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魔王を倒した勇者の俺、今度は魔王として国に追われています ~相棒になった黒蜥蜴は元魔王です~  作者: 椎井 たける
第2章

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第14話 追手

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

街道を離れても、蹄の音は少しずつ近づいてくる。


俺は木立の奥へ入ると、少し先で足を止めた。ここなら街道からは見えにくい。外套の中でセレスが動いたが、今は出すわけにもいかない。


「走らんのか?」


「このまま逃げても馬には追いつかれる。まず、俺を追ってるのか確かめたい」


木立の向こうへ目を向ける。幹や枝に遮られてよく見えないが、蹄の音は確実に近づいていた。


騎兵が街道を駆けてくるのが、木々の隙間から見えた。先頭の男が俺たちのいた辺りを通り過ぎかけ、急に手綱を引く。


後ろの騎兵も次々と速度を落とした。


一人が馬を降り、街道の端まで歩いてくる。しゃがみ込んだ男が地面を指さすと、別の兵もそのそばへ寄った。


俺は自分の足元を見る。


さっき街道から外れたとき、土の柔らかい場所をそのまま歩いてきた。


「……まずかったな」


「何がじゃ」


「跡が残ってるみたいだ」


声を潜めて答える間にも、兵たちは街道脇を調べている。


やがて、一人がこちらを指した。


「こっちへ入ってるぞ」


聞こえた声に、俺は木の陰へ身を寄せた。


「二人は先へ回れ。勇者を見つけても勝手に手を出すな。まず知らせろ」


たまたま同じ方向へ来ているだけかもしれないと思っていたが、勇者を探しているなら俺のことだ。


馬から降りた兵たちが、こちらへ入ってくる。


「アルト」


「分かってる」


俺は木立の奥へ向かおうとして、足を止めた。


見つけても勝手に手を出すな。


だったら、今ここから出ていったらどうなる。


兵たちに事情を話して王城へ戻る。今度こそ、きちんと調べてもらえれば――。


「出て行くつもりか?」


外套の中から、セレスが小さな声で聞いた。


木の向こうを人影が横切る。


玉座の間で俺を囲んだ騎士たちを思い出した。剣を渡して、言われた通りにして、それでも最後には拘束具を持った騎士が近づいてきた。


「……いや」


俺は兵たちから離れる方へ身体を向けた。


「今は捕まりたくない」


「なら、そちらへ真っ直ぐ行くな」


「何で?」


「さっき何頭か、そのまま先へ行ったじゃろう」


言われて、俺たちを追い越していった蹄の音を思い出す。


「先回りか」


「おそらくな。このまま王都から離れる方へ進めば、挟まれるかもしれん」


「じゃあ、戻るのか?」


「誰がそんなことを言った。少し横へ抜けろ。あやつらが奥へ入ったあと、その後ろを通る」


俺は来た方向へ一度目をやって耳を澄ませると、兵たちの声は一か所からではなかった。


「……分かった」


「返事だけはよいのう」


「余計なこと言うなよ」


近くで枝を踏む音がして、俺はすぐに口を閉じた。


太い木の陰へ身体を寄せ、外套の上からセレスを押さえる。一人、かなり近くまで来ている。


腰へ手が伸びかけたが、そこに剣がないことを思い出した。俺はそのまま木の陰で息を潜めた。


木の向こうで馬が鼻を鳴らした。


馬具の擦れる音がして、枝が揺れる。


「こっちには?」


少し離れたところから声が飛ぶ。


「見当たらん。だが、跡はこっちへ続いていたはずだ」


男が馬を進め、すぐ近くでまた止まった。


外套の中でセレスが身じろぎしかけたので、そっと手で押さえる。


「動くなよ」


「言われんでも分かっておる」


セレスが小声で答える。


やがて別の方角から「いたか?」と呼ぶ声がした。騎兵はそちらへ返事をすると、馬首を巡らせて離れていく。


蹄の音が遠ざかり始めたところで、セレスが外套の中から俺の脇腹を前脚で叩いた。


「今じゃ。左へ行け」


俺は木陰から出ると、兵たちが向かった方向から斜めに外れて進んだ。草の生えた場所や硬い地面を選びながら距離を取り、十分に離れたところで身体強化を使う。


木の根を避け、斜面を一気に上がった。街道へ出ない程度に近くを保ちながら、兵たちが入り込んだ木立の外側を回っていく。


「もう少し右じゃ」


「そっちは街道に近いぞ」


「だからじゃ。あやつらは奥を探しておる」


「見つかったらどうするんだよ」


「そのとき考えろ」


「さっきと言ってること違わないか?」


「四の五の言うな!」


誰のせいだよと思ったが、黙って足を動かした。


しばらくすると、後ろから聞こえていた人の声が途切れた。蹄の音も遠くなり、やがて風が枝を揺らす音しか聞こえなくなる。


それでもすぐには止まらず、さらに距離を取ってから身体強化を解いた。


「……もういいか?」


「おそらくはな」


外套からセレスが顔を出す。


周囲に人影はない。


「思ったより使えるのう、お前」


「何だよ、その言い方」


「ずいぶん逃げ慣れておるように見えてな」


「そんなわけないだろ。行軍中に敵に見つからないように動く訓練はしてたんだ。……まあ、王国の兵から逃げるために使うとは思わなかったけどさ」


セレスは何も言わなかった。


俺もそれ以上は言わず、また歩き始める。


「……連れ戻すつもりなのかな」


「わしに分かるわけないじゃろ」


「じゃあ、戻って確かめても――」


「捕まらずに確かめる方法があるなら、好きにせい」


何も返せなかった。


戻ったところで、今度こそちゃんと調べてもらえるとは限らない。また囲まれたら、今度は逃げられないかもしれない。


日が傾き、木々の影が長くなってきた。


「アルト。そろそろ夜を越す場所も考えた方がよいぞ」


「そうだな」


「アルト」


「何だよ」


「お前、まだ王都に戻りたいのか?」


俺は答えられないまま、歩き続けた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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