第22話 捜索
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騎兵たちは、さっきまで俺たちが話していた男の荷車の前で馬を止めた。
少し離れた木の陰から様子を見ていると、先頭の兵が何かを尋ねている。ここからでは、何を話しているかまでは聞こえない。
男は一度こちらの方を見たあと、俺たちが進んだ細道の先を指した。
「……わしらのことを教えたな」
胸元からセレスが顔を出す。
「まぁ、聞かれれば答えるじゃろうな。お前が誰かも知らんのじゃから」
「分かってるよ」
男を責める気にはならなかった。道を尋ねてきた旅人について兵に聞かれただけなら、隠す理由もない。
細道から少し距離を取り、太い木の陰に身を寄せると、ほどなく木々の向こうから蹄の音が近づいてきた。
四騎の騎兵が細道を進んでくる。思ったより近い。俺は木の幹へ身体を寄せて息を殺し、胸元で動いたセレスの上からそっと手を当てた。
セレスも何も言わず、そのまま動きを止める。
騎兵たちは俺たちが隠れている場所には気づかず、少し先で速度を落とした。
「この先の村だな」
「そうですね」
「それらしい奴がいたとして、顔は分かるか?」
「勇者様の顔なんて見たことねえよ」
「年格好くらいしか情報はないのか」
「あと髪色だな。黒髪はそこそこ珍しい」
「黒髪で、名前がアルト……可能性はあるな」
「よし、村へ向かうぞ」
騎兵たちは再び速度を上げ、蹄の音が細道の先へ遠ざかっていった。
蹄の音が聞こえなくなるまで待ってから、木の陰を離れる。
「俺の顔は知らないんだな」
「今の連中はな」
「王都の兵なら、そうはいかないだろうね」
「前線にもお前を知る兵は多いじゃろう」
「ああ。だから、そっちにも近づけない」
細道へ目をやる。この先へ行けば、さっきの騎兵と同じ村へ着く。この先へ行けば、さっきの騎兵と同じ村へ着く。かといって引き返せば、今度は荷車の男がいる。
「別の方へ行こう」
「道を外れるのか?」
「このまま後ろをついていくよりはいいだろ」
俺は細道へ戻らず、木々の間を横へ進んだ。
しばらく歩くと、地面が少しずつ下り始めた。木の根を避けながら進んでいるうちに水の流れる音が聞こえ、やがて幅の狭い沢へ出たので、そのまま流れに沿って歩く。
ガイルなら、こういう場所でどう動けば追われにくいのかすぐ分かるんだろう。俺にできるのは、泥の上をなるべく避けたり、折れやすそうな枝を踏まないようにしたりするくらいだった。
「随分慎重じゃのう」
「さっき俺たちが通った道を教えられたばっかりだからな」
「人に道を聞くのも考えものじゃな」
「でも、聞かなきゃあの道がどこに続いてるかも分からなかっただろ」
「面倒じゃな。人族の中で逃げるというのは」
「仕方ないだろ。ここは人族の領地なんだから」
沢沿いを進んでいると、遠くからまた馬の蹄が聞こえた。
足を止めて耳を澄ますと、さっきより近い。
「戻ってきたのか?」
「分からん。じゃが、こっちへ来ておるぞ」
沢の向こうには木立が続き、その間を横切るように細い獣道が伸びていた。しばらく見ていると、そこへ二騎の兵が姿を現す。
村へ向かった連中のうち二人なのか、それとも別の兵なのかは分からない。馬をゆっくり進ませながら、左右の木立を見ている。
俺は身を低くして沢沿いを進んだが、背後から声が飛んできた。
「おい、そこの奴!」
まずい。見つかった。
振り返らずに走る。沢沿いは木もまばらで、馬でも入ってこられるみたいだ。後ろから蹄の音が一気に近づいてきた。
「止まれ!」
騎兵がこちらに向けて馬を走らせた。
「アルト、転移を使え」
「できるか?」
