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魔王を倒した勇者の俺、今度は魔王として国に追われています ~相棒になった黒蜥蜴は元魔王です~  作者: 椎井 たける
第1章

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第11話 勇者の孤立

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

「カリュドリア王国の勇者アルトだ!」


俺の声が消えたあとも、誰も何も言わなかった。


ガイルは俺を見たまま黙っている。フィーネも同じだった。


二人なら分かってくれると思っていた。それなのに……。


「……分かった」


陛下が口を開いた。


「アルト。お前の言い分は聞いた」


「では――」


「だが、ここで何もなかったことにするわけにもいかぬ」


陛下はルシエラへ目を向け、それから俺へ視線を戻した。


「お前の中に、これまでにはなかった大きな力がある。それは間違いないのだな?」


「……はい」


俺の身体にセレスの魔力が入っている。それどころか、さっき自分で使ってしまった。もう、否定はできない。


「余は、今この場でお前を魔王と断じるつもりはない」


俺は陛下を見た。


「本当ですか?」


「分からぬものを、分からぬまま決めるわけにはいかぬ。魔王が最後に使った術についても、お前の身体に起きた変化についても調べる必要がある」


「はい。俺も、それを調べてもらうために王都へ戻ってきたんです」


ようやく話を聞いてもらえた気がした。ルシエラだけで分からなくても、王都ならもっと詳しい人だっているはずだ。


「ただし」


陛下の声で、考えが止まった。


「結論が出るまで、お前を自由にしておくことはできぬ」


「え?」


「先ほどの力を見れば分かるだろう。万一、またお前が力を抑えきれぬようなことがあれば、この国だけの問題では済まぬ」


「でも、あれは俺が自分で――」


言いかけてやめた。


俺が使おうとしたのは本当だ。ほんの少し防ごうとしただけだったけれど、結果としてルシエラの聖魔法を吹き飛ばした。


「調査が終わるまで、王城内に留まれ。剣も預からせてもらう」


陛下がそう言うと、壁際に控えていた騎士が二人、こちらへ歩いてきた。


俺は、思わず腰の剣へ手を置く。


騎士の足が止まり、その手が剣へ伸びた。


「あ……」


違う。


戦うつもりなんてなかった。ただ、反射的に手が行っただけだ。


俺は剣から手を離した。


「分かりました」


剣帯を外し、鞘ごと差し出す。


騎士はすぐには受け取らなかった。俺の手元を見たあと、ゆっくり手を伸ばしてくる。


そんなに警戒しなくても何もしないのに。


「アルト」


レオルド殿下だった。


「今は陛下のお言葉に従ってくれ。調べれば、お前が言っていることが正しいのかも分かる」


「殿下も……俺が魔王だと思ってるんですか?」


「そうは言っていない」


殿下の返事は早かった。


「だが、違うとも言い切れない。だから調べるんだ」


それ以上、何も言えなかった。


剣を受け取った騎士が下がり、代わりにもう一人が俺の前へ来た。


「両手を出してください」


「両手?」


騎士の手には拘束具があった。


「待ってください。王城に残るのは分かりました。でも、そこまでする必要がありますか?」


「アルト」


今度はルシエラが呼びかけてきた。


「今は従ってください。あなた自身も、まだその力を扱いきれていないのでしょう?」


昨日までなら、ルシエラにそう言われれば素直に従っていたと思う。

今は、それができなかった。


「俺は誰かを傷つけたりしない」


「分かっています」


「だったら――」


「だからこそです」


ルシエラは静かに俺を見ていた。


「何も起こらないうちに、きちんと調べましょう」


何も起こらないうちに。


まるで、これから俺が何かするみたいじゃないか。


胸元で、セレスがわずかに動いた。


「アルト」


小さな声が外套の内側から聞こえた。


俺はあえて反応しなかった。


今、セレスがいることまで知られたら、余計に話がややこしくなる。


「アルト、どうするんじゃ」


聞こえないふりをしていると、騎士がもう一度手を差し出してきた。


「両手を」


俺は自分の手を見た。


これを受ければいい。


少しの間だけだ。調べてもらって、俺が俺だと分かれば全部終わる。


「アルト」


ガイルの声に顔を上げる。


「今は言う通りにしてくれ」


「ガイル?」


「俺だって、お前が魔王だなんて思いたくねえよ。でも、さっきの話を聞いたら……何も調べないまま大丈夫だとも言えないだろ」


ガイルは怪我が痛むのか、一度顔をしかめた。


「ちゃんと調べてもらえ。それで何もなけりゃ終わりだ」


フィーネも治療師に支えられたまま、俺を見ている。


「わたしも……その方がいいと思う。アルトが言っている通りなら、きっと分かるから」


「……そっか」


二人とも、俺を魔王だと言っているわけじゃない。


それなのに、さっきまでよりずっと遠くにいるように感じた。


「逃げた方がよいぞ」


セレスの声がした。


俺は周りに聞こえないよう、小さな声で返した。


「何言ってるんだよ」


「聞こえておるじゃないか」


「今それどころじゃない」


「だから言っておる」


騎士が怪訝そうに俺を見る。俺は咳払いで誤魔化した。


胸元から、またセレスの声がする。


「逃げた方がよい」


「逃げたら、本当に俺が魔王だと思われるだろ!」


思ったより声が強くなり、俺は慌てて声を落とした。


「俺は逃げない。調べれば分かるんだ。俺は俺なんだから」


セレスはしばらく何も言わなかった。


「……奴らの目を見ろ」


「目?」


言われて、顔を上げる。


俺の前にいる騎士は、いつでも動けるよう腰を落としていた。少し離れた騎士たちも、剣の柄に手をかけている。


広間に集まっていた人たちは、さっきよりずっと俺から離れていた。


ガイルとフィーネも、俺に従えと言った。


レオルド殿下もルシエラも、騎士たちを止めようとはしなかった。


「アルト。大人しく従ってください」


騎士が近づいてくる。


手首を掴まれそうになり、反射的に腕を引いてしまった。


ガチャッ、と周囲で一斉に金属音が鳴った。


何人もの騎士が剣を抜きかけている。


「待ってくれ!」


俺は両手を上げた。


「今のは違う! 抵抗するつもりじゃない!」


「ならば動くな、アルト」


レオルド殿下の声が飛んできた。


「でも――」


「アルト!」


ガイルまで俺を呼んだ。


ただ腕を引いただけなのに、周りでは剣を抜こうとしている。


本当に、俺が何かすると思ってるのか?


胸元でセレスが動く。


「どうするんじゃ?」


分からない。


「わしはどっちでもよいがな。ここで捕まりたいなら、好きにせい」


騎士がまた一歩近づいた。


逃げたら駄目だ。


逃げたら、俺が魔王だって認めるようなものだ。


でも、このまま捕まって、本当に分かってもらえるのか。


さっきまでなら、調べてもらえばいいと思っていた。


今は、それすら分からない。


「アルト。両手を」


もう一度言われる。


俺は騎士を見ることができず、胸元へ視線を落とした。


「……セレス」


「何じゃ」


「どうすればいい?」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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