第四百十九話 すっげー!
今回はケイワイビーチのホテルです。
次の日の朝、ノエルとホウリお兄ちゃんは疾風迅雷で海を越えて陸に戻った。そして、霧の地帯を走り抜けて、普通の街道に戻った。
人が多くなってくると、流石に疾風迅雷は使えなくなって、普通に歩くことになった。
坂道を登りつつノエルはホウリお兄ちゃんに質問する。周りには他の冒険者や旅行者らしき人達が増えてきている。馬車も多いしそろそろ着いても可笑しくないんだけどな?
「そろそろ着くよね?」
「ああ、ほら」
坂を上り切ると、坂の下に海が広がっていた。風に乗って潮のいい香りも漂ってくる。
「海だー!」
「やっと到着だな。とりあえず腹も減ったし宿に行こう」
「はーい!」
今日も携帯食料しか食べてないしお腹ペコペコだ。疲れてもいるし宿に行くのは賛成だ。本当は海に突撃したい気持ちもあるんだけどね。
「それにしても、去年に比べて人が多いね」
「クラーケンがいなくなったからな。本来のケイワイビーチはこんなものだ」
「そうなんだ」
坂の上から下のビーチにいる人たちを見る。ビーチを埋め尽くすほどに人が多い。海にも人がいっぱいいて、なんだか狭そうな感じがする。
「前は貸し切り状態だったからな。ああいうのは滅多にないぞ」
「むう、またクラーケン来ないかな?」
「来ても騎士団が片付けるだろ。あいつらの遠征先もこの辺りだしな」
「そうなんだ。じゃあ、ミエルお姉ちゃんとロワお兄ちゃんも一緒に遊べたり?」
「するかもな。だが、あいつらは遊びに来ている訳じゃないんだし、あまり期待するなよ?」
「むう、ちょっとくらい遊んでもいいと思うんだけど」
「大人はそんな訳にはいかないんだ」
「大人って良いことばっかじゃないんだ」
自分の好きなことばっかり出来るって思ってたけど、そんなことないのかな?
そんなことを話しつつ、ホウリお兄ちゃんと一緒に坂を下る。
しばらく坂を下ると、見覚えのある大きなホテルが見えてきた。
「あのホテル!」
「目的地のホテルだな。予約している部屋は洋室と和室の両方が備え付けられている。布団もあるから、ベッドと布団の好きなほうで眠れるぞ」
「そうなんだ。豪華だね?」
「ご褒美も兼ねてるからな。さっさとチェックインしよう」
ホウリお兄ちゃんと一緒に坂を下って旅館の前まで行く。すると、ホテルの前にはたくさんの旅行客がいた。受付に並んでいる人が入り口から溢れている様子を見て、ノエルは不安を覚える。
「ホウリお兄ちゃん、部屋残ってるかな?」
「予約してあるから問題ない」
「そっかぁ。でも、チェックインするのも時間がかかりそうだね?」
見た感じ100人くらいは並んでそうだ。今から並ぶと何時間かかるんだろ?
「それも問題ない。こっちに来てくれ」
「え?うん」
ホウリお兄ちゃんが入り口を無視して、ホテルの側面に回り込む。
「どこいくの?」
「裏口だ」
「なんで裏口にいくの?」
「ちょっとしたコネだ」
首を傾げながらホウリお兄ちゃんに着いていくと、ホテルの裏口にたどり着いた。当たり前だけど裏口に人はいなくて、物置があるだけだ。
ホウリお兄ちゃんが裏口を軽くノックすると、鍵が開く音がして扉が開いた。
「お待ちしておりました、ホウリ様」
中からスーツを着た男の人が出てきた。この人誰だろう?
「初めまして。私の名前はキャラメ。このホテルの支配人をしています」
「は、はじめまして!ノエルはノエル・カタラーナって言います。よろしくお願いします」
キャラメさんが頭を下げたから、ノエルも頭を下げる。
「それで、なんで裏口に来たの?」
「ちょっとした特別待遇だ。列に並ばないで、チェックインの手続きをしてもらえることになってる」
「ホウリ様にはクラーケンの件でお世話になりましたので。皆様には内緒でございますよ?」
キャラメさんが唇に手を当てていたずらっぽく笑う。前にクラーケン倒してて良かったぁ。
「それではお部屋にご案内いたします。最上階のスイートルームでお間違いないでしょうか?」
「そうですね。よろしくお願いします」
裏口からホテルの中に入り、キャラメさんの後に続いて階段で3階まで上がる。
ホテルの3階は長い廊下が続いていた。廊下の両側に扉が2つあるから、3階には2つの部屋しかないのかな?
