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第51話 晴れてBランクパーティ

「お前たちの処遇についてだ」


マルクスは、俺の叫びに一瞬だけ目を大きく開いた。


だが、何事もなかったかのように続けた。


「止まらなかったー!」


俺はその場に崩れ落ちた。


「おい、なんだなんだ」


ルークが覗き込んでくる。


セレスも怪訝そうな表情を浮かべこちらへ寄ってくる。


少し離れたところで、レオンがぽつりと呟く。


「処遇……」


もう、だいたい分かる気がする。


俺は床からダグラスを見上げた。


「それ、辞退できないですかねぇ」


ダグラスの口元が、ほんの少し動いた。


「まあ、ひとまず聞け」


「聞いたら遅いやつでは?」


「お前は勘がいいな」


ダグラスは、俺から視線を外して三人を見た。


「お前たちには、ランクアップの話がある」


ルークの顔が変わった。


「ランクアップ?」


「ああ」


「俺たちが?」


「四人ともだ」


「マジかよ!」


ルークの声が跳ねる。


セレスも目を見開いた。


レオンは口元に力を入れダグラスを見ている。


俺は頭を抱えた。


「やっぱりか……」


「何でだよ。いいことじゃねえか」


ルークが言う。


「そんな単純な話だと思うか?」


「意味分かんねえ」


「分かってからじゃ遅いんだよ」


ルークは、さらに分からない顔になった。


できれば俺も、そっち側にいたかった。


「自然大陸での発見、生還、報告」


ダグラスは言った。


「その功績を、総本部として正式に認める。お前たち四人を、Cランク冒険者とする」


「おお!Cランク!すげぇぞ」


ルークが無邪気に喜びを爆発させている。


レオンもセレスも互いに喜びを交わし合っている。


Cランク。


普通であれば素直に嬉しい話だ。普通であれば。


残念なことに、今は状況が普通ではない。


「急すぎないですか?」


俺は悪あがきせずにはいられなかった。


「急という訳ではない」


ダグラスは、すぐに答えた。


「お前たちは知らんかもしれんが、巷ではすでにDランクの範囲で語られていない」


「……どういう意味ですか」


レオンが問う。


「パーティとしての話だ」


ダグラスは言った。


「現場では、すでにBランクパーティ相当と見る声もある」


「B?」


ルークの声が裏返った。


セレスも、さすがに目を見開く。


レオンは黙ったまま、ダグラスを見ていた。


ダグラスは続けた。


「依頼の達成率、判断の速さ、撤退の見極め、報告の精度。実際お前たちは、どれも新人としての水準を超えている」


ルークの顔が、じわじわ明るくなる。


「すげえじゃねえか」


本当に、すごい。


Dランクの俺たちが、Bランクパーティ相当。


普通に聞かされていたら、たぶん俺も立ち上がっていた。


だが、今ここで大喜びしたら、そのまま首に札を掛けられる気がした。


「なんだよ、その顔」


ルークが眉を寄せる。


「いや、嬉しいよ?」


「嬉しいって顔じゃねえぞ」


「顔だけ出遅れてる」


「なんだそれ」


俺にもよく分からない。


ダグラスは、少しだけ口元を動かした。


「そこで今回、お前たち四人をCランクとして認定する」


ダグラスは言った。


「言うまでもないが、パーティランクは在籍メンバーの個人ランク平均の1つ上として扱われる。全員がCランクになれば、お前たちは晴れてBランクパーティだ」


ルークの目が輝いた。


「マジでBランクじゃねえか!」


ダグラスは軽く頷いて続けた。


「評価の根拠も示しておく」


その声で、ルークも口を閉じた。


「レオン・ヴェルク」


「はい」


「養成学校首席。剣の腕、判断、統率。現場に出てからも評価は落ちていない。未来の剣聖などと、気の早い呼び方をする者もいる」


レオンは、わずかに眉を寄せた。


「過大評価です」


「噂は本人の許可を取らん」


淡々と返され、レオンはそれ以上言わなかった。


「ルーク・ガルド」


「おう」


「攻撃盾」


その一言で、ルークの口元が上がった。


「その呼び方、総本部まで届いてんのかよ」


「お前が気に入っている名だろう」


マルクスが真顔で言った。


ルークは一瞬だけ黙り、それから鼻の下をこすった。


「まあ、悪くねえとは思ってる」


「ガードの新しいスタイルが生まれたと、もっぱらの評判だ」


ダグラスが言った。


「守るために前へ出る。受けるだけで終わらせず、攻めながら相手の動きを潰す。仲間の道を作る盾役として、現場では分かりやすい」


ルークは何か言おうとして、やめた。


代わりに、少しだけ胸を張る。


かなり嬉しそうだった。


「セレス・アルト」


セレスが、静かに顔を上げる。


「養成学校では、首席のレオンの影に隠れがちだった。だが、現場に出てから評価が変わった」


ダグラスの声は変わらない。


「対人、調査、交渉、戦闘。単純な力押しでは解けない依頼を、崩さず処理している。真視を使った見極めも含めて、依頼の終わらせ方が綺麗だ」


セレスは黙って聞いていた。


「一部では、ミス・パーフェクトなどと呼ぶ者もいる」


ルークが横目でセレスを見た。


セレスは前を向いたまま、何も言わない。


ルークはすぐに視線を戻した。


賢明だと思う。


「アレン・ヴァイス」


名前を呼ばれて、俺は少しだけ背筋を伸ばした。


「お前は分かりにくい」


「でしょうね」


そこは否定できない。


「だが、このパーティをBランク相当と見る者は、お前がいてこそだと言う」


ダグラスは言った。


「仲間が動きたい場所を先に作る。必要な支援を、必要になる前に置く。攻めが通る形を作り、守りが意味を持つ状況を作る。派手な武功ではない。だが、戦況を組み上げている」


