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魔王を倒した勇者の俺、今度は魔王として国に追われています ~相棒になった黒蜥蜴は元魔王です~  作者: 椎井 たける
第3章

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第35話 勇者を見つけた日

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

翌日。


朝食を終えたあと、俺はシスタークラリッサに案内されて、孤児院の奥にある物置へ向かった。セレスはいつものように俺の肩に乗っている。


「古い記録は、ほとんどここに移したの。前の院長がいた頃のものも残ってるはずよ」


クラリッサが扉を開けると、紙と埃の匂いがした。壁際の棚には帳面や書類を束ねた箱が並び、使わなくなった椅子や燭台まで一緒に押し込まれている。


「なんか、色んなものがあるな」


「ちょっと倉庫としても使っているからね」


「この辺りかしら」


「随分あるんだな」


「そうね。これまでここに入ってきた子も出た子も、それなりの数いるから」


「今日中に見つかるかな」


「さぁ、そればっかりはやってみないと分からないわね。勿論アルトも探すのよ」


「それは当然、そうするよ」


俺は棚の前にしゃがみ、クラリッサから渡された帳面を開いた。肩のセレスも覗き込んできた。


しばらく二人で年代を確かめながら帳面を分けていると、クラリッサが声を上げた。


「あ、アルト。あなたの記録があったわよ」


「俺の?」


立ち上がって隣へ行く。開かれた頁の下の方に、確かに俺の名前があった。


その横に書かれていた村の名前で、目が止まる。


ノルド村。


続けて、魔物の襲撃を受けた村から保護されたこと、両親が死亡していることが短く記されている。生年月日の欄には日付がなく、不詳とだけ書かれていた。


「ノルド村……」


名前は覚えている。家があって、父さんと母さんがいて、そこで暮らしていたことも。


「孤児院に来たときのことは、ほとんど覚えてないんだよな」


「そうね。来たばかりの頃は、ほとんど話さなかったもの」


クラリッサはそれだけ言って、また帳面へ目を落とした。


俺も続きを見る。年齢についても確かな記録はなく、当時の様子から判断されたらしい。


「だから俺、生まれた日も分からなかったんだよな」


「ノルド村の記録がほとんど残らなかったからね。あなたを知っている人も、詳しいことまでは分からなかったし」


「生まれた日が分からないのに、よく俺まで調べたな」


「分からなかったからじゃない? 神託の日と違うとも言い切れなかったんでしょうし」


「そっか」


「これ、勇者の調査よりずっと前の記録よね」


「うん」


「なら、次はもう少し後ね」


クラリッサが帳面を閉じ、別の束へ手を伸ばす。俺も元の場所へ戻り、年代の近いものから順番に開いていった。


何冊目だったか、今度は俺が見つけた。


「シスタークラリッサ。これじゃないか?」


クラリッサが俺の横から覗き込む。


その記録には、教会から勇者候補の調査に人が来たことが書かれていた。その当時孤児院にいた子供たち全員について、年齢や出自を確認したらしい。


「確かにこの頃だわ。教会の人が何度か来てたの」


「最初から俺を探しに来たわけじゃなかったんだな」


「ええ。ここにいた子たちを順番に調べてたはずよ」


俺は、その中の一人だったというわけだ。


頁をめくっていくと、同じような記録が何度か続いた。しばらくめくると、俺の名前だけが出てくるようになった。


出自について再確認。年齢について再確認。その後にも、教会の関係者が来たとある。


書いてあるのはそれくらいで、どうして俺だけが改めて調べられることになったのかまでは残っていない。


「この辺から、俺だけになってる」


「そうね」


クラリッサも頁を戻して確かめる。


「覚えてる?」


「少しだけ。知らない大人が何人も来たのは覚えてるよ。同じようなことを何度も聞かれた気がする」


「ずっと困った顔してたわよ」


「そりゃ困るだろ。何で自分だけ何回も呼ばれるのか分からなかったんだから」


「それもそうね」


クラリッサが笑った。


当時の俺には、勇者を探していること自体は聞かされていたと思う。でも、それが自分だなんて考えたこともなかった。


さらに頁を進めると、教会による鑑定を行うと書かれていた。


俺は注意深く次の頁を読む。


すると、そこには「教会による鑑定の結果、アルトを勇者と確認」とあった。


「……この日ね」


クラリッサの声が少し近くで聞こえた。


「ああ」


この日のことは覚えている。細かいところはもう曖昧だけど、周りにいた大人たちが急に騒ぎ始めたので、印象に残っている。


それからしばらくして、俺は孤児院を出た。


「結構あっさりしているな」


「何が?」


「俺が勇者だって分かったときの記録。もっといろいろ書いてあると思ってた」


「これは孤児院の記録だから。教会が何を調べたのかまでは分からなかったんじゃない?」


「そうか」


何を見て俺を勇者だと判断したのか。神託の日に生まれたかどうかも分からない俺が、どうして最後まで候補に残ったのか。


俺が知りたいのは、そこだった。


前後の頁をもう一度めくってみたが、それ以上の情報は見つからなかった。


「鑑定の記録はないの?」


「少なくとも、この帳面にはないわね。他も見てみましょう」


そこからまた二人で探した。


箱を一つずつ開け、紐で束ねられた書類も確認する。途中で肩のセレスが何度か位置を変えた。退屈したのかと思ったが、俺が古い書類を開くたびに首を伸ばして覗いてくるので、どうやら一緒に探しているらしい。


「これも違う」


「こっちは?」


「孤児院を出た子の記録ね」


しばらくして、クラリッサが棚の奥から薄い書類の束を引き出した。


「これは……教会とのやり取りかしら」


机に置いて、一枚ずつ確認する。


物資の受け渡しや寄付の連絡に混じって、当時の教会からの文書が何枚か残っていた。


その中の一枚を読んでいたクラリッサの指が止まる。


「アルト。これじゃない?」


差し出された紙を受け取った。


勇者認定後の手続きについて書かれたものらしい。文面を追っていくと、そこに書かれていた。


勇者認定に関する鑑定書類一式は、ソレグノス聖教国の教会総本山へ送付されていた。


「ソレグノス聖教国に送られたのね」


肩のセレスが身を乗り出す。


俺はもう一度、文面を確かめた。


「みたいだな」


「今も残っているかは分からないけど」


「でも、ここよりは可能性がある」


俺は紙を机の上に戻した。


知りたかったことが分かったわけじゃないが、そこへ行き着く手がかりは掴めた。


クラリッサが俺を見る。


「行くつもり?」


すぐには答えられなかった。


俺が教会へ姿を見せたとして、どうなるかは簡単に想像できる。しかも、総本山だ。


ただ、そこには俺を勇者だと認定したときの記録が残っているかもしれない。


「ソレグノス聖教国か……真反対なんだよな。それに、遠いし」


手がかりは掴んだが、簡単に向かえる場所ではなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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