「右の部屋がホウリ様のお部屋でございます。鍵はこちらをご利用ください」
「ありがとうございます」
鍵を受け取ると、キャラメさんは恭しく礼をして階段を下りて行った。
「行くか」
「うん」
ホウリお兄ちゃんが右の部屋の扉に鍵を差し込んで開けた。
「ノエルが先に入るー!」
「あ、コラ」
ホウリお兄ちゃんの脇を通り抜けて部屋の中に入る。
「おおー」
部屋の中はとっても広くて豪華だった。まず、スターダストのリビングの4倍は広い。ソファーもフカフカそうで同時に5人は座れそうなほどに大きい。ベッドも3人は眠れそうなほどに広い。側面には扉が付いていて、別の部屋もあるみたい。
そして何よりも───
「海が見える!」
部屋の1面が全面ガラス張りになっていて海が一望できる。ビーチには沢山の観光客がいて、楽しそうにあそんでいる。よく見ると海には、モーターボートとかで遊んでる人がいる。
前は何もなかったから、砂遊びとかビーチバレーとかしか出来なかったんだよね。前にはできなかった遊びも出来そうで楽しみだ。
「海の前にまずは風呂と飯にしよう」
「はーい」
「このホテルには温泉がある。飯もいつでも用意してくれるから、風呂の後に飯で良いか?」
「うん!」
「着替えは1階で売ってるから好きなのを買っていいぞ。部屋に備え付けの浴衣もあるから、それを使ってもいい」
「うーん?どうしよ?」
とりあえず、服は買っておいて、今日は浴衣を着ておこう。せっかくの旅行なんだし、普段は着られない服を着たいよね。
「財布は渡しておくから、買いたいものがあったら買っていいぞ」
「なんでも買っていいの?」
「ああ。ただし、金が足りなくても追加で渡したりはしないからな。本当に必要なものだけを買うんだぞ?」
「はーい!」
こうして、ノエルは露天風呂に向かうのだった。
☆ ☆ ☆ ☆
「ふー、食べた食べた」
お風呂の後、ノエルとホウリお兄ちゃんはお部屋で料理を楽しんだ。
和室でビーチ御膳っていうものを楽しんだ。
「前に来たときは、このホテルの料理は食えなかったからな。中々に美味かったな」
「種類も豊富だったね。天ぷらにお刺身、お鍋。全部美味しかった~。思わず2人分食べちゃったよ」
「言葉に反して、物足りなさそうな顔だな?」
「……ばれちゃった?」
お料理はとっても美味しかった。でも、ノエルはまだ満足できていない。
「なんだか、まだお腹空いてて。いつもよりも沢山食べたはずなんだけどね?」
「だろうな」
「もしかして顔に出てた?ノエルってそんなに分かりやすいかな?」
「そうじゃない。鬼ヶ島でレベル上がっただろ?いくつまで上がった?」
「32」
島に行く前は10だったのが、一気に22も上がっちゃった。ステータスもそれなりに伸びたし、新しいスキルも覚えられる。魔装の出力も上がったし、強くなったって実感が強い。
「レベルが上がると、それだけエネルギーを使う。22も上がったら、いつもの何倍も腹が減るだろうな」
「そうだったんだ。あれ?ホウリお兄ちゃんもレベルあがったんだよね?」
「30まで上がったな」
「もしかして、ホウリお兄ちゃんもお腹空いている?」
「俺は兵糧丸で補給しているから、そこまでじゃない」
「あの10万カロリーっていう食べ物だね」
あれがあれば、ちょっとくらいお腹が空いても関係ないか。
「まあ、俺は普通の状態でも大食いだけどな」
「見た目からは想像できないよね」
ホウリお兄ちゃんは、食べようと思えば沢山食べられる。この前はかつ丼を10人前平らげてた。見た感じ、もっと食べられそうに見えたけど、どのくらい食べられるんだろ?
「話を戻すが、急激にレベルが上がれば腹は減る。だから、2人前くらいじゃ足りないのも当然だ」
「じゃあさ、もっと食べていいの?」
「もちろんだ。好きなだけ食べてくれ」
そう言ってホウリお兄ちゃんはメニューを複数取り出した。
「このホテルの食堂から、周りの店まで。すべての店のメニュー表だ。好きなものを好きなだけ頼んでくれ」
「やったー!」
ホウリお兄ちゃんからメニューを受け取って、美味しそうな料理に片っ端から目星をつけていく。
「このジューシーハンバーガー美味しそう!」
「俺はフルーツワッフルにするか。あとはチョコパフェと、チーズケーキと……」
「ステーキも食べたい!」
こうして、ノエルとホウリお兄ちゃんは好きなものを好きなだけ料理を食べたのだった。
美味しいものを食べられるし、楽しいこともできるし、この夏休みは充実したものになりそう。ノエルそう思っていた。
だけど、あんなことに巻き込まれるだなんて、この時のノエルは夢にも思わなかったのだった。
ホウリは大食いです。食える時に食わないと死ぬ、ということが多すぎて変な方向に進化しました。
次回はホテルで事件です。




