↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王を倒した勇者の俺、今度は魔王として国に追われています ~相棒になった黒蜥蜴は元魔王です~  作者: 椎井 たける
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/58

第15話 最初の夜

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

日が沈む前に、今夜を過ごす場所を見つけておきたかった。


追手の姿も蹄の音も消えたが、本当に撒けたのかは分からない。街道へ戻る気にはなれず、俺はそのまま木々の間を進んだ。


しばらく歩いたところで、斜面の途中に大きな岩肌が見えた。


その下に、黒い穴が開いている。


「あそこに洞窟がある。あそこにしよう」


「随分と都合よく見つかったのう」


外套の中からセレスが顔を出す。


「俺に言うなよ」


斜面を上がって近づくと、入口は人が二人並んで入れるかどうかという広さだった。街道のある方角からは木と岩に隠れていて、近くまで来なければ気づけそうにない。


「少し狭いけど、隠れるにはよさそうだな」


「案外、魔物の巣かもしれんぞ」


「やめてくれよ」


言われると気になる。


入口の周りを調べてみたが、大きな足跡や糞は見当たらない。中へ小石を放り込んでも、何かが動く気配はなかった。


念のため身体を低くして中へ入る。


奥行きは思ったほどなく、十数歩も進むと岩壁にぶつかった。ただ、右側に人一人が通れそうな隙間があり、その向こうからわずかに光が入っている。


身体を横にして抜けてみると、斜面の反対側へ出た。


「こっちからも出られるな」


胸元からセレスが顔を出した。


「なら、袋小路にはならんな」


「ああ。追手が来ても逃げられる」


「すっかり逃げることばかり考えるようになったのう」


「誰のせいだと思ってるんだよ」


「わしではなかろう」


それは確かにそうだった。


俺は何も言わず、洞窟へ戻った。


地面には乾いた土と枯れ葉が溜まっている。


「このまま寝たら冷えるな。寝床も作らないと」


「まだ何かするのか?」


「地面にそのまま寝るよりはましだよ」


洞窟の周りから落ち葉やシダを集め、奥の壁際に厚く敷いていく。


火は使わないことにした。こんなところで煙を上げれば、せっかく隠れた意味がない。


寝床はどうにかなったが、昼から何も食べていない。


洞窟の周りを探し、食べられる木の実をいくつか見つけたが、腹を満たせるほどではなかった。水は少し離れたところに小さな流れがあったので、そこで飲んできた。


洞窟へ戻ると、セレスが入口近くの岩に乗って待っていた。


木の実を一つ口へ放り込みながら、その姿を見てふと思う。


「そういえば、お前は何を食べるんだ?」


「何じゃ、急に」


「いや。飯」


セレスは首を傾げた。


「魔族とて、人族と食べるものはそう変わらんぞ」


「いや、そうじゃなくて。お前、今は蜥蜴だろ?」


「……何が言いたい」


「虫とかか?」


「げっ。わしに虫を食う趣味はないわ!」


露骨に嫌そうな声を出した。


「でも、蜥蜴って虫を食べるだろ」


「わしは蜥蜴ではない!」


「今はどう見ても蜥蜴だけど」


「身体だけじゃ! 中身まで蜥蜴になった覚えはない!」


「じゃあ、これ食べる?」


木の実を差し出すと、セレスはしばらくそれを見た。


「……他にはないのか?」


「ない」


「肉は?」


「ない」


「パンは?」


「あるように見えるか?」


セレスは黙った。


俺がもう一つ木の実を食べると、諦めたらしく近づいてくる。


「よこせ」


「虫の方がいいなら探してくるけど」


「いらんと言っておる!」


思ったより元気そうだ。


木の実を半分に割って置いてやると、セレスは前脚で押さえながら齧り始めた。


「どう?」


「……食えなくはない」


「ならよかった」


「明日はもう少しましなものを探せ」


「俺だってそうしたいよ」


セレスは返事をせずに、木の実に齧り付いた。それを見て、俺も残りを口に入れた。


