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第19話 スキル調査開始

スキルについて調べよう。


そう思ったところで、俺は早速行き詰まっていた。


何しろ、何から調べればいいのかが分からない。


Fake it。


分かったフリ。


モノマネスキル。


呼び方だけなら、いくつかある。


けれど、そのどれもが正しい気がしない。


では、何を手がかりに調べればいいのか。


そこから分からない。


分からないことを調べるには、まず何が分からないのかを分かる必要がある。


……最初から詰んでないか、これ。



「というわけで、俺は今、非常に困っている」


昼の食堂。


いつもの席で、俺はそう切り出した。


向かいにはレオン。


その隣にはルーク。


少し遅れて、セレスが盆を持ってやってきた。


「何の話?」


「俺のスキルについて」


「また難しそうな話してるな」


ルークがパンをかじりながら言った。


「難しい話じゃない。難しくなる前に行き詰まってる」


「それはそれで駄目じゃねえか」


「だから相談してるんだろ」


「相談相手の選び方は大事だぞ」


「自分で言うな」


ルークは気にした様子もなく、スープにパンを浸した。


セレスは俺の隣に座ると、盆を置いて首を傾げる。


「スキルの何を知りたいの?」


「それが分からない」


「そこから?」


「そこから」


「思ったより重症ね」


静かな顔で、わりと容赦がない。


「俺としては、自分のスキルが本当に分かったフリなのかを知りたい」


「分かったフリではない可能性があるってこと?」


「たぶん」


「便利ね、たぶん」


「便利だろ」


「今回は少しだけ不便そう」


言い返せない。


実際、不便だった。


何かがありそうなのに、何があるのか分からない。


そういう状態は、分かったフリではどうにもならない。


「スキルについてなら、図書館で調べるのはどうかな」


レオンが言った。


「行った」


「早いね」


「昨日の放課後に少しだけな」


「どうだった?」


「本が多かった」


「図書館だからね」


「分類が分からなかった」


「図書館だからね」


「あと、どれを読めばいいのか分からなかった」


「それは君の問題だね」


レオンが苦笑する。


俺もそこは認めるしかない。


図書館には、スキルに関する本がないわけではなかった。


むしろ、あるにはあった。


技能の分類。


発現の傾向。


系統別の記録。


冒険者における実用例。


それらしい題名の本は、いくつも並んでいた。


けれど、どれも綺麗すぎた。


整理されている。


分類されている。


説明されている。


つまり、俺のスキルとはあまり似ていない。


「マルクスに聞けばいいんじゃない?」


セレスが、何でもないことのように言った。


「嫌だ」


即答した。


「そんな自殺願望はない」


「聞くだけでしょ」


「セレスはマルクスを甘く見すぎてる。あいつは聞いただけで課題を増やす」


「でも、知ってそうなのはマルクスくらいよね」


「正論で人を追い詰めるのやめない?」


「逃げ道を探してる人には、正論が一番効くから」


「怖いな、この優等生」


「褒めても何も出ないわよ」


「褒めたつもりもない」


セレスは少しだけ笑って、スープに口をつけた。


見た目だけなら、静かな優等生そのものだ。


少し離れた席に座っている生徒たちは、たぶん彼女のことをそう見ている。


丁寧で、落ち着いていて、誰に対しても距離感を崩さない優等生。


でも、実際はちょっと違う。


興味がない相手に深入りしないだけだ。


気を許した相手には、わりと遠慮なく刺してくる。


「まあ、聞いた瞬間に課題は増えそうだよな」


ルークが言う。


「だろ?」


「でも聞くしかなくね?」


「お前まで正論側に回るな」


「正論側ってなんだよ」


「俺の逃げ道を塞ぐ側だ」


「それなら、俺はたぶん正論側だな」


「裏切り者め」


「いつ味方になったんだよ」


レオンが小さく笑った。


「一応、僕も当たってみるよ。スキルに詳しそうな生徒と、父にも聞いてみる」


「頼りにしてるぞ、レオン」


「その言い方、もう解決した気でいるね」


「いい友人を持った」


「働く気のない人の台詞だね」


「適材適所というやつだ」


「あなたの適所は、マルクスの前じゃない?」


セレスが涼しい顔で言った。


「やめろ。逃げ道を塞ぐな」


「最初からそこしかないと思うけど」


「そこにあるのは道じゃなくて崖だ」


「じゃあ、落ちないように頑張って」


「突き落とす側の台詞なんだよな」


結局、その日はそこで解散になった。


レオンが当たってくれるなら、少しは何とかなるかもしれない。


首席の優等生で、面倒見もいい。


しかも、妙に顔が広い。


こういう時に頼る相手として、これ以上ない。


俺は少しだけ、明日の昼が楽しみになっていた。



翌日。


同じ食堂の、同じ席。


「マルクスに聞くしかないね!」


開口一番、レオンは言った。


「頼りにならねぇ!」


俺は机に突っ伏した。


「昨日、頼りにしてると言った口でそれを言うのかい」


