第8話 報告
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レオルド殿下が立ち上がり、一歩前へ出た。
「それでは、魔王討伐についてご報告いたします」
よく通る声が玉座の間に響く。
「我々は前線拠点まで進出したのち、魔王城への攻撃を決行しました。しかし、その直前に私が呪いを受け、動けなくなりました」
あのときの殿下は顔色も悪く、とても戦える状態には見えなかった。
「聖女ルシエラには私の治療のため拠点に残ってもらい、アルト、ガイル、フィーネの三名が魔王城へ向かいました。その後の城内での出来事については、帰還したアルトから受けた報告となります」
レオルド殿下が一度こちらへ目を向ける。
俺は黙って頷いた。
「アルト、ガイル、フィーネの三名は魔王城へ到達し、城内の魔族と交戦しながら玉座の間へ進みました。そこでガイルが負傷して意識を失い、フィーネも魔力を使い果たして戦闘不能となりました」
玉座の左右に並ぶ人たちは、誰一人声を上げずに聞いている。
「最後に残ったアルトが、一人で魔王と戦いました。そして――」
わずかに間を置き、殿下は言った。
「魔王を倒しました」
玉座の間のあちこちから、小さな声が上がった。
「本当に……」
「では、魔王は……」
何人かの視線が俺に向けられる。
俺もようやく、魔王を倒したことが陛下へ正式に伝わったのだと実感した。これで各国にも知らせが届き、戦争も終わるはずだ。
「静まれ」
陛下が言うと、広間の声が少しずつ消えていった。
「レオルド。魔王が討たれたことに間違いはないのだな?」
「魔王の肉体が倒れたことに、疑いはないと考えております」
妙な言い方だと思った。陛下も少し眉を寄せる。
「どういう意味だ?」
レオルド殿下は一度目を閉じ、少し間を置いてから陛下をまっすぐ見た。
「私は、魔王が完全に消滅したとは考えておりません」
今度は、玉座の間がはっきりとざわついた。
俺はレオルド殿下を見る。
魔王を斬ったのとほとんど同時に光った、巨大な魔法陣。あのことなら、俺も殿下たちに話している。
「続けよ」
「はい。アルトの報告によれば、魔王は死の間際に巨大な魔法陣を展開しました。アルトが剣で魔王を斬ったのと、その術が発動したのはほぼ同時だったそうです」
俺が話した通りだ。
「術の発動後、魔王の肉体は倒れました。しかし、その後アルトにも異変が起きています。彼は玉座の間で意識を失い、次に目を覚ましたときには、それまで負っていた傷がすべて治っていました」
魔王の術の話だったはずなのに、気づけば俺の傷の話になっていた。
「傷が治った?」
陛下が俺を見る。
「帰還したアルトの衣服には、戦闘でできた大きな裂け目と大量の血が残っていました」
「治癒魔法を使ったのではないのか?」
「アルト自身に確認しましたが、彼は治癒魔法を使えません」
殿下が話していることに嘘はない。それなのに、なぜそれを今、これほど大勢の前で話すのかが分からなかった。
レオルド殿下がルシエラを見る。
「ルシエラ。お前が確認したことを話してくれ」
「はい」
隣にいたルシエラが立ち上がった。
いつもと変わらない落ち着いた声だった。
「アルトが前線拠点へ戻ったあと、わたくしが身体を診ました。傷がすべて治っていたことに加えて、もう一つ、それまでにはなかった変化を確認しています」
「変化とは?」
「魔力です」
陛下の問いに、ルシエラは迷わず答えた。
「アルトの身体の中に、以前には存在しなかった非常に大きな魔力があります」
俺は思わずルシエラを見た。
あのとき、もう分かっていたのか? それなら、どうして俺には何も言わなかったんだ。
「聖女よ」
陛下がルシエラへ尋ねる。
「以前にはなかったと言い切れるのか?」
「はい。旅の間、わたくしは何度もアルトを治療していますし、魔力の状態も確認しています。今ある力は、それまでのアルトが持っていたものではありません」
ルシエラはそこで言葉を切り、俺の方を見た。
「そして、その魔力は、魔王のものと同質です」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「魔王と同じ……?」
「勇者の中にか?」
「そんなことが……」
抑えきれない声が、あちこちから聞こえてきた。
外套の中でセレスが動いた。
俺は胸元を押さえることもできず、ルシエラを見ていた。
俺の中にあるのがセレスの力だということは、自分でも分かっている。だからこそ元に戻す方法を王都で探して、ルシエラにももう一度診てもらうつもりだった。
なのに、どうしてこんな話になっている?
「以上のことから、一つの可能性が考えられます」
レオルド殿下が続けた。
「魔王が最後に使った術と、その後アルトに起きた変化。この二つが無関係だとは考えにくい」
「レオルド」
陛下の低い声が響く。
「お前は何を言おうとしている?」
「魔王は最後の術によって――」
そこで、レオルド殿下の視線が俺へ向いた。
「勇者アルトの身体へ憑依した可能性があります」
「……殿下?」
俺の声が、思ったより小さく出た。
「え? な、何を……」
俺はレオルド殿下を見たまま、しばらく言葉が出なかった。
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