第16話 魔王の魔力
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朝、目を覚ますと、洞窟の隙間から細い光が差し込んでいた。
身体を起こして隣を見る。昨夜見張りをしていたはずのセレスは、入口近くの岩の上で丸くなっている。
「お前、寝てるじゃないか」
声をかけると、セレスが片目だけ開けた。
「お前が起きる少し前まで見張っておったわ」
「本当か?」
「疑うなら次は自分で見張れ」
「分かったよ」
枯れ葉の寝床から立ち上がると、思ったより身体は軽かった。昨日は王都から走り続けたせいで、横になってからすぐに眠ってしまったらしい。
洞窟を出る前に、寝床に使った葉を軽く散らしておく。どこまで意味があるかは分からないが、追手にここで夜を越したと知られるよりはいい。
外へ出ると、セレスも俺の肩へよじ登ってきた。
「それで、昨日言ってた場所を探すんだろ?」
「うむ。人のおらんところがよい」
「それなら、街道からもっと離れた方がいいな」
昨夜見つけた小さな流れで水を飲み、残っていた木の実をいくつか腹に入れてから歩き始めた。
人の気配を避けながら森を抜けていくと、昼前頃には、木々が途絶えたちょっとした平地に出た。地面には大小の岩が転がり、その向こうには低い山が見える。道らしいものはなく、人が通った跡もなかった。
俺は岩場へ下りて、周囲を見回した。
「ここならどうだ?」
セレスが肩の上で首を動かす。
「これくらい広ければよいじゃろう」
「じゃあ、やってみるか」
「それで、何をすればいい?」
「お前、魔法そのものは使えるのじゃろう?」
「ああ、使えるよ」
「なら、体内の魔力へ意識を向けてみろ」
俺は身体の中にある魔力へ意識を向けた。
自分の魔力のその奥にもっと大きなものがあるのが分かる。王城でルシエラの術を弾いたときにも感じた力だ。
「……分かる」
「なら、それを引き出せ」
「簡単に言うなよ」
「力そのものはもうお前の中にある。お前のやり方でやるしかなかろう」
試しに魔力を動かしてみると、身体の中で大きな魔力が流れ始めた。だが、その量は自分の魔力を扱うときとは桁が違う。それでも勝手に動いているわけではなく、止めようと思えば止まり、動かそうとすればついてくる。
「できそうだ」
「ほう。引き出すところまでは問題なさそうじゃな」
セレスはそう言うと、岩場の先へ顔を向けた。
「まず、あれを狙ってみろ」
少し離れたところに大岩が転がっていた。人の背丈の何倍もありそうな大きさだ。
「それで、どうする?」
「手に集めて、あの岩へ放て」
「それだけ?」
「まずはな」
ずいぶん簡単に言う。
俺が大岩へ目を向けると、セレスが肩から下りた。
「どうせ初めは上手く扱えんじゃろう。思いっきりやってみろ」
「いいのか?」
「そのためにこんなところまで来たのじゃ」
そこまで言われたなら、加減する必要もない。
俺は身体の向きを変え、右手を前へ出すと、大岩へ狙いを合わせ、身体の中にある力を引き出した。
量が大きすぎて掴みにくいが、動かそうとするということを聞かないわけではない。いや、むしろ動きは以前よりもスムーズかも知れない。
俺は、魔力を右手へ集め、そのまま大岩へ向けて放つ。
手の先から放たれた魔力が、一直線に岩へ走る。
大岩が砕け散る。砕けた石と砂が一斉に舞い上がる。吹きつけた風に顔を背け、俺は腕で目元を庇った。
一拍遅れて、腹の底まで響く轟音が押し寄せてきた。
しばらくすると砂埃が薄くなってきた。
見ると、さっきまで大岩があった場所には、何も残っていなかった。その先には太い溝のような跡が伸びている。
跡を目で追っていくと、向こうに見える山に大きな穴が開いていた。
「……セレス」
返事がない。
近くの岩を見ると、セレスも山の方を向いたまま動いていなかった。
「セレス?」
「……聞こえておる」
「これ、お前の魔力なんだよな?」
「そうじゃ」
「こんな威力なのか?」
セレスは答えなかった。
俺と同じように山を見たまま、しばらく黙っている。
「おい」
「分かっておる。少し待て」
何を待つんだよ。
やがてセレスがゆっくりこちらを向いた。
「わしが最大威力で撃っても、ああはならんな」
「え?」
思わず山とセレスを交互に見る。
「でも、元はお前の力なんだろ?」
「そのはずじゃ」
「じゃあ、何で俺が使った方が強いんだよ」
「わしに聞くな。こっちが聞きたいわ」
元の持ち主に分からないなら、俺に分かるわけがない。
右手を開いたり閉じたりしてみる。痛みもないし、魔力を使い果たした感じもしない。あれだけのものを撃ったのに、身体の中にはまだ大きな力が残っていた。
「……もう一回やってみるか?」
「待て」
「なんだよ。さっきより弱くすればいいだろ」
「お前にそれができるのか?」
「やってみないと分からない」
「その結果、もう一つ山に穴を開ける気か?」
言われて、俺は手を下ろした。
確かに、今の俺にはどうやって弱くすればいいのかがよく分からない。
王城でルシエラの術を弾いたときもそうだった。あのときは身を守ろうとしただけで、どれだけの力を使うのか考える余裕すらなかった。
それにしても、追ってきた王国兵にこの力を使わなくてよかった。
止めるだけのつもりでも、今と同じようなものが出ていたらどうなっていたか。
抉れた山を見る。
「これじゃ、人には使えないな」
「今のままではな」
セレスが俺の足元まで戻ってくる。
「今日はもうやらないのか?」
「ここではな」
「何で?」
「今の音がどこまで聞こえたと思っておる」
周囲を見回した。
人影はない。けれど、あれだけの音なら森の向こうまで届いていてもおかしくない。山に穴も開いているし……。
俺は外套を広げ、セレスが中へ入るのを待った。
「場所を変えるか」
「その方がよい」
外套の中へ潜り込んだセレスが、胸元から顔だけ出す。
「次は加減を覚えろ」
「どうやって?」
「それを教えるのがわしじゃ」
「本当に大丈夫なんだろうな」
「何じゃ、その言い方は」
俺は山に開いた穴を見る。
「さっきも、お前に言われた通りにやったんだけど」
セレスも山を見た。
「……」
「セレス?」
「四の五の言わず、さっさと行け!」
「何で俺が怒られるんだよ」
言い返しながら歩き始める。
この力をちゃんと使えるようにならないとまずい。
少なくとも、次に撃つときは山に穴を開けないくらいには。
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