第47話:滅菌アクション:フルシステム・フォーマット
「……汚ねえな、本当に。もういい、俺が全部まとめてガベージコレクションしてやる。世界のメモリを、お前のような不良セクタで汚させておくわけにはいかないんだよ」
俺は、一歩を踏み出した。手に持つのは、研磨剤ではない。世界のOSそのものに介入し、不正なデータを根こそぎ消去する"強制フォーマット"の波動。
「リビルド・シーケンス、開始。ターゲット:黒カビ聖女。全データの完全抹消、および初期状態へのリセットを実行する」
俺が聖女の肩に手を置いた瞬間、世界から音が消えた。
"ゴォォォォォォォォォ!!"
聖女の体から、噴水のように真っ黒な情報の膿が溢れ出した。それは、彼女が十数年かけて溜め込んできた、数万人の呪い、病魔、嫉妬、憎悪の残滓。それらが、整理されないスパゲッティコードとなって、彼女の肉体と精神を蝕んでいたのだ。
「……うわっ、粘り気がすごいな。デッドロックした感情が、術式の隙間に詰まって絶縁破壊を起こしている。一本ずつ抜き取るのも面倒だ。全領域、一括削除」
俺は、彼女の内側にある"腐ったコード"を、一本ずつ、論理的な正確さを持って引き抜いていく。それは魔法による治療などという生易しいものではない。癌細胞を、周辺組織ごと高熱のレーザーで焼き払うような、冷酷な情報の切除。ITエンジニアが古いサーバーを物理破壊する時の、あの事務的で冷徹な作業だ。
黒い膿が、俺の純白の魔力に触れた瞬間に、パチパチと音を立てて消滅していく。そのたびに、聖女は「あ……あぁ……っ!」と、苦痛と快楽が混ざり合ったような悲鳴を上げた。不潔な情報の重圧から、十数年ぶりに解放されていく。だが、それは同時に、彼女がアイデンティティとしていた"聖女としての偽りの力"を、一ミクロンも残さず消し去ることを意味していた。
「……よし、これで中枢回路のデフラグは完了だ。次は、深層メモリのクリーニング。過去の"負の遺産"を、一括フォーマットする」
俺の指先が、彼女の胸元に刻まれた"聖痕"に触れる。人々が尊い犠牲の証と崇めていたそれは、今や、真っ黒な黒カビの巣床として脈動していた。
「……こんな汚いパッチ、二度と当てるなよ。バイナリレベルで、抹消だ」
"パリンッ!"
聖痕が、ガラスのように砕け散った。そこから溢れ出した黒い煙を、俺は逃がさない。すべてを俺の浄化光で包み込み、物質的な塵にすら戻さず、情報の虚無へと還していく。
聖堂内の空気が、急激に変わり始めた。どんよりと重く、湿っていた空間が、一気に"乾燥した純白"へと塗り替えられていく。壁にこびりついていた目に見えない情報の垢が、剥がれ落ち、蒸発していく。聖女の肌も、どす黒い淀みが消え、生まれたての赤ん坊のような、一点の曇りもない透明感を取り戻していく。