腹が膨れたとは言い難いが、何もないよりはましだった。


木の実を食べ終える頃には、外も暗くなってきていた。


洞窟の入口から見える森も、少し先までしか見えなくなっている。


「アルト」


「ん?」


「王都のことじゃ」


俺は壁に背を預けたまま、入口の方を見る。


「……戻れるなら、戻りたいよ」


「ほう」


「俺は何もしてないんだ。ちゃんと調べてもらえれば、俺が俺だって分かるはずだし……そうなったら、逃げる必要もないだろ」


自分で言っていて、王城での光景を思い出した。いくら説明しても、誰も俺の言葉を証拠にはしてくれなかった。


「なら、戻ればよいではないか」


「……そう簡単じゃないよ」


セレスは何も言わない。


「レオルド殿下が、なんであんなことを言ったのかも分からない。ルシエラだって……」


魔王城へ向かうまで、何度も助けてもらった。傷を治してもらったことも、一緒に飯も食べた。


王城で二人が話したことは、俺が伝えたことと食い違っているわけじゃない。だけど、記憶まで奪われていると言われたら、俺はどうすればいいんだ。


「ガイルとフィーネは、俺を陥れようとしたわけじゃないと思う」


「だろうな。あの二人は聞かれたことに答えただけじゃ」


「うん」


そこは俺も分かっている。


しばらく黙っていると、セレスが岩の上で身体の向きを変えた。


「では、王子と聖女は?」


「……それが分からないんだよ」


「そうか」


あっさりした返事だった。


「もっと何か言わないのか?」


「わしに何を言えというのじゃ。あやつらと長く一緒におったのはお前じゃろう」


「そうだけどさ」


「なら、自分で考えろ」


「簡単に言うなよ」


「簡単とは言っておらん」


敵だと思えれば、もっと楽なのかもしれない。


王国兵が来たら逃げればいい。もし、レオルド殿下やルシエラが相手でも……そこから先は、まだ考えられなかった。


洞窟の外から、夜の鳥の声が聞こえた。


「寝るか」


立ち上がって、寝床に敷いた枯れ葉を軽くならした。


「俺が見張ってるから、お前は寝ていいぞ」


「何を言っておる。お前が寝ろ」


「俺が?」


「今日一日走り回ったのはお前じゃろう」


「でも、お前に見張りなんてできるのか?」


セレスが俺を見上げた。


「目もある、耳もある。何かが来れば起こすくらいできるわ」


「そうか……。じゃあ、頼む」


「うむ。さっさと寝ろ」


そう言われて、外套を着たまま作った寝床に横になる。


目を閉じかけて、見張りを任せている相手のことを考えた。


見張りを誰かに任せて眠ること自体は珍しくない。魔王城へ向かう間も、ガイルやフィーネたちと交代で休んでいた。


ただ、今夜見張っているのは、数日前まで殺し合っていた魔王だ。


「セレス」


「何じゃ」


「……ちゃんと起こせよ」


「分かっておるわ。さっさと寝ろ」


俺は、ゆっくりと目を閉じた。


疲れていたのか、身体から力を抜くとすぐに眠気が来た。


「アルト」


「何だよ……、今寝そうになってたのに」


「明日は、人のおらん場所を探せ」


眠りかけた頭で意味を考える。


「何で?」


「お前の中にある、わしの力を試す」


目を開けて、セレスを見る。


「剣もないまま、いつまでも逃げ回るわけにはいかんじゃろう」


「今やったら駄目なのか?」


「こんな暗い中で何をする気じゃ。それに、派手な音でも出せば追手を呼ぶぞ」


「……それもそうか」


もう一度目を閉じる。


「なるべく広い場所を探せよ」


「広い場所?」


「うむ」


「どれくらい?」


少し間があった。


「できるだけ広いところじゃ」


「何でだよ」


「念のためじゃ」


俺はセレスの声を遠くに感じながら眠りに落ちていった。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

「☆☆☆☆☆」からの評価やブックマークをしていただけると、今後の創作の大きな励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。