Another Viergeのキャンプ編ー4.豚と魔法少女の大冒険
その頃、やみとりんたはというと。
「また釣れたよー」
ご機嫌そうなりんたが持っている竿の先には、アイシングクッキーで出来たような色合いの魚。うねうねと動き、水しぶきをあげながらソーダの湖から釣り上げられる。
「可愛いのー。にぱぁ」
やみは、釣り糸の先にぶら下がった魚をつつく。魚はビチビチと動き、活きの良さを見せつけている。
「ねーねー」
やみは、魚をつつきながらりんたの方を向く。
「ん、何だ?」
「そーいや、あいつらちゃんとあの忠告守ってるかなぁ……」
やみは、にこにことしながら心配していた。
「さぁ。知らね」
りんたは魚を針から外すと、また釣り糸を湖に投げ入れるのであった。
そして、雌豚とももかは。
「ブヒブヒ……」
雌豚ゆめはそこらの物を見るや、手当たり次第にグチャグチャと食い荒らしていた。
「ゆめー。何豚みたいに……ってもう豚だったね」
ももかは、呆れてため息をついている。
しかし、雌豚ゆめはというと。それでも構わずにそこらにあるものを片っ端から食い荒らしている。
ももかは、それを見ているうちに嫌悪感が増し、だんだんイライラしてきた。
「この雌豚……」
それでも、ゆめは一向に食べるのをやめようとしない。ひたすらムシャムシャと、飴細工で出来たような葉っぱを食べている。
ももかは、心に繋がっていた糸がプツンと切れた。
「気づかないならいいや。放っておこ」
ももかはそう言うと、ゆめを放置してそっぽを向いた。そして一人、塔に向かって歩き出すのである。
一方のゆめは、全く気づかない。餌に夢中になってむさぼり食う姿は、まさしく豚の名に恥じないのであった。
しかし、これが更に冒険を大変な事にしようとは……。ももかとゆめ、それぞれがまだ思っていなかった。
「おや、これはいい餌になるな……」
ももかは、一人森の中を進んでいた。
これはゲームの世界だからか。人気のない森で木が生い茂る中、自分の足場は綺麗な野道が続いている。
「本当よく出来てるわね……」
ももかが辺りを見渡していると、ぐぅ……と腹の音が鳴った。
「そう言えば、お腹すいたなぁ……」
森の中は、ほんのりと甘い匂いがぷんぷんと漂っている。それが、腹が減ったももかの五感を刺激し、誘惑する。
そんな彼女の目の前に、赤いリンゴの木が現れた。なっているリンゴの周りは、赤くツヤツヤしたキャンディのようなものがついている……りんごあめそのものがリンゴの実としてなっているようだ。
ももかは、すかさず手を伸ばした。
しかし、その時。
『……ブヒッ』
豚になったゆめが、ももかの目の前を横切る。
「ハッ!」
……ように見えた。ももかは我に返る。
リンゴと手の距離は残り数センチ。周りには誰もいない。
ももかは、はぁ、とため息をついた。
「豚になる所だったわ……。全く。ノエルの塔って一体どこにあるのよ……」
そして、そうグチグチと言いながら再び森の中を歩き出そうとした。
すると。
「お嬢さん、こんな森の中でどうしましたか」
背後から、優しい少年の声がももかを呼び止める。
ももかが後ろを振り向くと、そこには見た目十二、三歳くらいであろう美少年がいた。白い肌、カラメルがけのプリンのようにトップが茶色でサイドが白金のツートンヘア、クリーム色のブラウスに、茶色のベストとかぼちゃ型のハーフパンツ。まるで、プリンを擬人化した王子様のようである。
「はい……」
ももかは、どことなく落ち着かない様子で小さく答えた。
その美少年は色違いではあるものの、さっき出会ったゲーム(この)世界でのりんたを美少年化したかのように似すぎているのだ。ちゃんと、竜の角と羽と尻尾まで生えている。
それともう一つ。彼女は、その美少年を見て顔を火照らせている。何かと憎たらしいあいつに似ているのに惚れていた。
「どうしたの?熱でもあるのかい?」
美少年は、足をふらつかせているももかを抱きかかえ、優しい表情で彼女に微笑みかけている。
「い、いや……大丈夫です……」
ももかは、彼に対する熱量が高すぎてオーバーヒート状態と化していた。
美少年の腕に、ずっしりとももかの体重がかかる。
「大丈夫?僕の塔で休むかい?」
彼は慌てずに、紳士的にももかに話しかけた。
「い、いいんですか……?」
ももかはクラクラする中、言葉を発すのもやっとな状態だった。
「ええ」
美少年は、にっこりと微笑んだ。
ももかにとってそれは、奴の悪魔の笑みではない。王子様の天使の微笑みである。
ももかは、目を半閉じにしながら聞く。
「ありがとう……。ところで……、お名前は……」
「僕はクレムだよ。君は?」
「も……も……か…………」
ももかは、自分の名前を言いながら眠りに落ちていった。
それを見たクレムは、フフフ、と笑う。
彼は、眠りについたももかを背中にのせると、プリンのような色の竜の姿へと変化する。そのまま、ブッシュ・ド・ノエルのような見た目の塔へ向かって飛び立つのであった。




