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魔王を倒した勇者の俺、今度は魔王として国に追われています ~相棒になった黒蜥蜴は元魔王です~  作者: 椎井 たける
第2章

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第13話 行き先

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。


本日、昼にもう1話アップ予定です。

王都を出てから、どれだけ走ったのかもう分からない。何度か後ろを振り返るたび、城壁は少しずつ小さくなっていた。


「アルト」


外套の中から声がする。


「何だよ」


「そろそろ止まらんか」


「まだ近いだろ」


「そういう話ではない。いつまで走るつもりじゃと聞いておる」


追手に見つからないところまで、と言いかけたが、それがどこなのか自分でも分からなかった。


足を止めると、急に自分の呼吸が耳に付いた。


このまま街道にいれば、王都から来た誰かに見つかるかもしれない。俺は人目のなさそうな場所まで外れてから、道端の木に背を預けた。


「もう出ていいぞ」


外套がもぞもぞ動き、胸元からセレスが顔を出す。そのまま俺の腕を伝って地面へ降りると、四本の足を伸ばした。


「やっとか。走るたびに揺れてかなわん」


「じゃあ、自分で走ればよかっただろ」


「その足についていけると思うか?」


「前は自分で歩くって言ってたじゃないか」


「状況が変わったのじゃ」


俺も地面へ座り込んだ。


街道には今のところ、人影はない。王都から誰かが追ってきている様子も見えなかった。


セレスが俺を見上げた。


「それで?」


「何が」


「お前、どこへ行くつもりじゃ?」


俺は街道の先を見る。


「王都から離れる方」


「それは行き先とは言わん」


「分かってるよ」


言われなくても、それくらい分かる。けれど、他に答えようがなかった。


もう、王都には戻れない。戻ったところで、待っているのはさっきまで俺を囲んでいた騎士たちだ。


ちゃんと調べてもらえば俺がアルトだと分かってもらえる。ついさっきまでそう思っていた。それでも、あのまま捕まるのは怖かった。


「前線拠点はどうだ?」


真っ先に浮かんだのは、つい数日前までいた場所だった。顔見知りの兵も大勢いる。


けれど、王都から連絡が届けばどうなる。


俺を抱きしめて喜んでくれた兵たちが、今度は剣を向けてくるのだろうか。


けれど、まだ何も分からない。あの兵たちまで敵だと決めるのは早い気がした。


「前線へ戻るのか?」


セレスに聞かれて、俺は首を振った。


「いや……、無理だな」


「なら他は?」


「他って……」


「故郷でも、知り合いのおる町でもよい。お前にも何かあるじゃろ」


「ないよ」


セレスが首を傾げる。


「ない?」


「帰れるところ」


昔いた孤児院のことを忘れたわけじゃない。けれど、今更そこへ逃げ込む気にはなれなかった。俺を匿ったと分かれば、迷惑をかけるだけだ。


勇者になってからは、王都へ行けと言われれば王都へ行った。前線へ向かえと言われれば前線へ行ったし、魔王城へ向かうときも、迷うことはなかった。


行き先はいつも決まっていて、俺はそこへ向かえばよかった。


魔王を倒した後のことなんて、考えたこともなかった。


「……思いつかない」


「何がじゃ」


「俺が行きたいところ」


セレスは何か言うかと思ったが、意外にも黙っていた。


しばらくして、腹が思ったより大きな音を立てた。セレスが無言でこちらを見る。


「……何だよ」


「別に」


「笑うなよ」


「笑っておらん」


どう見ても笑っている。


腹が減っていることに、そこでようやく気づいた。王城から逃げることになるなんて考えてもいなかったから、当然、食料も旅支度もない。


「まず食い物じゃな」


「分かってる」


立ち上がろうとして腰へ手をやり、そこでまた剣がないことを思い出した。


「……剣、城に置いたままだ」


「そうじゃな」


逃げる途中にも一度気づいたはずなのに、それどころではなくてすっかり頭から抜けていた。


勇者なのに剣がない。そもそも、今の俺が勇者と名乗っていいのかも分からない。


「攻撃手段ならあるじゃろ」


セレスが言った。


「どこに?」


「お前の中じゃ」


俺は自分の胸元へ目を落とした。


「お前の力か」


「今はお前が持っておる」


王城でルシエラの術を弾いたときの感覚を思い出す。


武器にしろと言われても、あの力をまともに扱える気がしない。ルシエラの術を防いだときは力が出すぎたし、転移だって王城のすぐ外までしか飛べなかった。


「ちゃんと扱える自信がないんだけど」


「そのままにしておくわけにもいくまい」


「それはそうだけどさ」


「わしの力なのじゃから、使い方なら教えられる」


数日前まで殺し合っていた相手に魔法を教わることになるとは、さすがに思っていなかった。


「……何じゃ、その顔は」


「いや。変なことになったなと思って」


「今更か?」


「今更だな」


そう返したところで、王城でのことが頭をよぎった。


レオルド殿下。


ルシエラ。


ガイルとフィーネ。


俺が何を言っても、結局誰にも届かなかった。


「アルト」


セレスに呼ばれ、顔を上げる。


「考えるのは構わんが、腹は膨れんぞ」


「分かってるって」


「剣も勝手には生えてこん」


「それも分かってる」


「で、どうするのじゃ」


さっきと同じ問いなのに、今度は少し考えられた。


行きたい場所も、これからどうするのかもまだ分からない。


けれど、ここに座っていれば王都から来た連中に見つかるかもしれない。


俺は立ち上がって服についた土を払った。


「まず、もっと王都から離れる」


セレスが黙って聞いている。


「人の多い街道はなるべく避けたい。暗くなる前に休める場所も探す。食べ物と剣は……そのあと何とかする」


「魔法は?」


「人のいない場所を見つけてからだ。ここで試して何か壊したら目立つだろ」


「ほう。そこまで頭が回るなら十分じゃ」


「お前、俺を何だと思ってるんだよ」


「わしを斬った勇者」


「今、それを言うか」


思わず言い返してから、ガイルとフィーネの顔が浮かんだ。


二人は今、どうしているんだろう。


俺が逃げたあと、何を聞かされているんだろう。


気にはなったが、それを確かめに王都へ戻るわけにもいかない。


セレスが俺の足元までやって来る。


「では、行くか」


「ああ」


「で、どこへじゃ?」


「……まだ分からないよ」


セレスが呆れたようにこちらを見た。


「でも、まず王都から離れる。それでいいだろ」


「最初よりはましじゃな」


「うるさい」


外套を持ち上げると、セレスはもう慣れた様子で腕を伝って中へ潜り込んだ。


結局、行き先は決まらないまま、俺は王都から離れる方へ歩き出した。


少し進んだところで、遠くから馬の蹄の音が聞こえてきた。しかも、一頭じゃない。


足を止めて振り返ると、王都から続く街道の向こうに、複数の騎馬が見えた。さっき門を飛び出してきた連中かもしれない。


外套の中でセレスが動く。


「……早かったのう」


「まだ俺を追ってるって決まったわけじゃない」


「なら、そこで待って確かめるか?」


俺は街道からさらに離れる方へ身体を向けた。


「するわけないだろ」


後ろから、騎馬の音が少しずつ近づいてきていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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