Another Viergeのキャンプ編ー 6.ラズベリー・メイデン
《前回のお話。ももかは宴にて、クレムに料理を勧められる。誘惑に惑わされるも、やみの忠告を思い出して断った。
急に態度が変わった彼女に戸惑うクレムの前に、謎の少女が現れる。これからどうなるのかな……ふふふ》
その少女はラズベリーのような色の髪と、ブルーベリーのような瞳を持ち、口元はチョコレートのような茶色のマスクで隠している。ショコラカラーのゴスロリ調のドレスとマッチしている。
少女はつぶらな瞳で、じっとももかを見つめている。
クレムは、物欲しそうな彼女の存在に気づいた。
「べリィ。食べたいの?」
するとベリィはこくり、とうなづいた。
「そうか。ご飯はここに用意してあるからな」
クレムは大皿に被せてあった蓋を取った。
「……!」
ももかは、大皿料理を見るやショックを受けてしまう。
そこには丸裸で、豚と人間を混ぜたような姿のふくよかな少女がいた。体の周りには付け合わせの葉菜やパセリが盛られ、体の上にはソースがかけられており、少女本体は皿の中に収まるように身体を抱えて寝転がっている。豚の丸焼きそのものだ。
「ぐー……!じゅるる……」
一方のベリィはそれを見た瞬間、今にも食べたそうな目で釘付けになり、口からヨダレを垂らしている。
「おやおや、早く食べたいのか」
クレムは、まだよと言うようにベリィの頭をなでている。ベリィもまた、主の前でヨダレを垂らしつつ大人しくしていた。
そんな中、ももかは料理にされている少女の顔をまじまじと見ていた。
なんと、その正体はゆめだったのだ。彼女自身はその丸々とした体を横に向けたまま、すぅすぅと眠っている。
ももかは、すぐに彼女の体をゆすって起こそうと試みる。
「ゆめ!これはどういうことなの!!ゆめ!!起きろ!!」
「どうかしたのかい?」
そうしているとクレムが、隙をつくかのようにももかの視界に現れた。彼は不穏な様子で、ニッコリと微笑んでいる。
「これってどういうこと?ねぇ……」
ももかは混乱していた。
「おやおや、ベリィの事が気になるのか?」
クレムは平然とした口調で問いかける。
「まさか、ベリィって……」
ももかは、今度はベリィの方を恐る恐る見た。
ベリィのマスクがはらりと外れる。
「えっ……」
「グジュル……グァー……!!」
ベリィのマスクの下に隠されていたのは、輪郭部まで裂けたような大きな口。ガバッと開いた口の中には、肉を切り裂くためだろうか、鋭い歯と牙が生えている。
「ひっ……」
それを見たももかは、恐怖のあまり顔が真っ白になった。
「おやおや、そんなに驚いたのかい?」
クレムは、平然とした様子で彼女に微笑みかけている。
「……この人でなしグレン!!」
「僕はクレムだよ?」
「それは私の妹なの!!例え雌豚でも、かけがえのない存在なのよ!!」
ももかは、人の名前を間違えながらもそう叫び放った。その後の彼女は息を荒げている。
クレムは、それを聞くと思い出し笑いをする。
「フフフ……そうかい。ベリィ、食べていいよ」
彼は指を鳴らした。
「グァアアアーーッ!!」
それと同時に、すっかりとお腹をすかせたベリィがゆめに向かって口を目一杯開く。
「やめろぉぉぉおおおおお!!」
ももかはベリィを止めようと、とっさに彼女たちの元へと飛び込んだ。
「ギャァァァアアアアアアア!!!!」
獣のようなベリィの叫び声が部屋中に響く。
「……っ」
ももかは、屈みこんでいた。一瞬のうちに何があったのか彼女には分からない。でも、何の痛みも感じていない。辺りは三途の河や花畑などではなく、クレムの塔の一室だ。
「お姉……さまっ……ブヒッ」
足元を見ると、料理にされているゆめが薄ら目を開いていた。
「ゆめ?大丈夫?」
「何があったの……ブヒッ。お姉様は今ここで何をしてるの……ブヒィ」
心配するももかとは裏腹に、ゆめはとても穏やかな表情だ。
