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魔王を倒した勇者の俺、今度は魔王として国に追われています ~相棒になった黒蜥蜴は元魔王です~  作者: 椎井 たける
第2章

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第24話 救援

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

「商会長!」


森の向こうから切羽詰まった声が響き、続けて馬の激しいいななきと、「うわっ!」という叫びが聞こえた。さらに、何かが荷車にぶつかったような鈍い音がした。


俺は声のした方へ一歩踏み出した。


けれど、そのまま走り出す前に足が止まった。


助けに入れば顔を見られ、あとで兵に何を話されるかも分からない。少し前までなら、そんなことを考える前に駆け出していたはずだった。


「荷馬車でも襲われておるのか?」


胸元からセレスが顔を出す。


「見に行こう」


木々の間を進んでいくと、少し先に道が見えた。俺たちが歩いていた細道よりずっと広く、荷馬車が通れるくらいには踏み固められている。


「意外と大きめの道に近かったんだな」


「近くに村もあったからの」


セレスが外套から這い出し、俺の肩へ上がった。


斜面から道の方を覗くと、荷馬車の周りを灰色の狼型の魔物が五頭取り囲んでいた。


剣を持った男が一人で応戦しているが、そのすぐ後ろには別の男が倒れ、商人らしい男が荷台の陰へ引きずろうとしている。御者ともう一人の男は、暴れる馬を何とか押さえていた。


「灰牙狼(はいがろう)か」


普通の狼より一回り以上大きい。二頭が護衛の正面で低く唸り、一頭は馬の周りをうろついている。残りの二頭は左右へ分かれ、荷馬車へ回り込もうとしていた。


護衛が剣を振るうと、正面の一頭が飛び退く。その隙に別の一頭が横から距離を詰め、護衛は慌てて剣を引き戻した。


「あの護衛、あのままじゃヤバいな」


「そうじゃな」


セレスは俺の肩の上から荷馬車を見ていた。


「アルト。関わらぬ方がよいのではないか?」


「……」


「助ければ顔を見られる。あやつらが後で兵に話さんとも限らんぞ」


「あぁ……」


荷馬車の方でまた叫び声が上がった。


回り込んでいた一頭が中年の男へ迫り、護衛がそちらへ身体を向ける。その隙を見た二頭も一気に距離を詰めた。


俺は腰の剣へ手を掛けた。


「……でも、だからって見捨てられないだろ」


俺は剣を抜き、そのまま斜面を駆け下りた。


灰牙狼(はいがろう)が護衛の喉元へ飛びかかった。


「下がって!」


叫びながら間へ滑り込み、噛みついてきた頭を剣の腹で外へ流す。体勢が崩れたところへ半歩踏み込み、空いた首筋へ刃を走らせた。


灰牙狼(はいがろう)が地面へ転がる。


護衛が目を見開いた。


「なっ……」


「荷車のそばへ!」


残り四頭のうち二頭がこちらへ向きを変えた。


右から来た一頭が低く飛び込んでくる。牙をかわしながら剣を振り下ろすと、刃が肩口へ深く入った。引き抜くより早く左からもう一頭が迫り、身体を沈めて爪をかわす。


すれ違いざまに脇腹を斬ると、灰牙狼(はいがろう)が悲鳴を上げてよろめいた。振り返ったところへ踏み込み、首へ剣を入れる。


最初に肩を斬った一頭が起き上がろうとしていたので、そのまま間合いを詰めて剣を突き込んだ。


倒れた三頭の向こうで、一頭は俺から距離を取り、もう一頭は荷馬車の陰へ回り込んだ。


「ロルフ! 後ろだ!」


商人が叫ぶ。


護衛が振り向く。だが、もう灰牙狼(はいがろう)は地面を蹴っていた。


剣では間に合わない。


俺は左手を向けた。


「アルト、抑えろ」


「分かってる」


狙いを灰牙狼(はいがろう)へ絞り、手の先に集めた魔力を放った。


灰牙狼(はいがろう)の身体が地面を転がり、そのまま道脇の木にぶつかった。幹が鈍い音を立てて折れる。


「……まだ強いな」


その時、背後から地面を蹴る音がした。


振り向くと、最後の灰牙狼(はいがろう)がもう目の前まで来ていた。


身体を横へずらして牙をかわし、すれ違った背中へ剣を叩き込む。そして、倒れた灰牙狼(はいがろう)の首元へ刃を入れた。


荷馬車の馬だけが、荒く鼻を鳴らしながら地面を踏んでいる。


剣についた血を振り落とし、倒れている護衛のところへ向かう。


「大丈夫ですか?」


「う……」


呼び掛けると反応があった。腕と脇腹に噛まれた傷があり、服にはかなり血が滲んでいる。


背嚢(はいのう)から布を取り出して傷口へ当てると、近くにいた商人へ声をかけた。


「ここを強く押さえてください。血が止まるまで離さないで」


「わ、分かった」


商人が俺に代わって布の上から傷口を押さえる。


もう一人の護衛も腕を引っかかれていたが、自分の足で立っていられる程度だった。


「助かった……」


護衛が剣を下ろし、まだ息を整えながら俺を見る。


「本当に、もう駄目かと思った」


「この人を早く治療できるところへ運んだ方がいいです」


「この先に村がある。そこまで行けば何とかなるはずだ」


商人は布を押さえたまま答えた。


御者もようやく馬を落ち着かせたらしく、こちらへ何度も頭を下げた。


「商会長、代わります」


御者のそばにいた男が駆け寄ってきた。


商会長が傷口から手を離すと、男が代わって布の上から強く押さえた。


「頼む」


商人は立ち上がり、俺の方を見た。


「ありがとう。あんたが来てくれなかったら、どうなってたか……」


「いえ」


これで、全員に顔だけでなく、魔法まで見られた。もし、このことを兵に話されたとしても、もう俺にはどうしようもない。


「ところで」


商人が俺を見た。


「あんた、相当強いんだな。冒険者か?」


「いや……そういうわけじゃないです」


「一人で旅をしてるのか?」


「まあ」


商人は不思議そうに俺を見たが、それ以上は聞かなかった。代わりに、もう一度深く頭を下げる。


「いや、それよりも本当に助かった。せめて名前くらい聞かせてくれ」


俺は商人を見た。


相手は何の疑いもない様子で、もう一度尋ねた。


「なあ、あんた、名前は?」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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