↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王を倒した勇者の俺、今度は魔王として国に追われています ~相棒になった黒蜥蜴は元魔王です~  作者: 椎井 たける
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/59

第20話 終わらない戦争

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

俺たちの横を、二台、三台と続けて荷馬車が追い越していく。荷台には布が掛けられているものもあったが、隙間から木箱や樽が見えた。別の荷車には、まとめて縄で縛った槍の柄や矢束まで積まれている。


それに、馬車の間を歩いているのは兵士ばかりではなかった。手綱を取る御者のほかに、荷を背負った男や馬を引く者もいる。武器を持っていない者も多い。


「……輜重隊(しちょうたい)だな」


胸元からセレスの声がした。


「分かるのか?」


「前線へ行くときに何度も見てる。食料や武器を運ぶ連中だ」


ただ、魔王を倒した以上、前線に残っている兵を引き上げるための物資なのかもしれない。負傷者を運ぶ馬車や、撤収する部隊の食料だって必要になる。


そう考えながら歩いていると、今度は後ろから複数の馬の蹄が聞こえてきた。俺たちは道の端へ寄って通り道を空ける。


やってきたのは二十人ほどの兵だった。鎧や盾には大きな傷もなく、馬に乗った指揮官らしい男を先頭に、揃った足取りで街道を進んでいく。


俺は通り過ぎる兵たちを見送った。


「……あれも前線へ行く」


「帰ってくる連中ではないのか?」


「違う。装備が新しいし、荷も背負ってる。たぶん新しく送られる部隊だ」


さらに別の兵の一団が近づいてくるのが見え、俺たちは街道から少し離れた。


「この道、あまり使わない方がよさそうだな」


「わしもそう思う。兵がこれだけ行き来しておれば、そのうち顔を改める連中も出てくるじゃろう」


街道から少し距離を取り、しばらく木立に沿って進むことにした。


昼近くになると、街道沿いに小さな水場が見えてきた。


馬を休ませるための場所らしく、数台の荷馬車が停まっている。御者たちは馬に水を飲ませたり、木陰で腰を下ろしたりしていた。


俺たちも水袋を満たすため、周囲に兵がいないことを確かめてから水場へ近づき、井戸の順番を待った。


少し離れたところでは、荷馬車の御者らしい男たちがパンを食べながら話していた。


「また前線まで行くのかよ。魔王が死んだんなら、もう終わりだと思ってたんだけどな」


その言葉が耳に入り、反射的にそちらを見そうになったが、昨日の食堂でセレスに言われたことを思い出して視線を動かさなかった。


「俺もだよ。けど、上じゃ今が押し時だって話らしいぞ」


「押し時?」


「魔王が死んで、向こうはまとまりがなくなってるんだとさ。今のうちに一気に奥まで進むってよ」


「勘弁してくれよ。こっちはこれで終わりだと思ってたんだぞ」


「俺に言うな。運べって言われたら運ぶしかねえだろ」


別の男が笑いながら口を挟んだ。


「まあ、向こうが弱ってるうちに片付けちまった方が、あとあと楽なんじゃねえの?」


「片付けるって、どこまで行くんだよ」


「さあな。俺たちは荷物を届けりゃいいだけだ」


「前線の連中も、帰れると思ってたらしいぞ。昨日寄った宿場じゃ、兵がずいぶん愚痴ってた」


「そりゃそうだろ。魔王が死んだって聞けば、誰だって終わったと思うさ」


男たちの話は、そのまま道の状態や次の宿場のことへ移っていった。


俺は水袋を満たし、栓を締める。話を聞く限り、あの輜重隊(しちょうたい)は撤収のために前線へ向かっているわけではなかった。


水場を離れ、人の声が届かなくなったところで、胸元からセレスが顔を出した。


「聞こえておったか?」


「ああ」


しばらく歩いてから、もう一度街道を見る。遠くをさっきの荷馬車が進んでいた。


「……本当に、まだ攻めるんだな」


「そうらしいのう」


「何でだよ。魔王は倒したんだぞ」


セレスがこちらを見上げる。


「だからではないのか?」


「え?」


「人族から見れば、魔王は死んで、魔族をまとめる者を失ったことになる。攻めるなら今だと考えるのは、軍としてはおかしくないじゃろ」


「でも、それじゃ戦争が終わらないだろ」


俺がそう言うと、セレスは少し黙った。


「そういえば、お前はわしを倒せば戦争が終わると思っておったな」


「そうだよ」


答えながら、魔王城で同じことを口にしたときのやり取りを思い出した。


「……そうだ。お前、あのとき言ったよな」


「何をじゃ」


「そう教えられたかって」


セレスはすぐには答えなかった。


「どういう意味だったんだ?」


「アルト。お前、そもそもこの戦がどう始まったと聞いておる?」


聞き返されるとは思わず、少し考える。


「魔族が聖樹のある土地を奪って、人族領へ攻め込んできた。だから奪われた土地を取り戻して、魔王を倒せば戦争は終わるって」


「誰に?」


「誰って……教会でもそう教わったし、王国でも同じだったよ。みんな知ってることだろ」


セレスは外套の縁に前脚を掛けたまま、しばらく何も言わなかった。


「何だよ」


「……そういうことになっておるのじゃな」


「だから、何なんだよ」


セレスは俺を見上げたまま、少し考えてから口を開いた。


「今の話を、わしがそのまま肯定すると思うか?」


「それは……」


思わない。俺が教わってきた戦争の話を、セレスがそのまま受け入れているはずはなかった。


「じゃあ、お前は何を知ってるんだ?」


「今ここでわしが話したとして、お前は信じられるのか?」


何か言おうとしたが、すぐには言葉が出てこなかった。


「なら、わしの話だけで決めるな。知りたいなら自分で確かめればよかろう」


「簡単に言うなよ」


「それでも、人から聞いた話をそのまま信じるよりはましじゃろ」


何も返せず、俺は街道の方へ目をやった。


セレスはそれ以上何も言わず、外套の中へ戻っていった。


また街道の方から馬車の音が聞こえ、木立の陰へ寄ると、荷を積んだ馬車の後ろを兵たちが歩いていた。何人かは楽しそうに話していて、これから戦場へ向かうようには見えない。


魔王を倒したとき、俺は本当に終わったと思った。


拠点へ戻ったときも、兵たちは「戦争が終わる」「これで帰れる」と喜んでいた。昨日の食堂でも同じだった。


なのに、人族の軍は帰るどころか、さらに魔族領の奥へ進もうとしている。


「もっと街道から離れた方がいいな」


「そうじゃな」


俺たちは街道からさらに距離を取り、木立の奥を同じ方角へ進んだ。枝の隙間から見えていた兵の列は、歩くうちに少しずつ遠ざかっていく。


魔王を倒したのに、どうしてまだ攻めるんだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

「☆☆☆☆☆」からの評価やブックマークをしていただけると、今後の創作の大きな励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。