EP 2
料理神の嘲笑と、ゼロ円の予算(再び)
王城の特別応接室。
そこには、ガルド帝国の皇帝ギルベルトと、料理神バルバロスがふんぞり返っていた。
ルミナス国王であるタロウが「我が国の代表だ」と紹介した相手を見て、二人は数秒ほど呆けた後――腹を抱えて大爆笑した。
「ブッ……ハハハハハッ!!」
「こ、これは傑作だ! 王国の威信を懸けた料理勝負に、給食当番の白衣を着た『子供』を連れてくるとは!」
バルバロスが、涙を拭いながら俺を指差した。
その後ろに控えるイグニスやリーザたちを見て、さらに嘲笑を深める。
「遠足のついでか? 遊び半分で王宮に立ち入るとは、ルミナス王国も地に落ちたものだ」
俺はバルバロスの安い挑発を無視し、タロウ王に向き直った。
「で、おっさん(国王)。勝負の形式はどうなってる?」
「うむ。一週間後、王立闘技場にて数万の観衆と、中立国の王族たちを審査員に招いての『フルコース一品勝負』だ。先に言っておくが、負ければ国が乗っ取られるぞ?」
「……ずいぶんと重いプレッシャーをかけてくれるじゃないか。まあ、時給次第でやってやるよ」
一国の王を「おっさん」呼ばわりする俺の態度に、帝国側の人間は信じられないものを見るような目を向けた。
「き、貴様! 国王陛下と皇帝陛下の御前であるぞ!」
「フン、所詮は礼儀も知らぬ平民のガキか。……まあよい」
バルバロスが腕を組み、見下ろすように俺を一瞥した。
「小僧。料理を『お遊び』だと思っているお前に、教えてやろう。至高の美食とは、すなわち『至高の素材』と『絶対的な魔力』の結晶であることをな」
バルバロスは指を鳴らした。
すると、彼の背後に控えていた弟子たちが、厳重に封印された宝箱を二つ運び込んできた。
「一つ目は、先ほども見せた『神竜の肉』。そしてもう一つは……『不死鳥の卵』だ」
宝箱が開かれると、眩いばかりの黄金の光と、濃密な魔力が部屋中に充満した。
「神竜の肉は、食す者に強靭な生命力を。不死鳥の卵は、不老長寿の魔力を与えると言われている。これらを私の『神炎調理』で融合させた至高の逸品……。それが私の一皿だ」
バルバロスは勝ち誇った顔で、俺に顔を近づけた。
「さあ、お前は何を使う? 王国の国庫を空にしてでも、幻の魔獣でも探しに行くか? まあ、どんな食材を用意しようと、私の前ではただの『生ゴミ』だがな」
「…………」
俺は小さく息を吐き、頭をかいた。
「おい、タロウのおっさん。今回の予算はいくらだ?」
「国庫から金貨1万枚(約10億円)までなら出せる。それで世界中の商人から極上の食材を集めるがよい」
「金貨1万枚か。……悪いが、そんな大金は必要ない」
俺の言葉に、タロウ王が目を丸くする。
「なっ……資金が要らぬと申すか!?」
「ああ。そんな無駄金を使うくらいなら、学園の設備投資にでも回してくれ。俺が使う食材の予算は……そうだな」
俺はニヤリと笑い、バルバロスに向かって指を突きつけた。
「銀貨3枚(約300円)もあれば十分だ」
「……は?」
バルバロスが間抜けな声を漏らした。
「銀貨3枚だと? 貴様、正気か!?」
「正気だよ。俺が使うのは、市場で売れ残った『硬い廃鶏(卵を産み終えて肉が硬くなった鶏)』と、その辺の乾物屋でホコリを被ってる『干しキノコ』、あとは『乾燥した海草(昆布)』だ」
「ブハッ! 廃鶏に干からびたキノコだと!?」
バルバロスだけでなく、皇帝ギルベルトまでもが吹き出した。
「捨てられるようなゴミ食材で、神竜と不死鳥に勝つと申すか! あまりの恐れ多さに、気が狂ったと見える!」
「勝負にすらならんな。当日はせいぜい、観衆の前で恥をかくがいい」
帝国側は完全に俺を『哀れな道化』として扱い、嘲笑しながら応接室を去っていった。
だが――。
残された王国側(ルミナス少年探偵団)の空気は、彼らの予想とは全く違っていた。
「……あーあ。やっちまいましたわね、あのお爺ちゃん」
リーザが呆れたようにため息をついた。
「リアン様が『安い食材』を指定した時が、一番エグい料理が出てくるというのに」
「ガハハ! 違いねぇ! 相手が高級路線で調子に乗ってりゃ乗ってるほど、リアンの『カウンター』は重く入るんだよな!」
イグニスが腹を抱えて笑う。
「干しキノコに海草……。地味な食材だけど、リアン君が使うなら間違いなく『バズる魔法』がかかるわね! 配信のサムネは『神竜VSゴミ食材』で決まりよ!」
キュララが早くも動画の構成を考え始めている。
誰も、俺が負けるなどとは一ミリも思っていなかった。
「……リアン君。勝算は、あるのだな?」
タロウ王が、モノクルの奥から真剣な眼差しを向けてくる。
彼も転生者だからこそ、俺が前世の『何か(チート)』を持ち出すことには気づいているはずだ。
「ああ。神竜だか不死鳥だか知らないが、あいつらの料理は根本的に間違ってる。食材の持つ『ステータス(魔力やレア度)』に胡坐をかいて、料理の本質を忘れてるんだよ」
俺は白衣のポケットからメモ帳を取り出し、食材のリストを書き殴った。
「料理ってのは、足し算じゃない。『掛け算』だ。……現代の『旨味の科学』で、あの神様とやらの舌を根底からへし折ってやるよ」
◇
数日後。ルミナス学園、1-Aの厨房(兼・実験室)。
「よし、買ってきたぞリアン! 市場で一番安くて硬い『廃鶏』と、カラカラに乾いた『シワシワのキノコ』だ!」
イグニスがドサッとテーブルに置いたのは、見た目にはとても美味しそうとは言えない食材の山だった。
肉は筋張って赤黒く、キノコは水分が抜けて石のように硬い。
「ご苦労。……さて、それじゃあ『旨味の爆弾』の仕込みを始めるか」
俺はミスリル包丁を手に取り、不敵な笑みを浮かべた。
相手は炎の魔法と伝説の食材。
ならばこちらは、徹底的な『温度管理』と『アミノ酸の抽出』で勝負する。
異世界の常識を破壊する、三ツ星の『科学チート』の開幕だ。