「期待した分だけ裏切られた気分だ」


「裏切ってはいないよ」


「結果がすべてだろ」


「急に厳しいね」


レオンは困ったように笑いながら、盆を置いた。


「一応、何人かに聞いてみた。父にも当たった。でも、返ってきた答えはだいたい同じだったよ」


「どんな?」


「一般論なら図書館で足りる。けれど、個別の発現や未分類の例を知りたいなら、整理された本では難しい」


「つまり?」


「マルクスだね」


「絶望しかない」


本当に絶望しかない。


想像の中の俺は、すでに三回くらい論破され、追加課題の山に埋もれていた。


「じゃあ、放課後ついてきてくれ」


「嫌だ」


ルークが即答した。


「友達だろ」


「友達だから止めてる」


レオンは苦笑する。


「君自身のスキルの話なら、君が聞いた方がいい」


「正論で殴るな」


「正論側だからね」


「私は行ってもいいけど」


「本当か?」


「でも、私たちがいると、マルクスはその場であなたに答えを出せって言うと思う」


「……言いそう」


「一人の方が、まだ逃げられるんじゃない?」


「それはそれで嫌な助言だな」


その日の放課後。


結局、俺は一人でマルクスのいる教官室へ向かった。



「失礼します」


扉を叩き、中に入る。


マルクスは机に向かって書類を読んでいた。


顔を上げない。


それだけで、もう帰りたくなる。


俺は挫けそうになる気持ちに活を入れ、机の前まで歩いた。


「相談がありまして」


マルクスは、ようやく顔を上げた。


鋭い目が、さらに細くなる。


「続けろ」


続けさせる気があるのか疑わしい声だった。


「スキルについて知りたいんです」


マルクスの右眉が、わずかに動いた。


それだけで、部屋の空気が少し変わる。


「なぜだ」


「自分のスキルが、思っていたものと少し違う気がしてきたので」


マルクスは、しばらく俺を見た。


昨日の講評の時と、少し似た目だった。


嫌な予感がする。


「ようやくか」


「今、ものすごく聞きたくない言葉が聞こえた気がしました」


「ならば聞き流せ」


「聞こえたものをなかったことにするのは、俺のスキル範囲外です」


「その程度のこともできんのか」


「できたらもう少し楽に生きてます」


マルクスは鼻で笑った。


だが、それ以上は茶化さなかった。


手元の書類を机の端へ寄せる。


「図書館には行ったのか」


「行きました」


「成果は」


「本が多かったです」


「成果なし、か」


「そこまで綺麗に要約されると傷つきますね」


「傷つく余裕があるなら続きを話せ」


「……分類されすぎていて、逆に違う気がしました」


マルクスは短く頷いた。


「なら、図書館では足りん」


「やっぱりですか」


「今の図書館にあるのは、整理された知識だ。分類済みのもの。教えるためにまとめられたもの。間違いが少ないもの」


「良いことでは?」


「お前が探しているものが、そこにあるとは限らん」


「……では、どこに?」


「旧館だ」


「旧館?」


聞き返す。


冒険者学校に旧館があることは知っている。


校舎の西側。


今はほとんど使われていない古い建物。


授業で行くことはないし、用事があって近づく場所でもない。


「旧館の奥に、古い資料室がある」


「資料室」


「今の分類に入らなかった報告書、観察記録、失敗した研究、まとめられなかった記録が置かれている」


「つまり、役に立つか分からない物置き場」


「そうだ」


あっさり肯定された。


「そこに何かあるんですか」


「あるかもしれん」


「急に頼りないですね」


「確実な答えが欲しいなら、俺のところに来るな」


「来たくて来たわけじゃありません」


「だろうな」


マルクスは机の引き出しを開けた。


中から、古い鍵を一本取り出す。


「鍵は出しておく。レオンたちも連れて行け」


「一人じゃ駄目ですか」


「お前一人だと、読まずに帰る」


「信頼がない」


「実績だ」


ぐうの音も出ない。


「資料を破損するな。持ち出すな。火を使うな。勝手に整理するな。ほかの部屋には入るな」


「俺を何だと思ってるんですか」


「面倒事」


「分類が雑すぎません?」


「十分だ」


マルクスは鍵を投げて寄越した。


慌てて受け取る。


黒ずんだ金属に、細かい傷がいくつもついている。


思っていたよりも重かった。


「ほかの部屋に入ったら?」


「課題を増やす」


「分かりやすい脅しですね」


「分かるなら守れ」


「はい」


俺は鍵を握り、深々と頭を下げたあと、教官室をあとにした。


負けた気がする。


いや、完全に負けている。


けれど、得るものはあった。


旧館。


古い資料室。


分類されなかった記録。


何が見つかるのかは分からない。


そもそも、何かが見つかる保証すらない。


けれど、少なくとも。


俺のスキル調査は、ようやく始まったらしい。


ナナセカをお読みいただき、ありがとうございました!

筆者はアレンと違い『分かったフリ(Fake it)』が使えません >_<;

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