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魔王を倒した勇者の俺、今度は魔王として国に追われています ~相棒になった黒蜥蜴は元魔王です~  作者: 椎井 たける
第1章

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第10話 勇者アルト

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

「アルトよ」


陛下の声に、俺は顔を上げた。


「魔王城へ入ったのは、お前だけではなかったな」


「……はい。ガイルとフィーネも一緒でした」


「二人は今、どこにいる?」


レオルド殿下が答える。


「王城の医務室です。ガイルはすでに意識を取り戻しています。フィーネも、先ほど目を覚ましたと報告を受けています」


「話せる状態なら、ここへ呼べ。だが、無理はさせるな」


「承知しました」


控えていた兵が玉座の間を出ていった。


二人に聞いてもらえるなら、きっと分かる。


ガイルもフィーネも俺と一緒に魔王城まで行った。最後こそ気を失っていたけれど、それまでずっと同じ場所で戦っていたんだ。


しばらくして扉が開いた。


先に入ってきたのはガイルだった。まだ身体が痛むのか、歩き方はゆっくりしている。


その後ろから、治療師に付き添われたフィーネが入ってきた。顔色はまだ悪く、歩くのもつらそうだった。


二人とも、広間の真ん中にいる俺を見ると足を止めた。


「アルト?」


ガイルが先に声をかけてきた。


その呼び方を聞いて、思わず一歩近づきそうになる。


「ガイル」


「何だよ、これ。どうなって――」


「二人とも」


陛下の声で、ガイルが口を閉じた。


二人が玉座へ向き直る。ガイルが片膝をつこうとし、フィーネも治療師に支えられながらそれに続こうとした。


「そのままでよい」


陛下が二人を制した。


「治療中のところをすまぬ。魔王城でのことについて、確認したいことがある」


「……はい」


ガイルが答え、フィーネも小さく頷いた。


「魔王との最後の戦いを見ていたか?」


ガイルとフィーネが一度、互いを見た。


「……いえ。途中で意識を失いました」


ガイルが答える。


「目を覚ましたのは、魔王城を出たあとです。最後に何があったのかは見てません」


「フィーネは?」


「同じです。魔力を使い切って倒れてしまったので……魔王が倒されたところは見ていません」


あのとき、ガイルは壁際で倒れていたし、フィーネも魔力を使い果たして動けなくなっていた。二人には、本当に最後のことが分からないんだ。


「では、最後まで意識があったのはアルトだけということか」


「そうなります」


レオルド殿下の言葉にガイルが答え、すぐに付け足した。


「でも、俺たちが倒れるまでは間違いなくアルトでした。こいつが一人で前に立って、魔王と戦ってたんです」


「それは疑っていない」


殿下は穏やかな声のままだった。


「問題にしているのは、その後だ」


ガイルは口を開きかけたが、何も言わなかった。


陛下が二人を見る。


「お前たちには、そこにいる者がアルトに見えるか?」


ガイルが困ったように俺を見る。


「アルトに見えます。声も喋り方も、俺の知ってるアルトです」


フィーネも小さく頷いた。


「わたしにも、そう見えます」


「だったら――」


言いかけた俺より先に、レオルド殿下が口を開いた。


「魔王がアルトの身体へ憑依したのであれば、外見が変わらないのは当然だろう」


「でも、殿下」


「ガイル。お前たちの目にはアルトに見える。それは分かった。では、アルトが戦いの中で、これまでとは明らかに違う力を使ったことは?」


「……ないです。俺が見てた限りでは」


レオルド殿下は今度はフィーネへ目を向けた。


「フィーネ。ルシエラは、今のアルトに魔王と同質の膨大な魔力があると確認している。旅の間にも、そのような魔力を感じたことはあったか?」


フィーネは少し考えてから、首を横に振った。


「……ありません。旅の間、アルトにそんな魔力はありませんでした」


反論できなかった。


俺だって魔王を倒すまで、あんな力を持っていなかった。


「待ってください」


それでも、このまま話を進められるわけにはいかない。


「それは俺も認めます。あの力は、魔王を倒したあとに入ってきたものです。前から持っていたなんて言ってません」


「アルト」


レオルド殿下が俺を見る。


「ならば、お前自身も、魔王を倒した前と後で変化が起きたことは認めるのだな」


「魔力の話です。俺自身が変わったなんて言ってません!」


思ったより大きな声が出た。でも、もう抑えられなかった。


「ガイル、俺だよ。分かるだろ?」


今度はガイルへ向き直る。


「王都へ来る途中だって話したじゃないか。目を覚ましたお前に、魔王を倒したって話した。お前が道を見つけてくれたから魔王城まで行けたって、俺が言っただろ」


「……ああ」


「フィーネだって、ずっと一緒に旅してきた。俺がアルトじゃないなら、どうして全部覚えてるんだよ」


ガイルが何か言いかけたが、結局そのまま口を閉じた。フィーネも困ったように俺を見ている。


「俺たちしか知らないことだってある。魔族領に入ってからどこを通ったか、誰がどこで怪我をしたか、どんなふうに戦ったか。聞いてくれれば何だって答えられる」


俺たちしか知らないことを答えられれば、それで分かってもらえるはずだ。魔王が俺の身体に入ったというだけで、一緒に旅したことまで知っているはずがない。


「アルト」


ルシエラに名前を呼ばれた。


いつもと同じ、静かな声だった。


「それだけでは、あなたがアルト本人だという証明にはならないと思います」


「どうして?」


「魔王が最後に使った術が、どのようなものだったのか分かっていないからです」


ルシエラは俺を見たまま続ける。


「もし魔王があなたの身体そのものへ憑依したのであれば、あなたの記憶まで引き継いでいる可能性があります。少なくとも、今の段階では否定できません」


「じゃあ……俺が何を覚えていても、駄目なのか?」


ルシエラはすぐには答えなかった。


「俺しか知らないことを話しても、それも魔王が知ってるかもしれないって言われるのか?」


「……可能性の話をするなら、そうなります」


「そんな……」


これじゃ、何を話しても同じじゃないか。


ガイルやフィーネと旅をしたことも、ルシエラに何度も助けられたことも、魔王城で何があったのかも全部覚えている。


なのに、それが全部、俺が俺である証拠にならない。


「だったら、どうすればいいんだ?」


俺は陛下を見た。


「どうすれば、俺がアルトだって証明できるんですか?」


陛下はすぐには答えなかった。


俺はレオルド殿下を見て、ルシエラを見た。それからガイルとフィーネへ目を向ける。


少し前まで、同じ敵と戦っていた人たちだ。


「俺は俺です。魔王なんかじゃない」


ただ、それを分かってほしいだけだった。


「俺はアルトだ!」


声が玉座の間に響く。


「カリュドリア王国の勇者アルトだ!」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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