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魔王を倒した勇者の俺、今度は魔王として国に追われています ~相棒になった黒蜥蜴は元魔王です~  作者: 椎井 たける
第4章

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第51話 守っていたもの

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

「何を守ってたんだ?」


セレスは俺の膝から前脚を離すと、窓の方へ目をやった。


外では、荷車の車輪が石畳を転がっていく音がする。朝から町へ逃げ込んできた人たちの荷物を、まだどこかへ運んでいるらしい。


「わしが治めておった土地にも、人が暮らしておった。畑を耕す者もおれば、商いをする者もおる。家族を持って、子供を育てて、腹が減れば飯を食う。ここにおる連中と大して変わらん」


門の前で水を受け取っていた親子や、空いた建物へ毛布を運んでいた人たちの顔が浮かんだ。


「そういう連中を置いて逃げるわけにもいかんじゃろ」


「領主だから?」


「それもある」


セレスは窓の外へ目を向けた。


「わしが守ると決めておったからじゃ」


「じゃあ……人族を滅ぼすために戦ってたわけじゃないのか?」


「最初から、そんなことを考えておったわけではない」


「最初から?」


「ああ。戦が始まった頃は、人族の軍を押し返せば済むと思っておった。こちらへ入ってきた兵を追い出して、二度と来られぬようにすれば、それで終わるとな」


「でも、終わらなかったんだな」


「そうじゃな」


セレスは前脚を揃え、その間へ顎を乗せた。


「一度退けても、また来る。土地を取り戻したと思えば、別のところが奪われる。昨日まであった村が、次に報せを受けたときには無くなっておることもあった」


「戦が長くなれば、死ぬ者も増える。知った顔も減っていく。そんなものを何十年も見ておれば、最初と同じ気持ちではおれんよ」


三十年以上。


俺が生きてきた時間より、ずっと長い。


勇者として戦場に出た俺が見てきたものなんて、その最後のほんの一部だったのかもしれない。


「人族の国にも攻めてたもんな」


「ああ、そうじゃな」


「こちらへ来る軍を追い返すだけでは終わらんと思うようになった。兵を集める場所があり、武器を作る場所があり、それを送り出す者がおる。ならば、そこまで叩かねばまた来る。そう考えた」


セレスは少し身体を起こした。


「わしとて、守るだけで済ませておったわけではない」


「人族が嫌いだった?」


「嫌いじゃったよ」


「今も?」


セレスは片方の翼の付け根を掻いた。


「人族全部をひとまとめにして嫌うほど、今のわしは暇ではないのう」


「なんだよ、それ」


「旅をしておれば、いろいろ見るからの」


セレスは俺を見上げた。


「少なくとも、おぬしのような阿呆がおることは知った」


「悪口になってるぞ」


「褒めておる」


「どこがだよ」


言い返すと、セレスは知らん顔で視線を逸らした。


「でもさ」


「何じゃ」


「お前が怒るのは、少し分かる気がする」


「少し、か」


「全部分かるなんて言えないだろ」


両親と暮らしていたノルド村は、もうない。


村を襲ったのは魔物で、セレスが戦っていた相手とは違う。それでも、家も人も失うことがどんなものかは知っている。それを何度も見せられて、それでも憎むなと言われたって、俺にはたぶん無理だ。


「俺も、あの村を壊した魔物が目の前にいたら、今でも許せないと思う」


セレスはしばらく黙っていた。


「でも、だからって全部同じじゃない。お前は人族と戦ってた。俺は魔物と戦ってた。それに俺は、お前を倒すために魔族領へ行った」


「そうじゃな」


「だから……」


何を言えばいいのか分からずにいると、セレスが先に口を開いた。


「無理に言わんでもよい。おぬしも、あのときは自分が正しいと思って戦ったんじゃろ。わしもそうじゃった」


「それで殺し合ったのか」


「まあ、そういうことになるのう」


「嫌な話だな」


「戦など、だいたいそんなものじゃろ」


俺はセレスを倒せば大勢を救えると信じていたし、セレスには俺を倒さなければ守れないものがあった。それなのに、俺たちは互いのことをほとんど知らないまま殺し合っていた。


セレスはまた窓の方へ目を向けた。


「もっとも、わしが守ろうとしておったのは民だけではないがの」


「まだあるのか?」


「土地そのものもそうじゃし、我らが古くから守ってきた聖樹もそうじゃ」


「聖樹?」


「おぬしも知っておろう」


「知ってるけど……古くから守ってきたって、それじゃあ、聖樹はずっと魔族領にあったってことか?」


「そうじゃ。少なくとも、わしらに残る記録より前からな」


聖樹……。勇者になる前から何度も聞かされてきた。

人族にとって大切な場所で、かつて魔族に奪われた――。


「……俺が聞いてた話と違う」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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