「あなた今食べられかけていた所なのよ?勝手に何か食べて豚になったと思えばこうだし……本当に心配したのよ?」
ももかの表情は、迷子の子供を見つけたお母さんそのものだった。あまりの心配と恐怖からか瞳をうるませ、今にも涙がこぼれ落ちそうだ。
「感動の再会に浸っているところ失礼。ベリィの食事に駆け寄るだなんて妙な話だとは思ったが、まさか姉妹だったなんてね……似てないけど。クスクス」
クレムは、怪しい笑みを浮かべていた。
ももかは、彼に向かって厳しい視線を示しながら問いかける。
「あんたって本当人でなしね。豚ゆめが人間だってこと分かってたんでしょ」
クレムは、図星のごとくクククと笑っていた。
「……まぁね。本当はこんな事言いたくないけど。ベリィは“人喰い兎”だから」
彼は指を鳴らした。すると、背後からは 天井まで届くほど巨大な影が現れた。共に「グルルルル……」という唸り声と、耳が天井につくほど巨大で赤黒い兎が現れる。
「何よこれ……」
ヨダレを垂らしながらこちらを見つめる巨大兎に、ももかはおののく。
「喰われる……ブヒッ」
ゆめも恐怖を感じている。
一方のクレムは、二人が恐怖を感じているのを心外に思っていた。
「そんなにベリィが怖いのかな?僕にとっては愛しの可愛いベリィちゃんだよ。ね、ベリィ」
ベリィは、ヨダレをだらだらと垂らしながらうなづいた。
「あんたら……本当に化け物ね!」
ももかは、クレムとベリィを指差して強がっていた。
クレムは、フッと笑いを見せるとこう続ける。
「化け物?いい気味だね。改めまして僕はクレム・ブ・リューレ。このブッ・シュド・ノエルの塔を創設し支配する魔神竜」
「ま、魔神……?」
ももかは、強がっていた態勢を一気に崩す。
「急に弱くなってどうしたんだい?所詮、貴様らの目的は分かっていたのだよ。これだろ?」
クレムは手のひらを返す。すると、その直上の空中から、目にも眩しい黄金の果実が現れた。
ももかは、そのまばゆさに目を細めながら反論する。
「そんなの決めつけないでよ!確かに探し物はあるんけれど、それは何か私にも分かってないんだから!」
「金色に輝くその果実は人々を魅了し、禁忌にまで手を触れさせましたとさ」
「何よそれ。意味不明」
「それより頭上、気をつけた方がいいんじゃないですか」
クレムに言われるがままに、ももかは上を向く。そこには、大きな口を開けた魔獣が頭上に迫っているではないか。
「うわぁぁあああああああああああ!!」
ももかは、とっさにその場を離れる。
その直後ベリィが、彼女がさっきまでいた所の物を丸々食べてしまう。
「ぴぎゃぁああ……!!」
それと同時にももかには、ゆめの悲鳴が一瞬だけ聞こえた。
「ゆめぇえええええ!?」
ももかは、再び魔獣の方へと手を伸ばす。
「ククク。いい気味ではないか」
クレムは、それを見て笑っていた。その悪意ある笑みは、最初の頃とは全く別人である。
「何よ悪魔……こっちは仮にも妹を失ってるのよ!!」
ももかは涙を流しながら、クレムの首根っこを掴んでいた。
クレムは彼女を睨み付けると、逆にももかを地面へと突き飛ばした。
「きゃっ!!」
「妹がなんだ?お前の見捨てた妹だろ?そんな哀れな子豚ちゃんを、僕は拾ってあげたんだよ。それに、今こうやって最後のチャンスを与えてあげたんじゃないか。それでお前は自分を選んだ。それだけだ」
ある意味残酷な事実をクレムによって突きつけられたももか。このまま折れる訳ではなく再び立ち上がる。
「そんな論理おかしいわよ!!あの状況で自分を守るのは当たり前じゃない!!」
「ならどうしてそう見捨てた者の死を嘆く?」
クレムは、ももかを見下すように見ている。
「それは…………生意気でも豚でも私の大切な仲間だからよ!!」
ももかは自らのこぶしを握り、迷いがない様子でそう言い返した。




