第48話:ティアナの熱狂と、勘違いの転生
「……ふぅ。ようやく、石鹸の匂いがするようになったな」
俺は手を離し、大きく息を吐いた。目の前には、聖女としての力を失い、ただの、しかし最高に清潔な一人の女性……セラフィナが座り込んでいた。彼女を覆っていた"善意の煮凝り"は、今や一滴も残っていない。
そして。その光景を見た瞬間、聖堂内は、かつてない狂騒に包まれた。
「!! アレン様ぁぁぁーーーーっ!!!」
鼓膜を突き破るような絶叫。ティアナが、顔を涙と鼻水、そしてあまりの感動による興奮でぐちゃぐちゃに濡らし、失禁すら厭わない勢いで俺の足元にスライディング五体投地を決めた。
「あああああ! なんという! なんという慈悲深き光景でしょうか! 私は今、神が世界を創りたもうたその瞬間に、さらにその上からアルコール消毒をぶっかけたような、究極の"聖浄"の瞬間に立ち会っている気分ですわ!! 100京回死んでも足りない! いえ、100京回死んで、その骨の髄までアレン様の冷徹な論理で磨き上げられ、宇宙の塵となって消え去りたいほどの感動が、今、私の魂を粉砕し、再構築し、さらにワックスをかけて仕上げられましたわ!!」
彼女は、床に額を擦りつけ、全身を激しく震わせながら、狂信的な絶叫を続ける。
「! 見てください、皆様! アレン様は今、この世界で最も不潔な"聖女"という名のゴミ箱を、たった一振りの手で"工場出荷状態"へとリセットなさいました!! それはつまり、我々が後生大事に守ってきた"自己犠牲"だの"慈愛"だのといった甘っちょろい概念など、アレン様の前では"未洗浄の便槽に浮かぶウジ虫の独り言"に過ぎないという宇宙の真理! ああ、なんという潔癖! なんという神聖! 私たちが"救い"と呼んでありがたがっていたものは、アレン様から見れば"メモリリークを起こしてシステムを腐らせる不良コード"でしかなかったのですわ!!」
ティアナの瞳からは、もはや血の涙が出るのではないかと思わせるほどの熱狂が溢れ出していた。彼女は、俺が「ただ不潔なデータを消しただけだ」と罵倒しても、それを"宇宙の真理を記した黄金の経典"として受け取っている。
「! 見てください、あのセラフィナの姿を! 彼女は今、不潔な神の力を剥ぎ取られ、アレン様の手によって"完全なる無菌状態の人間"へと転生させられたのです! これこそ真の解脱! これこそ真のデフラグ!! アレン様による全人類のデフラグの序章ですわぁぁぁ!!」
ティアナの絶叫は、聖堂を揺らし、外にいた群衆までもを震撼させた。信者たちは、最初こそ怒りに震えていたが、アレンが磨き上げた"圧倒的な透明度"の空間、そして何よりも、毒素が抜けて真に清らかな顔立ちとなったセラフィナの姿を見て、次々と膝をついていった。
「奇跡だ……! これこそが、真の浄化……!」
「我々は、偽りの光に惑わされていたのだ……! アレン様こそが、真の滅菌の神……!」
王都の民衆が、聖堂を埋め尽くすほどの勢いで祈りを捧げ始める。彼らにとって、アレンの"情報の掃除"は、もはや人知を超えた神話の一節となっていた。




