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第六章 美食の外交戦 三ツ星の至高スープが帝国を平伏させる日

美食の侵略、傲慢なる帝国の来訪

王都ルミナスの中心にそびえる白亜の王城。

その最も奥深くにある謁見の間は今、凍りつくような緊張感に包まれていた。

「――単刀直入に言おう、タロウ王。貴国は我らガルド帝国の『傘下(属国)』に入るべきだ」

玉座の向かいに用意された豪奢な椅子にふんぞり返り、傲岸不遜な笑みを浮かべているのは、大陸最大の軍事大国『ガルド帝国』の皇帝・ギルベルトだった。

彼の背後には、威圧感を放つ帝国近衛兵たちがズラリと並んでいる。

対するルミナス王国国王、タロウ・ルミナス(元日本人転生者)は、片眼鏡モノクルの奥の目を細めた。

「親善訪問と聞いていたが……いきなり随分な挨拶だな、ギルベルト皇帝。我が国は武力で屈するようなヤワな国ではないぞ?」

「武力? ハッハッハ! 野蛮な真似はせんよ。今や時代は『文化』だ」

皇帝がパチンと指を鳴らす。

すると、近衛兵たちが道を開け、一人の初老の男が前に進み出た。

純白のコックコートに、金糸で刺繍された帝国の紋章。

その身から立ち昇る魔力は、並の魔法使いを遥かに凌駕し、空間そのものを陽炎のように歪ませている。

「紹介しよう。我が帝国が誇る、大陸唯一の『料理神』……バルバロスだ」

「料理神……だと?」

ルミナス王国の宮廷料理長たちが、顔面蒼白になって後ずさった。

料理人でありながら、魔法の神髄を極め、「伝説の魔獣」すら己の力のみで狩り、調理すると言われる生ける伝説。

「お初にお目にかかる、辺境の王よ」

バルバロスは恭しく一礼したが、その目には明確な侮蔑の色が浮かんでいた。

「我が帝国の美食は、すでに大陸全土を席巻しつつある。食という絶対的な『快楽』と『魔力増強』の前に、もはや剣も魔法も無力。……あなた方の貧相な食文化では、我が帝国の足元にも及ばない」

「なんだと……! 我が国の宮廷料理を侮辱するか!」

ルミナスの宮廷料理長が声を荒げるが、バルバロスは鼻で笑った。

「では、見せてやろう。……『これ』をどう調理する?」

バルバロスが亜空間収納アイテムボックスから取り出したのは、赤黒く脈打つ、巨大な肉の塊だった。

それが出現した瞬間、謁見の間に凄まじい熱波と竜の咆哮のような圧力が吹き荒れる。

「ひぃっ!?」

「そ、それは……まさか『神竜バハムート』の肉……!?」

宮廷料理長が腰を抜かしてへたり込んだ。

「いかにも。これこそが帝国の国力であり、私の力だ。神竜の肉は、ただ火を通しただけでは猛毒の瘴気を放つ。並の料理人では、触れることすら叶わん」

バルバロスは自らの手に紅蓮の魔力を込めた。

「『神炎調理』……!」

ボォォォォォォッ!!

彼の手から放たれた炎が肉を包み込む。瘴気を一瞬で焼き尽くし、逆に旨味へと変換する超高等魔法調理。

数秒後には、暴力的なまでに芳醇な香りが王城全体に漂い始めた。

「……ッ!!」

「なんて香りだ……! 匂いを嗅いだだけで、魔力が溢れ出してくる……!」

ルミナスの文官や近衛兵たちが、思わず生唾を飲み込む。

それは圧倒的な「格の違い」を見せつけるデモンストレーションだった。

「一週間後だ」

皇帝ギルベルトが、勝ち誇ったように宣言した。

「一週間後、この王都の闘技場にて『料理勝負(食の外交戦)』を行おう。我が帝国はバルバロスを出す。貴国も、最も腕の立つ料理人を出すがいい。……もし貴国が負ければ、ルミナスの民は帝国の食文化なしでは生きられなくなる。実質的な『文化侵略』の完了だ。大人しく属国となることだな」

