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魔王を倒した勇者の俺、魔王の力を手に入れたせいで新たな魔王にされました ~元魔王は黒蜥蜴になって俺の肩にいます~  作者: 椎井 たける
第1章

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第3話 英雄の帰還

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

魔王城を出てから、どれくらい歩いただろう。意識がない二人を連れての移動は結構大変だったが、ようやく遠くに見慣れた旗が見えてきた。


「見えた。あそこだ」


俺が言うと、外套の胸元から黒い頭が少しだけ覗いた。


「……あれがお前たちの拠点か」


「ああ。レオルド殿下とルシエラも待ってる」


セレスはそれ以上何も言わず、頭を引っ込めた。


しばらく進むと、見張り台にいた兵がこちらに気づいた。


「……勇者様?」


目を凝らしていた兵が身を乗り出す。


「勇者様だ! 勇者様が戻ったぞ!」


その声で、拠点の中が一気に騒がしくなった。


何人もの兵が門から飛び出してくる。


「勇者様!」


「ご無事だったんですか!」


「悪い。それより二人を頼む」


俺は背負っていたガイルを下ろした。フィーネの方にもすぐ兵が集まり、それぞれ数人がかりで二人を運んでいく。


「二人とも生きてる。ただ、まだ目を覚まさないんだ。ルシエラに診てもらってくれ」


「はい!」


兵たちが駆けていくのを見届けたところで、別の兵が恐る恐る口を開いた。


「勇者様……魔王は?」


その一言で、周りにいた者たちが静かになり、視線が俺に集まった。


「倒したよ」


誰も声を出さない。


聞こえなかったのかと思って、もう一度言おうとしたときだった。


「やった……」


誰かが呟いた。


次の瞬間、耳が痛くなるほどの歓声が上がった。


「魔王を倒したぞ!」


「勝った!」


「戦争が終わる!」


肩を叩かれ、知らない兵にまで抱きつかれる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


押し寄せてくる兵たちに囲まれて、身動きが取れない。


俺が困っている間にも、「勇者万歳!」だの「これで帰れる!」だの、あちこちから声が飛んでくる。


その顔を見ているうちに、俺まで笑っていた。


三十年以上も続いた戦争だ。


中には、俺が生まれる前から戦っている人だっている。


そんな人たちも、やっと帰れるんだ。


「アルト!」


よく通る声とともに、人垣が左右に割れた。


金髪の青年が大股でこちらへ向かってくる。そのすぐ後ろを、長い銀髪の女性が追っていた。


「レオルド殿下!」


「よく戻った!」


殿下はまっすぐ俺のところまで来ると、両肩を掴んだ。


「殿下、体調はもう大丈夫なんですか?」


「ああ。ルシエラのおかげですっかり良くなった」


「よかった」


「それより、本当に魔王を?」


「はい。倒しました」


「そうか……!」


殿下は大きく息を吐くと、そのまま俺の肩を強く叩いた。


「よくやった、アルト!」


周りにいた兵たちがまた沸いた。


「勇者アルトが魔王を討ち取った! この勝利は、ここまで戦い抜いた全員のものだ!」


さっきまで好き勝手に騒いでいた兵たちが、殿下の言葉ひとつで揃って拳を突き上げる。


こういう所は、さすが王太子だ。俺が同じことを言っても、たぶんこうはならない。


「アルト」


ルシエラが俺のところへ来た。


「お帰りなさい」


「ああ。ただいま、ルシエラ」


「ガイルとフィーネは、すぐに診ます。アルトも――」


そこまで言って、ルシエラの目が俺の服に止まった。


「その血……」


「ああ、これは大丈夫」


「大丈夫には見えません」


いつもの柔らかい声だったが、言い切られてしまった。


「いや、本当にもう傷はないんだ」


「傷がない?」


横にいたレオルド殿下も俺を見る。


「その服の有様でか?」


言われて自分の格好を見下ろした。


確かにひどい。脇腹も肩も服が裂け、乾いた血がこびりついている。


「魔王と戦ったときには傷だらけだったんだけど、目が覚めたら全部治ってて」


レオルド殿下の眉がわずかに動いた。


「目が覚めたら?」


「あ、それについては俺もよく分からなくて。ルシエラに聞こうと思ってたんだ」


そのとき、先にガイルたちを運んでいった兵の一人が、天幕の方からルシエラを呼んだ。