ルークが、真面目に頷いた。


「それはある」


セレスも、静かにこちらを見る。


「アレンが先に場を作ってくれるから、私たちは迷わず動ける」


レオンも頷いた。


「僕たちがそれぞれの役割に集中できる理由でもあります」


やめてほしい。


いや、むずむずするような嬉しさはある。


だが、本人の前でそこまでまっすぐ言われると、反応に困る。


「周囲の評価に、制度上のランクが追いついた」


ダグラスは言った。


「つまり、そういうことだ」


「……まあ」


俺は頭を掻いた。


「そこまでなら、ありがたい話です」


ダグラスは、少しだけ目を細めた。


「そこまでなら?」


ルークが聞き返す。


俺は答えず、ダグラスを見た。


「Cランク以上でなければ、正式に同席できない場がある」


ルークが怪訝そうに聞き返した。


「同席?」


「グランドオーダーの内側では、今後、要人対応が増える」


ダグラスは続けた。


「各大陸の関係機関、ギルド上層部、場合によっては貴族家や領主筋とも接点が出てくる。赤い月の第一発見者であるお前たちを、完全に外すことはできない」


「貴族……?」


ルークが呟いた。


「ほらみろ、やっぱり厄介事じゃないか」


俺は、ゆっくりと息を吐いた。


「Cランクも、Bランクパーティ扱いも、そこだけなら俺だって喜ぶよ。普通にめちゃくちゃ嬉しい」

「でも、この場でその話が出てくる時点で、裏がありますって言ってるようなもんなんだよ」


ルークが口を閉じた。


少し遅れて、顔をしかめる。


「……戦って勝てば終わり、じゃないやつか」


「そういうやつだよ」


「うわ」


ルークは、小さく呻いた。


さっきまでの喜びが、だいぶ現実に追いついた顔だった。


「……辞退するわけには…」


「もう聞いてしまったからな、外堀は埋まってる」


今度こそルークは固まってしまった。


レオンは静かに息を吐き、話題を変えるように言った。


「それはそうと、なぜこの話をマルクスが?」


レオンの言葉で、全員の視線がマルクスへ向いた。


言われてみれば、そうだ。


俺たちのランクアップに関わる話だ。


どう考えても、最初に口を開くのはダグラスのはずだった。


マルクスは腕を組んだまま、いつもの真顔で言った。


「教え子の昇級だ。俺が一番に伝えて何が悪い」


「悪くはないですけど」


俺は言った。


「その言い方だと、かなり私情が入ってません?」


「入っているな」


即答だった。


ルークが目を丸くする。


「入ってんのかよ」


「当然だろう」


マルクスは表情を変えない。


「お前たちは俺の教え子だ」


その一言に、少しだけ言葉が詰まった。


茶化そうと思えば茶化せる。


けれど、真顔で言われるとやりづらい。


「それに」


マルクスは続けた。


「こいつに全部持っていかれるのも癪でな」


そう言って、親指でダグラスを指す。


こいつ。


グランドマスターを、こいつ。


ルークがゆっくりとダグラスを見た。


「……こいつ?」


