなのだが」
「まさか、また異世界トラップしちゃっためうか?」
ゆめは面白半分、むしろわくわくした様子だった。
その一方でりんたは、真剣に考え込んでいる。
「うーん……」
「りんた?」
ゆめはりんたの顔色をうかがう。
やみは、モニターを指差す。
「にぱ……何か来る」
すると、突然城を覆う巨大な影が現れた。
りんたは操縦桿をグッと握り、モニターを睨みつけている。
「ユウリか……」
すると城を覆っていた影がスッと引いた。と、思えば下から出てきて、操縦席の窓を二つ巨大な目でこちらを覗き始めた。
「いきなりこっちに向かって何かが来ると思ったら、やっぱりお前たちだったんだね」
「そうだが何か文句でもあるのか」
りんたもそれに負けじと、巨大化ユウリを睨み返す。
「ユウリ……嘘でしょ!?」
「りんたと違って優しいと思いきや、これじゃあ化け物そのものめう!」
ゆめとももかは、かつて迷い子だった自分達に優しく接してくれた彼の変貌にただ驚くしかなかった。
「しかし、なんで大きくなってるのー?にぱー」
やみは無邪気にそれを見つめていた。
「やみしゃん!これはきっと陰謀だめう!最初からアイツは優しいメガネ男子ではなく、極悪野郎変態メガネの数十倍は極悪非道な極悪巨人デモニアスゆーりんメガネだったんだめう!」
ゆめはかなり真剣な表情で言った。
「ゆめゆめ?そんなこと言うなら今すぐこいつの生け贄に捧げてもいいんだぜ?」
りんたはにっこりとしながら、これまた危なさそうな押しボタンを手に持っている。
「ひぃぃぃいいいいごめんなさぃぃぃいいいいいい!!!」
ゆめは恐怖のあまり、腹の底からムンクのごとく叫んだ。そして撃沈。
ユウリはその光景を見て笑っている。
「極悪野郎変態メガネの数十倍は極悪非道な極悪巨人デモニアスゆーりんメガネってどういうことだよ」
彼にとっては、この電波ネーミングセンスにもう笑うしか無かったようだ。
緊迫した場の空気はこれにより緩んだのであった。
これで彼らは打ち解け、一件落着……
「……ってそういうことじゃないんだよ」
……な、訳は無かった。
ユウリは眉間にしわをよせ、目つきを鋭くする。
「この前はよくもやってくれたな」
「いきなりコソドロして襲いかかってきたのはそっちではないか。そんなに巨大化してひねり潰そうとでもいうのか」
りんたもまた、笑顔一つなくユウリを睨みつけていた。
一方でやみは、ぶつぶつと呟いていた。
「ゆーりん、ゆーりん……」
「何よそれ。この状況で敵陣でも推すの?」
ももかは空気を読んで、やんわりとやめるように促す。
「ゆーりん、ゆーりん……」
その隣ではゆめもそう呟きながら、手を上下に動かしていた。
「ゆめまでやめなさいよ」
ももかはゆめの手を抑えた。
ゆめは、きょとんとしながらそちらを向く。
「めう?」
「めう?じゃないでしょ。今真剣なところよ」
「やみしゃんが呟いてて響きが良かったからつい……」
「だからって呟いていい訳じゃないでしょ。ほら」
二人が前を向くと、ユウリの瞳が負のオーラを出してこちらを睨みつけている。
それを見た二人は威圧で言葉が出なくなった。
「ゆーりん、ゆーりん……」
その一方でやみは、まだゆーりんコールをしている。
「いい加減やめろ」
「にぱ?」
彼女はコールを止めた。隣と前から、鋭い視線が向けられていたのだ。
「にぱっと」
まるでそれをごまかすかのように、操縦席のスイッチを押す。
ミサイルの発射音が鳴り響く。同時に今まで遮られた視界が開けた。
「取り逃がしたか」
りんたがそう言うと、巨大化した彼の全体が捉えられる距離にユウリが現れる。
彼には氷の結晶のような六枚の羽がついていた。それと、前に会った時にはついていなかった、トランプのマークをかたどったモチーフがついたペンダントやウォレットチェーンがついている。
そこへももかのダメ出しが入る。
「なんか似合ってない。私の好みじゃないわね」
「誰もお前の意見なんてもとめてないめう」
ゆめはジト目でももかを見た。
「それよりお前ら、しっかり掴まっとけよ?」
りんたは、操縦桿に手をかけている。
ゆめとももかは、彼の言われる通り安全バーについている手すりをしっかりと握った。
「城型要塞ロボ・メルヘンキャッスル、戦闘形態トランスフォーメーションにぱ!」
やみはスイッチを押した。
すると、城はガタガタと音を言わせながら手が生え、足が生え、二足歩行ロボットへと変化していく。そのロボットの片手は銃、片手は剣、前面や型には砲台がついている。
「トランスフォーム完了。りんた……ろこせ!!」
「おう!」
りんたは操縦桿を目一杯引き、ユウリに向かって急発進する。
一方のこちらも黙ってはいない。
「クィーンスペード召喚!」
ユウリは、先端がスペード型の杖槍を出現させて手に持つ。
「いくの!マシンガン起動!」
城型ロボは、片腕のマシンガンから弾幕をユウリにぶっ放した。
「結界発動!」
ユウリは結界を張り、その全弾を弾き飛ばした。
「結界かよ……くたばれ」
りんたは歯を食いしばった。
「前から無理なら背後をつくの。テレポーテーション、にぱっと」
やみは、ボタンをポチッと押す。
すると、城型ロボが瞬時にユウリの背後に移動した。
「このまま悪いメガネをやっつけるの」
「危ない!!」
りんたが思いっきり舵を切る。
背後では、ユウリが杖槍を振り下ろしていた。
「取り逃がしたか……と、見せかけて」
ユウリが、杖槍を城型ロボに振ってぶつけた。
城型ロボは、野球ボールのごとくぐるぐると回転しながら飛ばされる。
「うわぁぁぁあああああ!!」
ロボの中では、搭乗者たちの悲鳴が響いていた。
「きゃっきゃっ」
約一名楽しんでいるゴスロリっ娘はいるが。
「なんとか立て直すぞ……!」
りんたは、操縦桿をグッと引く。
しかしその努力もむなしく、その先にはユウリが待ち構えていたのだ
「それっ」
ユウリは、杖槍をバットのように勢いよく振った。
城型ロボは先ほどよりも強い勢いで回転する。
「うわぁぁぁあああああ……」
ロボの搭乗者は、今度はあまりの回転数に全員目を回していた。
「ぐぐっ……おえっ……」
操縦者のりんたも、意識をちゃんと保つのに背いっぱいであった。
ユウリは、また城型ロボの動線上に瞬間移動する。
「ふっ……結局そっちの名前を聞いてなかったけど、これでお別れになりそうだね」
そう呟くと、杖槍に魔力をこめ始めた。スペードの中心部の菱形の鋼に魔力が溜まっていき、段々と白と黒、二つの光が渦巻く。
城型ロボは、ぐるぐると回りながらこちらに向かってくる。
「ブライト&ダークブロッサム!!」
ユウリは詠唱し、杖槍を前に突き出した。二色の光が放出され、互いに渦巻き、花びらと化して城型ロボを包み込む。
ロボ内部の四人は意識もなく、その嵐に巻き込まれるしかなかった。




