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魔王を倒した勇者の俺、今度は魔王として国に追われています ~相棒になった黒蜥蜴は元魔王です~  作者: 椎井 たける
第3章

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第37話 勇者様は死んだの?

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

「……誰から聞いたんだ?」


椅子を床へ下ろしてから聞き返すと、男の子は少し首を傾げた。


「誰って……街の人。みんな言ってるよ」


「勇者様の話?」


近くで別の椅子を運んでいた女の子が会話に入ってきた。それを聞いた子供たちが、一人、また一人とこちらへ寄ってくる。


「勇者様、魔王を倒したんだよね?」


「でも死んじゃったんでしょ?」


「違うよ。魔王に身体を取られたんだよ」


「え? じゃあ死んでないじゃん」


「身体を取られたんだから、勇者様はいなくなったんだって」


王都を出てから似たような噂は何度も耳にしたが、ここで、また聞くことになるとは思っていなかった。


「兄ちゃんはどう思う?」


最初に話しかけてきた男の子が、俺を見上げていた。


「どうって?」


「勇者様、本当に死んじゃったの?」


死んでいない。少なくとも俺自身は、ここにいる。


けれど、この子たちにそんなことを言ったところで、どうにもならない。


「……どうだろうな」


「ほら、やっぱり分かんないんだよ」


「でも兄ちゃん、勇者様に会ったことあるんじゃないの?」


「まあ……あるにはあるよ」


「ほんと!?」


男の子がぐっと顔を寄せてくると、他の子まで目を輝かせた。


「どんな人だった?」


今度はさっきより答えに困った。自分のことをどう説明すればいいんだ。


「どんなって……普通だよ」


「勇者様なのに?」


「勇者だって、ご飯は食べるし寝るだろ」


「勇者様って何歳なの?」


「俺と同じくらいだよ」


「えっ、兄ちゃんと?」


「そうだよ」


「でも、兄ちゃんまだ子供じゃん」


「俺はもう子供じゃない」


反射的に言い返すと、何人かが笑った。


「シスターに聞いてみよ」


「やめろ」


また笑い声が上がる。


「どれくらい大きいの?」


「大きい?」


「背だよ。すっごく大きいんでしょ?」


俺は思わず自分の身体を見下ろした。


「……俺と同じくらいかな」


「えー!」


なぜか何人かが揃って不満そうな声を上げる。


「もっと大きいと思ってた!」


「勇者になったからって、急に背が伸びるわけじゃないだろ」


「じゃあ、強かった?」


「それなりには」


「魔王より?」


肩の上でセレスの尻尾がぴくりと動いた。


「魔王を倒したんだから、勇者様の方が強いに決まってるよ!」


「でも、身体乗っ取られたんでしょ」


「じゃあ魔王の方が強いじゃん」


また子供たちの間で言い合いが始まる。


俺は肩のセレスへちらりと目をやった。尻尾がさっきから落ち着きがない。


「ねえ、じゃあ新しい魔王って怖いの?」


今度は女の子が聞いてきた。


「怖い?」


「だって魔王でしょ。街に来たりしない?」


「来たら、みんな食べられちゃうの?」


「魔王は人を食わないだろ」


思わずそう返すと、セレスが俺をじろりと見た。


「なんで分かるの?」


「いや……そういう話は聞いたことないから」


子供相手だからと気を抜いていると、余計なことまで口にしそうになる。


「じゃあ怖くない?」


「さあな。俺に聞かれても困るよ」


「でもさ、新しい魔王がいるなら、勇者様が倒せばいいんじゃない?」


少し離れたところにいた子が言った。


「だから勇者様はもういないんだって」


「あ、そっか」


あまりにあっさりした返事に、何とも言えない気分になる。


「あれ?」


一人の子が俺の肩を指した。


「背中のこぶが羽になってる!」


「え?」


その一言で、子供たちの視線が一斉にセレスへ集まった。


「ほんとだ!」


「羽だ!」


「見せて、見せて!」


さっきまで勇者の話をしていた子供たちが、今度は俺の周りへ押し寄せてくる。セレスは身体をひねり、俺の首の後ろを回って反対側の肩へ逃げた。


「ちょっと待て。押すなって」


「兄ちゃん、下ろしてよ!」


「触ってもいい?」


「駄目。嫌がってるだろ」


「じゃあ見るだけ!」


仕方なくセレスを肩から下ろして、両手で抱えるように持った。


確かに背中の突起が、数日前に見たときより左右へ少し広がっていた。薄い膜のような部分も前よりはっきりしていて、まだ小さいが、確かに羽らしくなっている。


「飛べるの?」


「いや、これは無理だろ」


「やってみないと分かんないよ!」


「どうするんだよ」


「投げてみようよ」


「落ちたらどうするんだ」


「兄ちゃんが受け止めればいいじゃん」


「ちょっとだけ!」


「駄目だって」


「羽がもっと大きくなったら、この子、鳥になるの?」


「トカゲが鳥になるわけないだろ」


「じゃあ何になるの?」


「俺に聞くなよ」


セレスは知らん顔でそっぽを向いた。


子供たちが好き勝手なことを言うたびに、セレスの尻尾が俺の腕をぺしぺしと叩く。これ以上付き合わせたら、後で文句を言われそうだ。


「はい、終わり。もう夕飯の時間だろ」


「えー」


「また明日見せてよ!」


「こいつが嫌がらなかったらな」


「じゃあ、明日は飛ぶ練習ね!」


「しないって」


それでも子供たちは楽しそうに話しながら、食堂の方へ走っていった。


姿が見えなくなるのを待ってから、セレスを床へ下ろす。


「まったく、好き放題しおって」


「見るだけだっただろ」


「触ろうとしておったではないか」


「ちゃんと止めたって」


セレスはぶつぶつ言いながら、自分の背中を見ようと首をひねっている。


「それで、どうなのじゃ?」


「少しな。前より羽っぽくなってる」


「ふむ……」


何度か身体をくねらせていたが、やはり見えないらしく、しばらくすると諦めた。


「そのうち飛べるようになったりしてな」


「この程度で、どうやって飛べというのじゃ」


「大きくなれば分からないだろ」


「わしは別に空を飛びたいわけではないぞ」


「じゃあ何でそんなに気にしてるんだよ」


「自分の身体のことじゃぞ。気になるに決まっておろう」


そう言うと、セレスはいつものように俺の肩へよじ登ってきた。


「しかし、おぬしも随分なことを言われておったの」


「まぁな。でもまあ、あいつらが悪いわけじゃないよ。聞いた話を信じてるだけだ」


「分かっておる。じゃが、その割には堪えてそうだな」


「そうでもないよ。ただ、ここでもそうなのかって思っただけだよ」


セレスは何も言わなかった。


その時、厨房の方からクラリッサの声がした。


「アルトー、そこにいるなら手伝って!」


俺は返事をしないまま、厨房へ向かった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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