ダグラスは少しだけ肩を揺らした。


「昔からこういう男だ」


「昔から?」


セレスが問い返すと、ダグラスは頷いた。


「マルクスとは、冒険者時代に同じパーティを組んでいた」


部屋の空気が、一瞬止まった。


「は?」


ルークの声が漏れる。


俺も、たぶん似たような顔をしていたと思う。


「同じパーティ?」


「ああ」


ダグラスは平然と言った。


「今でこそ俺は総本部にいて、こいつは教官をしているが、現役時代は同じパーティだった」


「マルクス」


俺はマルクスを見る。


「情報量が多くて処理できないんだが」


「聞かれなかったからな」


「聞いて出てくる話か、それ」


マルクスは答えなかった。


真顔のまま、少しだけ口元を動かす。


どう見ても、面白がっている。


「つまり、この処遇判断にはマルクスの意見も入っている、ということですか」


レオンが確認する。


「そうだ」


ダグラスが答えた。


「俺のところへ上がってきた報告を確認した後で、マルクスにも見解を聞いた。現場でお前たちを見てきた人間だからな」


マルクスは腕を組んだまま、何も言わない。


「それで、最初の一言を譲ったんですか?」


セレスが言う。


「本人が譲れと言ってきた」


ダグラスは短く答えた。


「マルクスが?」


俺は思わず聞き返した。


マルクスは平然としている。


「教え子の昇級を伝える機会など、そう何度もあるものではない」


「真顔で情を出すの、やめてもらっていいですか」


「嫌か?」


「嫌ではないですけど、反応に困るんですよ」


ルークが横で笑った。


少しだけ、場の空気が緩む。


けれど、ダグラスの視線はすぐに戻った。


「話を戻す」


その一言で、空気が締まった。


「お前たちのCランク認定は、褒賞であり、同時に立場の整理でもある。今後、グランドオーダーの中でお前たちをどう扱うか。そのための前提だ」


やっぱり、そこに戻る。


俺は小さく息を吐いた。


「で、その前提が整ったところで、次は正式な依頼ですか」


ダグラスの目が、少しだけ細くなる。


「本当に勘がいいな」


「褒められてる気がしないんですよね、それ」


「褒めている」


「なら、もう少し嬉しい内容でお願いします」


ダグラスは答えず、机の上の資料に手を置いた。


「お前たち四人に、総本部から正式な依頼を出す」


ルークの笑みが消えた。


セレスは静かに姿勢を正す。


レオンも表情を引き締めた。


俺は、頭を抱えたいのを我慢した。


ここで抱えたら、また話が止まらない気がした。

ナナセカをお読みいただき、ありがとうございました!

筆者はアレンと違い『分かったフリ(Fake it)』が使えません >_<;

この物語を少しでも気に入っていただけましたら、下の【☆☆☆☆☆】から評価や、ブックマークをいただけますと、執筆の凄まじいモチベーションになります。

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