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魔王を倒した勇者の俺、今度は魔王として国に追われています ~相棒になった黒蜥蜴は元魔王です~  作者: 椎井 たける
第4章

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第50話 魔王とは

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

「魔王って……何なんだ?」


そう聞くと、ベッドの上にいたセレスは小さく首を傾げた。


「何じゃ、急に」


「いや……」


窓の外では、まだ荷車の音がしていた。


「俺、魔王って魔族全部を支配してる王だと思ってたんだよ。お前を倒せば戦争も終わるって、ずっとそう思ってた」


セレスはすぐには答えず、前脚で片方の翼を押さえながら座り直した。


「まず、わしは魔族全体の王ではない」


「違うのか?」


「違う。魔族領には国がいくつもある。それぞれに治める者がおって、普段は好きにやっておるわ」


「好きにって」


「仲の良い国もあれば、顔を合わせれば揉めるところもある。必要なら手も組むが、元々は別々の国じゃからな」


カリュドリアのような大きな国が一つあって、その上に魔王がいるものだとばかり思っていた。


「じゃあ、お前も国を治めてたのか?」


「そうじゃ。魔王になる前から、一つの領国を治めておった」


「それ、初めて聞いた気がする」


「聞かれたことがないからの」


「で、そんな別々の国が、なんで魔王なんて決めたんだ?」


「人族との戦が広がったからじゃ」


セレスは片方の翼を畳み直した。


「一国ずつ好きに戦っておったら、順番に潰される。そうなる前に、まとまる必要があった」


「それで魔王?」


「そうじゃ。戦の間、諸国をまとめて軍を動かす者が要るからの」


「じゃあ……王っていうより、軍の一番上?」


「それだけでもないが、まあ、おぬしにはそのくらいの理解でよかろう」


「なんだよ、その言い方」


「細かく話せば長くなる」


セレスは大きく口を開けて欠伸をした。


目の前で欠伸をしている黒蜥蜴と、いくつもの国をまとめていた魔王が、どうにも同じ相手には思えない。


「でも、それなら魔王って代々決まってるわけじゃないんだな」


「そんなわけあるか。戦うために選ぶ役目じゃぞ」


「じゃあ、お前が選ばれた?」


「そういうことじゃ」


少し得意そうに胸を張る。黒い身体では分かりにくいが、たぶん本人はかなり偉そうな顔をしている。


「まあ、わしは優秀じゃったからの」


「自分で言うか?」


「事実を言って何が悪い」


「そういうところだよ」


セレスは不満そうにこちらを見た。


「力があるだけでは、あれだけの国はまとめられん。戦のことも分からねばならんし、話の通じぬ連中を相手にすることもある」


「話の通じない連中って、お前も大概だろ」


「誰がじゃ」


「今のところ一番身近にいる元魔王」


セレスが枕元の布を前脚で引っ掛け、こちらへ放った。胸に当たった布が、そのまま膝へ落ちる。


「返せ」


セレスが前脚を伸ばしている。


「お前、器用なことするな」


俺は布をベッドへ戻しながら笑った。


「でもさ、魔王になったらみんな言うこと聞くんだろ?」


「聞くわけなかろう」


即答だった。


「え?」


「各国には各国の都合がある。わしが魔王になったからといって、その国までわしのものになるわけではない。戦に必要なところはまとめるが、それ以外まで何でも好きにできるわけではないぞ」


「もっと絶対的なものだと思ってた」


「人族はそう思っておるのか?」


「少なくとも俺はそう教えられた。魔王が魔族を支配して、人族を滅ぼそうとしてるって」


セレスは黙って俺を見た。


「……なるほどの」


「何だよ」


「いや。おぬしがわしのことを何も知らんかった理由が、少し分かっただけじゃ」


「知る必要がないって感じだったからな。魔王は倒す相手。それだけで」


窓の外へ目を向ける。


「じゃあ俺が倒したのって、魔族の王じゃなくて……戦ってる国をまとめてた奴ってことか」


「ずいぶん雑じゃが、大きくは間違っておらん」


「それなら、昨日あの人が言ってたことも分かるな」


セレスがこちらを見る。


「魔王が倒されてから、人族の軍が前より押してきたって。まとめてた奴がいなくなったなら、そりゃ崩れるところも出るよな」


朝、家財を積んで町へ逃げてきた荷車と、いつ帰れるのか母親に何度も聞いていた男の子の姿が浮かんだ。俺が魔王を倒したとき、その先でこんなことが起きるなんて考えもしなかった。


「お前がいなくなった後は、どうなってるんだろうな」


「さてのう。わしにも分からん」


そうだよな。あれからセレスはずっと俺と一緒だった。


「ただ、わしが消えた後、皆がそのまま綺麗にまとまっておるとは思えん。元々は別々の国じゃからな」


「新しい魔王を決めればいいんじゃないのか?」


「そう簡単なら苦労はせん」


セレスがベッドの端まで歩いてきた。


「それにしても、おぬしは随分と魔王を大層なものだと思っておったのだな」


「だって、魔王だぞ?」


「だから何じゃ」


「名前からして絶対偉いだろ」


「勇者も大概じゃろう」


「俺は別に国を支配してない」


「その代わり、女神に選ばれた勇者として、魔王を倒せと担ぎ上げられておったではないか」


言い返そうとして、やめた。


「でも、お前は自分で引き受けたんだろ?」


「まあな」


「俺は、勇者だから魔王を倒せって言われて、それが当たり前だと思ってた」


セレスは何も言わず、こちらを見ている。


「お前は違ったんだよな。元々、自分の国があって、それでも他の国までまとめる側に回った」


「そうする必要があった。それだけじゃ」


自分の領国だけ見ていればよかったはずなのに、セレスは他の国までまとめる側に立った。


「そんな立場だった奴が、今は俺の部屋でパン欲しがってるんだな」


「誰のせいじゃ」


「……俺だな」


セレスは、今度は何も返さなかった。


あの頃の俺は、こいつがどんな立場で戦っていたのかも知らなかった。


しばらくして、セレスが前脚で俺の膝を軽く叩いた。


「それで、もうよいのか?」


「何が?」


「魔王が何か知りたかったのじゃろ」


「ああ」


「でもさ」


「今度は何じゃ」


俺はベッドの上のセレスを見た。


「なんで、お前がそこまでして戦ってたんだ?」


セレスの目が、ほんの少し細くなった。


しばらく返事はなかった。


「……守らねばならんものがあったからじゃ」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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