高らかに笑いながら、皇帝とバルバロスは謁見の間を後にした。

「こ、国王陛下……! 申し訳ございません! 相手が料理神では……神竜の肉を出されては、我々にはどうすることも……!」

残された宮廷料理長たちが、タロウの足元で泣き崩れる。

誰もが絶望していた。

神竜の肉を、圧倒的な魔力で調理する料理神。そんな存在に、どうやって勝てというのか。

しかし。

玉座に座るタロウは、焦るどころか、ニヤリと口角を上げていた。

「……泣くでない、料理長たちよ。確かに相手の『魔法』と『食材』は素晴らしい。だが……それだけだ」

タロウは前世(日本)の記憶を思い返していた。

学園祭のゴミ捨て場で食べた、あのジャンクで、暴力的で、計算し尽くされた一杯のラーメンの味を。

「ギルベルトよ、貴様は知るまい。……この国には、神すらも調教する『最凶の悪魔(三ツ星シェフ)』がいることをな」

タロウは側近を呼び寄せ、小声で命じた。

「……至急、ルミナス学園の1-Aへ向かえ。あの『少年』をここへ連れてくるのだ」

   ◇

その頃、ルミナス学園。

問題児クラス1-Aの教室では、平和な日常が流れていた。

「……よし、明日のオヤツは『特製カスタードのシュークリーム』にするか。イグニスの火力で一気に生地を膨らませて……」

リアンは教室の片隅で、フライパンを磨きながらレシピの組み立てに没頭していた。

「シュークリーム!? やったぁぁぁ!!」

「リアン様! 私、10個食べますわ!」

「俺様は20個だぜ!」

リーザやイグニスたちが歓喜の舞を踊っている。

ダンジョンでの一連の騒動も終わり、ようやく平穏な裏稼業(料理人)ライフが戻ってきたと思っていた。

バァーンッ!!

「リアン君ッ!!」

教室のドアが勢いよく開き、王国の近衛兵(黒服)たちが雪崩れ込んできた。

「……あ? なんだお前ら。借金の取り立てなら理事長室へ行け」

俺が冷たく言い放つと、黒服たちは俺の前に跪いた。

「国王陛下からの勅命です! リアン殿、どうか……どうか我が国を救っていただきたい!!」

「……はぁ?」

俺は磨いていたフライパンを置いた。

まったく、この世界は俺にゆっくり料理もさせてくれないらしい。

「国を救えだ? 人違いだろ。俺はただの学生で、しがない料理人だぞ」

「だからこそです! 相手は帝国が誇る『料理神』! 料理で……料理で国が乗っ取られようとしているのです!!」

黒服の言葉に、俺は少しだけ眉を動かした。

「料理で国が乗っ取られる……?」

「はい! 相手は伝説の『神竜の肉』を魔法で調理する、化け物のような料理人です! 宮廷料理長たちも逃げ出しました!」

「神竜の肉に……魔法調理ねぇ」

俺は白衣(給食当番用)の襟を正し、鼻で笑った。

「……魔法だの、伝説の食材だの。そんなもんに頼ってる時点で、そいつは『三流』だ」

俺の言葉に、黒服たちが息を呑む。

「国を救う義理はないが……俺の料理道を邪魔する『自称・神』がいるなら、話は別だ。……教えてやろうぜ。料理ってのは、そんな単純なもんじゃないってことをな」

俺は愛用のミスリル包丁を腰に差し、立ち上がった。

最高級の食材を気取る帝国。

相手にとって不足はない。

「行くぞお前ら! 最高の『ざまぁ(フルコース)』の仕込みだ!」

「「「オオォォォッ!!」」」

イグニスたちが雄叫びを上げる。

こうして、俺たち『ルミナス少年探偵団』は、国の存亡を賭けた美食の外交戦へと駆り出されることになったのだ。

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