「ルシエラ様! お二人をお願いします!」


「ごめんなさい、アルト。その話はあとで聞きます。まずは二人を診てきますね」


「ああ、そうだな。頼むよ」


ルシエラはすぐにガイルたちが運ばれた天幕へ向かい、俺も後を追った。


中では二人が寝台へ寝かされていて、ルシエラがガイルの胸元へ手をかざしていた。


淡い光が広がる。


しばらくすると、強張っていたルシエラの表情が少し緩んだ。


「大丈夫です。二人とも命に別状はありません」


「そうか」


「ガイルは打撲と骨折がいくつか。フィーネは魔力をほとんど使い切っていますので、すぐには目を覚まさないかもしれませんが、休めば回復するでしょう」


「よかった……」


身体から力が抜けて、近くにあった椅子へ腰を下ろした。


生きているのは分かっていた。それでも、ルシエラから大丈夫だと言われると全然違う。


「二人をお願いします」


「もちろんです」


ルシエラが微笑んだ。


その顔を見て、ようやく魔王城から帰ってきたんだという気がした。


「次はアルトです」


「俺?」


「当然でしょう。その格好で何を言っているのですか」


「だから傷は――」


「ないという、その傷を診せてください」


逃げられそうにないので、仕方なく袖をまくると、ルシエラが俺の腕を取った。


「本当にありませんね……」


肩、脇腹と傷のあった場所を確かめていく。


「だから言っただろ?」


「魔王との戦いで、ここを?」


「肩は剣で。脇腹も何度かやられた」


「それが完全に……」


ルシエラが俺の手首に指を添え、目を閉じた。


傷ではなく魔力を探っているらしいので、俺はちょうどいいと思って口を開く。


「ルシエラ、実は魔力のことで――」


ふいに、手首に触れていた指が止まった。


「……ルシエラ?」


目を開けたルシエラは、しばらく俺の顔を見ていた。


「どうした?」


「いえ……」


そう言って、ルシエラは手を離した。


「傷は本当に治っています。身体にも、今のところ悪いところはなさそうです」


「そっか。ならよかった」


ルシエラは頷くと、再びガイルとフィーネの方へ戻っていった。


しばらく様子を見ていたが、邪魔にならないよう、天幕を出ることにした。


外はまだ騒がしかった。


魔王討伐の話は、もう拠点中に広がったらしい。酒を持ち出そうとして上官に怒鳴られている兵までいた。


「気が早いな」


思わず笑ってしまう。


そのとき胸元で、ごそりと動くものがあった。


俺は慌てて外套の上から押さえた。


ここで出てこられたら困る。


「苦しいぞ」


外套の中から小さな声がする。


「もうちょっと我慢してくれ」


「いつまでじゃ」


「あとでちゃんと出すから」


「わしは荷物ではないぞ」


「分かったって」


周りに聞こえないように返してから顔を上げると、いつの間にか天幕を出たルシエラが、少し離れたところでレオルド殿下と話していた。


ルシエラが何かを伝えると、殿下がこちらを見た。目が合ったので軽く頭を下げると、殿下はすぐにルシエラへ視線を戻した。


「何の話だろうな」


「知るか」


胸元から素っ気ない返事が返ってくる。


しばらくして、レオルド殿下がこちらへ歩いてきた。


「アルト」


「はい」


「疲れているところ悪いが、少し休んだら私の天幕へ来てくれないか。魔王城で何があったのか、詳しく聞かせてほしい」


「分かりました」


それなら、セレスのことも話した方がいいだろうか。俺の中に入った魔力も、ルシエラなら何か分かるかもしれない。


そんなことを考えていると、レオルド殿下が俺の肩に手を置いた。


「本当によくやった」


さっき兵たちの前で見せていた顔とは少し違う、いつもの笑顔だった。


「お前が戻ってきてくれて、私も嬉しいよ」


「殿下……」


「さすがは、我らの勇者だ」


照れくさくなって、俺は頭を掻いた。


「俺だけじゃありません。ガイルもフィーネもいたから勝てたんです」


「分かっている。二人にもきちんと報いるつもりだ」


「ありがとうございます」


レオルド殿下はもう一度俺の肩を叩き、天幕の方へ戻っていった。


ガイルとフィーネは無事だったし、残るのは身体に入った妙な力のことだけだ。レオルド殿下とルシエラに話せば、何か分かるかもしれない。


俺は兵に案内され、自分に用意された天幕へ向かった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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