・Another Viergeのキャンプ編ー7.炎の魔法少女
ももかの拳に光が集まる。彼女はそこに何かがあるような無いような、暖かい感触を感じる。
「なんだっ」
クレムが眩しそうに光を手で覆いながらそれを見ていると、なんと、ももかの拳の間から杖が出てくるではないか。わ
「どういうことっ……」
これは本人も驚いていた。
やがて光が収まると、二人はその杖の全貌を見る。
それは魔女や仙人が使っているような重厚な木の杖だ。茶色に塗られた長い杖の先には、赤黒い宝玉が木にちょこんと座るようにあしらわれている。
「これは……」
ももかは何かに操られるようにして杖を手にし、クレム達の方へ向けた。
すると、杖から業火が螺旋を描き、彼らをその炎で燃やし始めたではないか。
「わっ」
クレムは慌てて魔法を唱え、自分たちの真上から雨を降らせた。炎は鎮る。
「私……魔法が?まさか」
ももかは、これが夢だと思っていた。しかし、今の彼女はこれが夢でもよかったとすぐに考えを改める。
「これでゆめの仇を打てるわ……!」
ももかは、杖をぎゅっと握り込んでいた。それと連動して、杖も赤く不気味に光る。
「ベリィ、あいつを食べていいよ」
「グァアアアーーッ!!」
クレムがももかを指差すと、ベリィは彼女に向かって跳ぶ。
「喰らえ化け物どもがぁああああ!!」
ももかは、杖を大きく動かし炎を振りまいた。炎は、ベリィの身体を包みこみ焦がしていく。
「おやおや」
「グァアアアアアア!!!」
と、思ったらももかの背後からベリィが襲いかかってくる。
ももかはまたすかさず、杖をベリィに向かって勢いよく振った。
「グギャァァァアアアアア!!!」
今度は攻撃がしっかり当たったようだ。ベリィは、火傷に悶えている。
クレムはベリィの元へとかけ寄る。
「ベリィ!?……」
「何よこれ……」
ももかは反射的だったとはいえ、未だに状況を完全には理解できずにいた。
「貴様……やってくれるな」
クレムは、ベリィの身体にそっと触れた。
「グァアアアアアア……」
するとベリィは、唸り声を上げて立ち上がる。さっきまでのダメージを全く感じさせない威勢のよさだ。
「僕も加勢するのが手っ取り早いのだろうけど、たかが女一人に向かって情けないからね。僕はしばらくベリィがそこのピンクを潰してくれる所をじっくりと見させて貰うよ……」
クレムはそう言うと、さっと後ろに下がった。
「卑怯者!!」
ももかはすぐさま叫ぶ。
「そんな事言っている場合かな?」
ベリィが、まるでクレムと入れ替わるようにしてももかへ飛びついてくる。
「きゃっ」
ももかは、間一髪それを避けた。
それもつかの間。ベリィは、ももかを大きな前足で踏みつける。
「ぎゃっっ!!」
「ジュルル……ゥ」
ベリィはヨダレを垂らしながら、前足でももかを自らの真下に寄せた。ももかの頭上からは、ベリィのヨダレがポタポタ落ちてくる。
「うわっ。汚い!」
ももかは、ベリィの足指を杖で突き刺した。
「ギャッ」
ベリィは、チクッとした痛みに足を退ける。
ももかはその一瞬を突き、ベリィからすぐに離れて体制を整えた。
「グルルルル……」
ベリィは、ももかを恐ろしい形相で睨みつけた。
「何よ。私の魔法受けてみなさい!」
ももかは杖を振り、ベリィの目玉に火の玉をぶち当てた。
「ギャアッ!!ギャアアッ!!」
ベリィは、顔を地面に擦り付けてもがいている。
「ふっ。案外弱い設定ね。なら余裕!」
ももかは自信満々な様子で、目の前で杖をぐるぐると回す。
そして詠唱する。
『プロミス・マジック・イングニート!!』
しかし、ベリィの真下からは紅炎のもやが少し出るだけ。彼女自体は全然熱がっている様子はない。
「何よ。不発?」
ももかは、面倒臭そうに杖をもう一振りした。
すると、ベリィの足元から炎柱が勢いよく立ちのぼる!それは天井を突き抜け、塔の上部を超えている。
