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魔王を倒した勇者の俺、今度は魔王として国に追われています ~相棒になった黒蜥蜴は元魔王です~  作者: 椎井 たける
第3章

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第27話 アルディア

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

ダリウスたちと別れてから、俺とセレスは街道へ戻らず、そのまま日が傾くまで歩いた。


左肩に乗っていたセレスが、不意に木立の奥へ顔を向けた。


「アルト。あの辺りはどうじゃ?」


見れば、木々の間が少し開けている。近くに人家らしいものもなく、野営するには悪くなさそうだった。


「あそこでいいか」


木立へ入り、周囲をひと通り確かめてから背嚢を下ろす。セレスも俺の肩から飛び降りると、枯れ葉の上を歩き回り始めた。


「今日は随分歩いたのう」


「ダリウスたちと一緒にいた分、あんまり進めなかったからな」


「助けた上に、送り届けるところまで付き合ったのじゃ。当然じゃろう」


「別に後悔してないよ」


「そうは言っておらん」


俺は背嚢を開きながら、セレスをちらりと見る。


「じゃあ何だよ」


「お前は相変わらずじゃと思っただけじゃ」


「……何だそれ」


セレスは答えず、近くに落ちていた枯れ枝を前脚で転がした。俺もそれ以上聞かず、火を起こすための枝を拾い始める。


何本か集めたところで、セレスが言った。


「そういえば、あの商人。困ったら商会を頼れと言っておったな」


「ダリウスさんか。ああ」


「頼るのか?」


枝を拾い上げたまま、少し考える。


「……今はやめとく」


あれがただの社交辞令だったとは思わない。ダリウスは俺たちを検問から庇ってくれたし、最後まで余計なことも聞かなかった。


それでも、商会にはダリウス以外の人間もいる。俺がどこかの店に顔を出したことが、巡り巡って兵士へ伝わらないとも限らない。


「せっかく頼れと言われたのにか?」


「ダリウスさんを疑ってるわけじゃないよ。ただ、今の俺が商会に出入りするのは危ないだろ」


「ふむ」


セレスはそれ以上何も言わなかった。


俺は集めた枝を一か所へ置き、もう一度周囲を見回す。


「それで?」


「ん?」


「商会を頼らぬのなら、これからどうするのじゃ?」


俺は枝を薪の山へ放り、腰を下ろした。


王都から逃げたばかりの頃にも、同じことを聞かれた。あのときは、何も答えられなかった。


戻る場所もなければ、行きたい場所もない。ただ追手から離れなければならなくて、その日をどうするかだけ考えていた。


今だって、追われていることに変わりはない。


「このままずっと逃げてるだけじゃ駄目だと思う」


セレスが首を傾ける。


「追われておるのだから、逃げるしかなかろう」


「それは分かってるよ。俺だって捕まりたくはないよ」


俺は膝を立て、その上に腕を乗せた。


追手を避けなきゃならないのは変わらない。けれど、ただ逃げ続けていたって、どうしてセレスの力が俺に移ったのかは分からない。


「なあ、セレス」


「何じゃ」


「俺って、勇者なんだよな」


セレスが黙った。


「……今更、何を言っておる。わしを倒しておいて、今になって自信がなくなったのか?」


「そういう意味じゃないって」


俺が勝手に勇者を名乗ったわけじゃない。国に選ばれたわけでもない。女神の神託があって、教会の鑑定で勇者だと認められた。


それからずっと、勇者として生きてきた。


「なのにさ。なんで俺の中に、お前の力があるんだろうな」


セレスはしばらく俺を見ていた。


「転生の秘術が失敗したからじゃないのか?」


「それは分かってる。でも、なんで俺だったんだろうってことだよ。何でよりによって俺なんだよ」


「それは……」


「お前、こうなることを分かってたのか?」


「んなわけないじゃろ。分かってたら使わんわ」


「だよな」


ただ巻き込まれただけなのかもしれない。でも、それで済ませて、このまま逃げ続ける気にはなれなかった。


「俺が勇者だって分かったときのこと、もう一度調べられないかなって思ってる」


「それなら教会に聞けばよかろう。お前を勇者だと認めたのは、そやつらなのだろう?」


「今の俺が教会に行ったら、話を聞いてもらう前に捕まるだろ」


セレスが少し間を置いてから頷いた。


「まあ、そうじゃろうな」


「どこの教会だって、手配が回ってないとは思えない」


教会の人間が全員敵だとは思っていない。それでも、今の俺が確かめに行ける場所じゃなかった。


ただ、今の俺が正面から名乗って頼れる場所ではないことだけは確かだ。


「なら、どうする?」


「教会じゃなくても、当時のことを知ってる場所はある」


「どこじゃ?」


「アルディア」


「何じゃ、それは」


「街の名前。俺が育ったところだよ」


セレスがこちらへ顔を向ける。


「両親が死んだあと、そこの孤児院で暮らしてた。俺が勇者だって分かったのも、そこだった」


勇者だと認められたあと、俺は孤児院を離れた。当時の記録が残っているなら、何か分かるかもしれない。


「孤児院に何か残ってるかもしれない。当時のことを知ってる人がいるかもしれないし」


「昔の話なのじゃろう?」


「まあな。でも、何もないよりはいい」


セレスは少し考えたあと、こちらへ向き直った。


「しかし、お前が育った場所ということは、お前の顔を知っている者もおるのではないか?」


「いるだろうな」


「それは危険に首を突っ込むようなものではないのか?」


「分かってる」


アルディアは遠い。ここからなら、街道を普通に進んでも何日もかかるだろうし、俺たちは検問や人の多い町を避けなくちゃならない。


着いたところで、何か分かる保証もない。


それでも、何もせずに逃げ続けるよりはいい。今はそう思えた。


「このまま逃げてても埒があかないだろ」


「それはそうじゃが……本当に行くつもりなのじゃな」


「ああ」


「何も見つからぬかもしれんぞ」


「そのときは、そのときだよ」


「まあ、好きにせい。どうせわしも、お前から離れるわけにはいかんからの」


「悪いな」


「今更じゃろ」


話しているうちに辺りはだいぶ暗くなっていて、木々の間から差し込んでいた夕日もほとんど残っていない。


俺はさっき拾った枝を一か所にまとめる。枝を何本か折り、乾いた葉と細い枝をその下へ押し込む。セレスはその様子を少し離れたところから眺めていた。


「明日は早めに出るぞ」


「アルディアとやらは遠いのか?」


「ここからだと、かなりある。街道を使えないから、結構かかるだろうな」


乾いた葉に火をつけ、息を吹きかけながら細い枝を足していく。やがて火は太い枝へ燃え移った。


ぱち、と枝が爆ぜた。


ようやく火が安定したところで、俺はその前に腰を下ろした。


炎を見ながら道順を考えていると、セレスが横から言った。


「一つだけ、言っておくぞ」


「何?」


「お前が自分の育った場所を思いつくなら、追っておる連中も同じことを考えるだろう」


俺は返事をせず、しばらく火を見ていた。


それくらいは分かっている。


それでも――。


「アルディアに行く」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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