「できるかどうかではない。やるしかなかろう」
前方を見ると、沢の向こうに大きな岩があり、その脇が少し開けていた。
王城から逃げたときの感覚を思い出し、そこへ意識を集中する。
「くそっ! 転移!」
身体の内側が引かれ、足元の感触が消える。
次に地面を踏んだときには、岩がすぐ横にあった。沢も兵たちも、木立を挟んだ向こう側だ。
木々の隙間から見ると、騎兵たちは馬を止め、辺りを見回していた。
俺はそれを確認すると、そのまま斜面を上った。
「まだ近いぞ」
セレスの言う通り、木々の向こうから兵の怒鳴り声が聞こえてくる。沢を渡れる場所を探しているらしい。
斜面の先には倒れた木があり、その向こうに少し開けた場所が見えた。
もう一度、そこへ意識を向ける。
足元が消え、すぐに戻った。
着地した瞬間、右足が斜面を滑り、思わずたたらを踏んだ。咄嗟に左足を出して倒れずに済んだが、狙っていた倒木は数歩離れたところにある。
「おい、危ないぞ」
「分かってる」
背後で枝の折れる音がして、兵の声が近づいた。
「いたか?」
「さっきこの辺りにいたはずだ!」
沢を越えてきたらしい。
俺は倒木を回り込み、斜面の上へ目を向けた。木々の間から、日の当たる場所が見える。
もう一度転移する。
地面へ足が着いた途端、目の前いっぱいに木の幹が見え、慌てて身体を横へ捻った。肩が枝に当たり、外套の中からセレスが声を上げる。
「何してるんだ。危ないぞ」
「静かにしてくれ!」
振り返っても、兵の姿はもう木々の向こうに見えなかった。
俺はそのまま斜面を上り続けた。木が密になるにつれて馬の音は途切れがちになり、やがて兵の声も聞こえなくなった。
それでもしばらく足を止めずに進み、陽の差し込む小さな岩場まで来たところで、ようやく立ち止まった。
セレスが外套から這い出して肩へ上がると、身体をぐっと伸ばして来た方を覗き込んだ。
「追っては来ておらんようじゃな」
「ああ」
水袋を取り出して一口飲み、近くの岩に腰を下ろした。
「とっさに逃げたけど、まずかったかな」
「どうじゃろうな。黒髪というだけでも疑われるかもしれん。あの場では仕方なかったんじゃないか?」
「もっと王都から離れないとな」
「今、離れておる最中じゃ」
「分かってるよ。でも、王都の近くには俺の顔を知ってる人が多いだろうし、前線にも戻れない。大きな街道もなるべく避けたい」
「兵たちも街道を使うからな」
「ああ」
セレスは肩の上で少し首を動かした。
「村にも寄らんつもりか?」
「全部避けてたら、食べ物も手に入れられないだろ。兵がいそうな大きい町や宿場は避ける。小さい村があれば、様子を見てから入る」
「随分面倒な旅になったのう」
「誰のせいだと思ってるんだよ」
「わしを倒したお前のせいではないか?」
「いや、悪あがきしたお前のせいだろ」
少し間を置いて、セレスが続ける。
「では、どこへ行く?」
「それは……まだ分からない」
王都には戻れない。前線にも近づけない。どこか行きたい場所があるわけでもない。
それでも、ここに留まるわけにはいかなかった。
「王都からの知らせが広がる前に、できるだけ遠くへ行く」
「簡単に言うのう」
「他にないだろ」
少し休んでから歩き出すと、ほどなく森の中で道が二つに分かれていた。一方には荷車の轍が深く残り、もう一方は人が歩く程度の細い土道が木々の間へ続いている。
俺は轍のない方へ足を向けた。
「そちらでよいのか?」
「今は大きい道を使いたくない」
「そうか」
セレスが外套の中へ戻るのを待ち、俺は木々の間を進んでいった。
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