「グギャァァァアアアアアアアアア!!」
ベリィの断末魔が響く。
「ベリィ!?」
クレムにとってこれは予想外の事態だった。驚くもつかの間、目の色を変えてももかを睨みつける。
「おーのーれぇ……!」
クレムは強く睨みながら、むくむくと大きくなり、みるみるうちに竜の姿へと変わっていく。
一方のももかは、先程の魔法でちょっぴり浮かれていた。
「私はやっぱり最強だね!」
「グォォォオオオオオオ!!」
クレムは咆哮を上げる。
「うわぁっ……えっ……!!」
ももかはクレムの方を見た。突如目の前に現れた巨大な竜の迫力に怯え、足をがくがくとさせている。
クレムは容赦なく、ももかに向かって炎を吐いてくる。
「うわっ」
ももかは間一髪で避けた。首に巻いているマフラーの裾が、火の粉に当たり焦げた。
「貴様ァ……!タダデ済ムト思ウナヨォォォォオオオオオオ!!」
クレムは、雄叫びを上げて燃え盛る業火を吐き出した。その炎は確実にももかをとらえ、微塵もなく焼きつくそうとしている。
「うわぁぁぁああああああ!!」
彼女の無意識は、もうダメだと悟っていた。
その時だった。
何かが炎を遮った。それは、流れ星のように黒い光を描いてクレムを押し倒す。
「グフォアアッ」
クレムは血を大量に吐きながら、その巨大な身体でズドンと倒れた。
ももかは砂煙舞い上がる中、その何かが起こってから、そちらをじっと見つめていた。一旦状況を頭の中で整理する。
「ふぅ……」
助かったことが認識できると、改めて安堵のため息をついた。
「危なかったな」
聞き覚えのある声だ。
「りん……た……?」
そんな中、目の前に現れたのは、クレムと同じくらいの大きさはある真っ黒な竜だった。
「……えっ」
ももかは、唖然とした。
「……えっ、ってなんだよ。せっかく助けに来てやったのに……」
りんたは、サファイアのような瞳を憐れむかのようにうるわせている。
「だってりんたが竜だなんて。ねぇ」
ももかは、面白おかしくクスクスと笑った。
りんたもこのまま負けるにはいかない。
「じゃああのまま焼かれても良かったのか?ビッチの丸焼きにな」
りんたは、竜の貫禄を忘れさせる程ニッコリと笑った。
「あんたやっぱり怖いわ……」
ももかは、微かに身体を震わせながら引いていた。
「どのような姿でもいつものことだろ。で、ゆめはどうした?」
「これだけど」
ももかは、ワゴンの上の大皿に乗っているブタ……ゆめの丸焼きを指さした。
りんたはそれを見る。
「ブフォッハハハハハ…………哀れな姿だな」
あまりの変わりように彼は笑いを隠せなかった。その後、クールな台詞ですぐにごまかすが。
「りんた……笑ったな……!」
本人にはどうやら丸聞こえだったようだ。例の丸焼きからはなんとも言えない怨念がこみ上げている。
「ゆめも無事だったか」
「そうね」
見事に流された。
「お前ら……!許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない───」
ゆめは丸焼きのまま、身体をむくっと起こしてワゴンから降り、立ち上がる。そして、両拳をぐっと握って力をため始めた。
「落ち着け!」
りんたは咆哮を発する。
「ゆめのくせに何よ……」
ももかは、恐る恐る杖を構える。
その間にも、ゆめの腕肉はぴくぴくと蠢き、全身の肉はむくむくと筋肉の形を作るように膨らんでいく……
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない…………!!」
ゆめが少しずつ、どんどんと大きくなっていく。
「そんな……やめてよぉぉおおおお!!」
ももかは叫び上げた。
「グシャァァアアアアアアアアア……!!」
ゆめの背後からは、おどろおどろしい闇が現れる。その闇は、彼女を瞬く間に包み込んでいく……。
「やめてぇぇぇえええええ!!」
《次回へ続くの♪》




