EP 8
フロアマスター、ゲーム対決
「ワタシハ、当施設ノ最高責任者……『GM・ロボ』デス」
機械的な合成音声が響き渡る。
メイドカフェの奥から姿を現したそのロボットは、アーケードゲームの筐体をそのまま手足にしたような異形の姿をしていた。
胸部には巨大なモニター、両腕は複数のジョイスティックとボタンで構成されている。
「貴様ラハ、当施設ノルールヲ乱シ、器物ヲ破損シマシタ。コノママ帰スワケニハ、イキマセン」
「へっ。やるってのか? 上等だぜ、鉄クズ野郎!」
イグニスが腕を鳴らして前に出るが、GMロボは赤いランプを点滅させて首を振った。
「暴力ハ禁止デス。当施設ノルールニ則リ……『ゲーム』デ勝負シマショウ。三本勝負デス」
GMロボの胸のモニターに、「ROUND 1」の文字が映し出された。
「ワタシニ勝テバ、見逃シマス。タダシ負ケタ場合ハ……貴様ラノ魔力ヲ、当施設ノ永久動力トシテ搾取シマス」
「永久動力!? それって死ぬまで出られないってことかよ!」
「面白そうね! 配信的には最高のデスゲーム展開よ!」
キュララが能天気にカメラを回す中、GMロボは二台の通信対戦用アーケード筐体を出現させた。
「第一回戦……『格闘ゲーム(バトルファイター)』」
画面に、筋肉隆々のキャラクターたちが表示される。
「ほう、格闘か。なら俺様の出番だな!」
イグニスが自信満々に筐体の前に座る。
「おいイグニス、お前ゲームのルール分かってるのか?」
「馬鹿にするなリアン。相手をボコボコにすればいいんだろ?」
『FIGHT!』
電子音声と共に試合開始。
イグニスは気合と共に、ジョイスティックを力任せに握りしめた。
「オラァァァ! 動けぇぇ!!」
ガガチャッ! バキィッ!!
「あ」
イグニスが力を込めすぎたため、ジョイスティックが根元からへし折れた。
「あ、あれ? スティックが取れちまったぞ?」
画面の中のイグニスのキャラクターは、ピクリとも動かない。
その隙を突き、GMロボの操るキャラクターが、フレーム単位で隙のない『百裂拳』を叩き込む。
『K.O.!』
「……勝者、GM」
「ふ、ふざけんな! 武器が壊れるなんて聞いてねぇぞ!」
「操作デバイスノ破損ハ、自己責任デス」
あっさり一敗。
◇
「第二回戦……『超速レースゲーム(マッハ・ドライバー)』」
次に現れたのは、ハンドルとアクセルペダルがついた大型筐体。
「速さなら私に任せて!」
キャルルがウサギの耳をピンと立てて、運転席に乗り込んだ。
「私の動体視力と反射神経があれば、どんなコースも余裕よ!」
『START!』
シグナルが青に変わる。
キャルルはアクセルをベタ踏みし、ウサギ族の反射神経でハンドルを左右に切った。
「右! 左! はやっ! なにこれ面白い!!」
だが、彼女はゲームにおける「慣性」と「ブレーキ」という概念を知らなかった。
最初の急カーブ。
キャルルは現実と同じ感覚でハンドルを全開に切ったが、画面の中の車は曲がりきれない。
「あわわわわっ!?」
キキーッ! ドカーン!!
車はコースアウトし、壁に激突して炎上した。
その横を、GMロボの車が完璧なレコードライン(インベタ)を描いて悠々と走り去っていく。
『GOAL!』
「……勝者、GM。コレデ、ワタシノ二勝デス」
「うわあああん! リアン、車が爆発したぁぁ!」
泣きつくキャルル。
「……ったく。お前ら、身体能力が高すぎるせいで、画面の中の物理法則に合わせられないんだよ」
俺はため息をついた。
残る勝負はあと一本。だが、すでに相手が二勝している。本来ならここでゲームオーバーだ。
「ルールニヨリ、貴様ラハ永久動力トナリマス」
GMロボが武装を展開する。
「待て」
俺は前に出て、フライパンでGMロボのスタンガンを弾き飛ばした。
「三本勝負って言ったよな。俺たちはまだ『大将』を出してないぜ」
「……スデニ決着ハツイテイマス。無駄デス」
「そうか? お前、本当に『ゲームマスター』を名乗るなら、どんな挑戦でも受けて立つべきじゃないのか? それとも、俺との一騎打ちが怖いのか?」
俺が挑発すると、GMロボの思考回路が数秒フリーズした。
「……プロトコル更新。挑戦ヲ受諾シマス。タダシ、次ノ勝負デワタシニ勝テバ、特別ニ全テヲチャラニシマショウ」
「リアン! ダメだ! どうせまた相手に有利なゲームだぞ!」
イグニスが焦って叫ぶ。
「安心しろ。……ゲームってのはな、力でも速さでもない」
俺は首をコキコキと鳴らし、白衣の袖をまくった。
「『仕様』を理解し、その穴を突くのが、本物のゲーマーの戦い方だ」
俺の目に、前世で数万時間をゲームに捧げた『廃人』の光が宿った。
フロアマスターとの最終決戦。
ルール無用の裏技無双が、今始まる。




