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クラス最底辺の俺、触れたヒロインの死亡フラグが見えるんだが助けたら世界が壊れそう  作者: shiyushiyu


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第49花 消えたはずの名前

「私を消したの、誰?」


 その言葉は。


 怒鳴り声でもなければ、脅しでもなかった。


 ただの質問だった。


 だからこそ。


 怖かった。


 夕暮れの階段。


 女子生徒は一段ずつ下りてくる。


 制服。


 上履き。


 校章。


 全部、この学校のもの。


 なのに。


 名前だけが思い出せない。


「……お前」


 アスターが絞り出す。


「誰だ」


 女子生徒は少し傷ついたような顔をした。


「それ、本気で言ってる?」


 胸が痛む。


 理由は分からない。


 でも。


 その表情を見た瞬間。


 忘れてはいけない何かを忘れている気がした。


「私」


 彼女は自分を指差す。


「ちゃんといたよ?」


 一歩。


「毎日教室にいた」


 一歩。


「あなたとも話した」


 一歩。


「スズランとも」


 スズランの肩が震える。


「……」


 彼女は何かを思い出しかけていた。


「待って」


 スズランが額を押さえる。


「私」


 呼吸が乱れる。


「知ってる」


 女子生徒の目が細くなる。


「うん」


 優しい声だった。


「知ってるよ」


「一緒にお弁当食べたじゃん」


 その瞬間。


 スズランの目から涙が零れた。


「……あ」


 断片。


 窓際。


 昼休み。


 三人分のお弁当。


 笑い声。


 でも。


 次の瞬間には消える。


「思い出せない……!」


 スズランが苦しそうに叫ぶ。


 記憶がある。


 でも定着しない。


 まるで。


 世界が思い出すことを拒否しているみたいに。


「無理しないで」


 女子生徒が言う。


「どうせ消されてるから」


 その言葉に。


 アスターの背筋が凍る。


「消された?」


「うん」


 彼女はあっさり頷く。


「固定されたんでしょ?」


 ノートを見る。


「だから私が邪魔になった」


 静かな声。


 でも。


 そこには確かな恨みがあった。


「違う」


 アスターは反射的に否定する。


「俺はまだ固定なんて――」


 言いかけて止まる。


 女子生徒が笑ったからだ。


「じゃあ誰がやったの?」


 沈黙。


 誰も答えられない。


 なぜなら。


 誰も固定した記憶がない。


 なのに。


 彼女は消えている。


「ねえ」


 女子生徒がノートを見つめる。


「気づいてないの?」


 嫌な予感。


 心臓が強く鳴る。


「そのノート」


 一歩。


「最初から全部、あなたが選んでると思ってる?」


 空気が止まる。


「……何」


 アスターの声が掠れる。


「選択肢が出る」


 女子生徒が言う。


「選ぶ」


「固定される」


 笑う。


「本当にそう?」


 ノートが震えた。


 まるで。


 その言葉を嫌がるみたいに。


「だってさ」


 彼女は首を傾げる。


「私が消えた日」


 その瞳がアスターを捉える。


「あなた、ノート開いてなかったよ?」


 血の気が引いた。


 開いていなかった。


 そんな日のこと。


 覚えていないはずなのに。


 なぜか。


 否定できなかった。


「……」


「ね?」


 女子生徒は笑う。


「おかしいでしょ」


 その瞬間。


 ノートが勝手に開く。


 ばさっ!


 激しくページがめくれる。


 今までで一番強い反応。


 そして。


 真っ赤なページで止まった。


 そこに現れた文字。


【警告】


 全員が息を呑む。


【対象外存在との接触を確認】


 文字が増える。


【記憶修正を開始します】


 女子生徒の笑顔が消えた。


「ほら」


 小さく呟く。


「来た」


 その瞬間。


 彼女の輪郭が揺れた。


 テレビのノイズみたいに。


 存在が崩れる。


「っ!」


 スズランが手を伸ばす。


「待って!」


 女子生徒は少しだけ驚く。


「覚えてるの?」


「覚えてない!」


 涙声だった。


「でも!」


 言葉に詰まる。


 名前も分からない。


 顔も曖昧。


 なのに。


「消えたら嫌だ!」


 その叫びが。


 階段に響いた。


 女子生徒は。


 初めて。


 少しだけ泣きそうに笑った。


「そっか」


 そして。


 完全に消える直前。


 最後の言葉を残す。


「じゃあ急いで」


 輪郭が崩れる。


 声も途切れる。


「ダリアを――」


 そこで。


 ぷつりと消えた。


 沈黙。


 誰も動けない。


 ただ。


 ノートの赤いページだけが残る。


 そして。


 新しい文字が浮かび上がる。


【未確定対象:ダリア】


【候補数:7 → 6】


 アスターの呼吸が止まる。


 減った。


 今。


 確かに。


 何かが。


 選ばれた。

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