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魔王を倒した勇者の俺、魔王の力を手に入れたせいで新たな魔王にされました ~元魔王は黒蜥蜴になって俺の肩にいます~  作者: 椎井 たける
第1章

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第4話 魔王の疑問

お読みいただき、ありがとうございます。

本日より、1日1話投稿です。

毎日投稿を目指しますので、

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

案内された天幕へ入ると、俺は外套を脱いだ。


「ぷはっ! やっと出られたぞ!」


胸元から這い出した黒蜥蜴(セレス)が寝台の上へ飛び移ると、身体を大きく伸ばした。


「お前、わしを何だと思っておる。ずっとあんなところに押し込みおって」


「仕方ないだろ。外に出したら大騒ぎになるんだから」


「だからといって、もう少し何とかできるじゃろ」


「他に運びようがないだろ」


「わしは荷物ではない!」


俺は適当に聞き流しながら椅子へ腰を下ろした。


寝台の上では、セレスがまだぶつぶつ文句を言っている。


「そんなに嫌なら、王都に帰るときは自分で歩くか?」


「当たり前じゃ」


「俺たちは、馬車で帰るけどな」


「……外套でよい」


「どっちだよ」


セレスが顔を背ける。


外からはまだ兵たちの声が聞こえていた。魔王討伐の話で拠点中が浮かれているらしく、ときどき俺の名前も聞こえてくる。


セレスも入口の方へ顔を向ける。


「随分と楽しそうじゃな」


「そりゃそうだろ。魔王を倒したんだから」


「わしはここにおるがな」


「それはみんな知らないし」


俺が笑うと、セレスは面白くなさそうに顔をそらした。


「これで戦争も終わる。みんな家に帰れるんだ」


「……ほう」


「なんだよ」


「別に」


「何か言いたそうだな」


「今のお前に話しても面倒そうじゃから、やめた」


「なんだそれ」


「ところで、アルト」


「ん?」


「先ほどの銀髪の女。あれが、お前の言っていた聖女か?」


「ルシエラ? そうだよ」


「やはりな」


セレスは前脚を揃えて座り直した。


「聖女と言うからには、やつもなかなかの手練れなのじゃろう?」


「そうだな。ルシエラが後ろにいると、こっちは安心して前に出られる」


「なら、なぜ魔王城へ来なかった?」


「え?」


「城へ来たのは、お前と斥候、それから魔法使いの三人だけだっただろう」


「ああ。ガイルとフィーネな」


「そういう名なのか」


「知らなかったのかよ」


「敵の名前など知らぬわ。お前だって、わしの名は知らんかったじゃろ」


「確かに」


「それで、なぜ聖女は来なかったのじゃ」


「ああ、殿下が呪いを受けたからだよ」


「呪い?」


「そう。魔王城へ入る前に具合が悪くなってさ。それで、ルシエラが治療のために残ったんだ」


セレスは暫く考え込む。


「殿下とやらは、さっきは元気そうだったではないか」


「ルシエラが治したんだろ。殿下も、もう大丈夫だって言ってたし」


「ふむ……」


俺がそう答えると、セレスはまた黙り込んだ。


「なんだよ」


「いや。よく聖女を残してきたものだと思ってな」


「何で?」


「あの王子は、まあ、お前よりは役に立たなそうじゃったから置いてきても――」


「殿下は強いぞ」


「最後まで聞け」


「わかったよ。で?」


「殿下がどれくらい強いかはさておきじゃ。聖女は別じゃ。あの女、回復だけではないのだろう?」


「結界とか支援魔法も使えるよ」


「なら、なおさらじゃ」


セレスは呆れたように俺を見る。


「お前たち、死にかけておったではないか」


返す言葉がなかった。俺は傷だらけだったし、ガイルは吹き飛ばされ、フィーネは魔力を使い切って倒れていた。ルシエラが一緒だったら、あそこまでにはならなかったかもしれない。


「お前がわしを斬ったからよかったようなものの、かなりぎりぎりじゃったぞ。あの聖女まで来ておれば、わしはもっと苦しんだだろうな」


「それは……そうかもしれないけど……。だからといって、ルシエラが殿下を放って来るわけにもいかないだろ?」


あのときは、俺もそれしかないと思っていた。


「まあ、そうなのだろうな」


もっと食い下がるかと思ったが、セレスはそれ以上何も言わなかった。


「ただ、わしなら聖女は手放さん」


「敵だったお前に言われてもなあ」


「敵だったから言っておる。回復されながら戦われる方の身にもなれ」


「それは嫌だろうけど」


「嫌どころではないわ」


確かに、俺にとっては仲間でも、セレスにとっては敵だった聖女だ。


今は、身体に入ったこの力をどうするか考える方が先だ。


「なあ、セレス」


「何じゃ」


「殿下には、お前のことも話した方がいいと思うか?」


セレスの顔がゆっくりこちらを向いた。


「正気か?」


「だめか?」


「当たり前じゃ。ここは人族の陣営のど真ん中だぞ。そこへ『実は魔王はここにいます』と自分から教える馬鹿がどこにおる」


「でも、俺の中にある力を戻す方法を調べるなら、お前のことも話した方が――」


「力のことは好きに話せ。わしのことまで話す必要はない」


「ルシエラなら何か分かるかもしれないぞ」


「あの聖女だからこそ警戒せよと言っておるのじゃ」


「なんでルシエラをそんなに警戒するんだ?」


「聖女だからじゃ」


「理由になってないだろ」


「お前たちにとって魔王がどういう存在か考えてみろ。それと同じじゃ」


そう言われれば、セレスが警戒するのも分からなくはない。


「でも、ルシエラは信用できるよ」


「お前が信用するのは勝手じゃ」


「殿下もな」


「はいはい」


「なんだよ、その言い方」


「お前は少し人を信用しすぎじゃ」


「仲間をいちいち疑ってたら、一緒に旅なんかできないだろ」


セレスはしばらく俺を見ていたが、やがて小さく息を吐いた。


「……まあよい。好きにせい。ただし、わしを見せるなら先に言え。いきなり聖女の前へ放り出すなよ」


「分かったよ」


返事をしたところで、天幕の外から声がかかった。


「勇者様、よろしいでしょうか」


俺が返事をすると、入口から兵が顔を覗かせた。


「レオルド殿下がお待ちです」


「分かった。すぐ行く」


兵が離れるのを待って、立ち上がる。


「だってさ」


「聞こえておった」


「じゃあ入ってくれ」


外套を広げると、セレスが露骨に嫌そうな顔をした。


「またそこか」


「さっき自分で外套でいいって言っただろ」


「もっとましな方法を考えてくれ」


文句を言いながらも、セレスは俺の腕を伝って外套の内側へ潜り込んだ。


「出てくるなよ」


「子供扱いするな」


黒い頭を軽く押し込んでから、俺は天幕を出た。


レオルド殿下の天幕へ向かう途中、さっきのセレスの言葉が何となく頭に残っていた。


ルシエラが一緒なら、魔王との戦いはもっと楽だったかもしれない。それでも、あのとき殿下は呪いを受けていたんだ。ルシエラが残るのは当然だったと思う。


殿下の天幕に着くと、兵に入口を開けてもらい、中へ入る。


「来たか、アルト」


中では、レオルド殿下が待っていた。その隣にはルシエラも座っていた。


二人がいるなら、俺の中に入った魔力のこともまとめて相談できそうだ。


そう思いながら席へ向かうと、レオルド殿下が言った。


「アルト。魔王城での話を聞く前に、一つ確認しておきたいことがある」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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