09
「どはー」
「重いぞ」
「だって私の方から動いてあげないと壮也が勇気を出せないからね」
いや違う、あれからは一切慌てなくてこちらが焦ってしまっているのもある。
曖昧な状態に負けそうになっているのが私だ。
「寄りかかられてそのまま勢いで告白すると思うか?」
「でも、そのまま押し倒しちゃうかもしれないでしょ?」
「しないよ」
いそいそと離れて背を向けた。
はぁ、これは終わったかもしれない。
なにが終わっているのかと言うと私が期待してしまっているからだ。
もう自分が上になることはなく、彼の小さな行動一つ一つに過剰に反応して疲れるだけなのだ。
「もう終わりだあ!」
「終わらないよ――あ、はは、課題は終わったがな」
「……最初の方から頑張っておいてよかったよね」
「そうだな、放置しても自分が苦しくなるだけだからな」
……凄く優しい顔だ。
そういえばなんか基本的にいい方に変わっている。
だけど、これは正直私が彼のことを気に入りすぎてそう見えてしまっているだけもかもしれない。
つまり、おかしかったのは私だったということになる。
「星、昼ご飯を食べたら少し歩くか」
「うん」
それで今日は彼が作ってくれた。
いまいち上がり切らない内側をせめてマイナス方向にだけは偏らせないように頑張る。
「いくか」
「手、繋ぐ?」
「この暑さだと手汗をかきそうだな、でも、星がしたいならそうしよう」
なんだこれ……当たり前のように手を繋いだり、腕を組んだりしているカップルってすごいな。
通行人なんかほとんどいないのにきょろきょろ周りを確認したくなってしまう。
「落ち着け」
「……こんなに違うとは思わなかった」
「抱きしめることができるぐらいなのにこれが気になるのか?」
判断が早すぎたということだ。
でも、少し前まではどうせこういうときでもつよつよだろうなという考えでいたから想像通りではあるのだ。
「そこで休むか」
「ごめん……」
「別にいいよ、どこかいきたいところがあるとかじゃないからな」
とはいえ、公園なんかで休んだらそれこそ人の目が気になってしまうわけだ。
まあ、休日の公園に誰一人として利用者がいないというのも気になるから色々と複雑なところではある。
「今度、弁当を作ってここで食べてもいいかもな」
「桜の木もあるからね、春がいいかも」
なんかアホ臭くなってきた。
誰も見てはいない、たまたま視界内に入ったって人それぞれにやりたいことがあるのだからそれだけだろう。
「実は最初、壮也が話しかけてきたときはひぇってなったよ。だってあまりにも表情が変わらなすぎたからねえ」
「隠しているつもりはないんだ、ただ自然とそうなってしまうだけでな」
「でも、笑うと可愛い」
「それは星もそうだ」
え、なにこの時間、バカップルかなにかかな?
「あーあ、慌てる壮也は可愛かったのになあ」
「あのままだと微妙だろ……」
「そうかな? 私らしくやれるからありがたかったんだけど」
「いまはもう切り替えていつも通りの星だ」
「途中で絶対にそうなるんだよね」
上がり続けないのはいいことなのかどうなのか。
だって男の子的には「な、なに言ってっ」みたいに少しは慌てたり、顔を赤くしてくれないと困るでしょ。
攻略したいなら尚更のこと、影響力がゼロのように見えてしまったら諦めてしまう子もいるかもしれない。
「実際、どうだった?」
「ん……? ああ、何回も風や他の人と仲良くさせようとするのは気になったな。なにも言わずにいられたのは俺といるときでも同じように楽しそうにしてくれていたからだ」
自分に興味を持っていると分かった状態であれをやり続けるのは意地悪をしていたのと同じぐらいの行為に該当してしまうのかな。
決してそんなつもりはなかったけど、相手から見てどうなのかは分からないことだ。
「で、こうなってしまったと」
「星はよく考え方を変えてくれたな」
「自分で言うのもあれだけど、これってずるくない? だったら最初から受け入れておけよって言われちゃうことだよね」
また恥ずかしくなって帰りたくならないように気を付けないといけない。
「風が俺のことを好きでいてその恋を応援していたとかじゃないからな、悪質ではないだろ」
「はい、君は私が好きだから悪く言えないのが駄目だね」
「はは、それこそ聞いてきておきながらずるいな」
確かに。
いまのは誰がどう見ても「そうじゃないだろ」と言ってもらいたくてふったようにしか、ね。
「流石に好きに変わったのは最近だよね?」
「いや……」
「それでも四月とかじゃないでしょ?」
「あんまり変わらないな……」
え、マジ? やーばいでしょそれは。
本番のときと違って相手が近くにいて少しは知ることができる距離感でそれって。
「わ、私だよ? しかも隣にはあんなに可愛い風がいたんだよ?」
いきなり席替えをしてからはずっと同じだった。
しかも風は私と違って前々から一緒にいる相手、私がよっぽど魅力的とかでもなければ勝てる相手ではないのだ。
「いやその……風は流石に小さすぎだからな」
「私と八センチぐらいしか変わらないって――はっ、まさかお胸の話!?」
いや待って、お胸の話なら私は豊胸手術でもしない限りはガチで勝てない。
「いや、胸なら風の方が大きいだろ……はやばいか」
「はい……貧乳ですみません……」
くっそう……ちゃんと食べてちゃんと寝たはずなのにどうしてこうなった。
「風は顔が幼すぎるというか……」
「はい……顔が老けていてすみません……」
「落ち着け」
落ち着いていられるかあ!
別の意味で体が熱くなったのは初めてだ、ここまでの怒りは初めてかもしれない、なんてね。
「別に風を選んでいても悪い人を見るような目で見られなかったと思うけどねー」
だってそうでしょ、アニメに出てくる「これで高校生!?」みたいな子ではないし。
百五十三センチぐらいはある髪が凄く長い可愛い女の子というだけのことだから。
「星がタイプの女子だったというだけだ!」
「うわっ、急に大声を出してなにっ?」
「……全部言わせるなよ」
えぇ、顔を赤くして必死に隠そうとしているところがやばいんですけど。
それより好きなタイプか、そういうのってやっぱりあるか。
私は彼との時間を重ねて顔とかよりも内側を好き……ぶはっ、考えるだけでも死にそう!
ま、まあ、気に入ったわけで、顔は別に……。
「星はっ?」
「私は……呆れた顔をしながらも合わせてくれたり、場合によっては凄く心配してくれたり優しいところに……うん」
「はは、そうか」
いやもうこれ走り去っていないだけで奇跡でしょ……。
やっぱり困らせたい悪い気持ちもある男の子だったのだ。
「はぁ……お姫様抱っこで保健室まで運んでくれたことがあったよね。私はめっちゃ抵抗していたけど、君は最後まで聞いてくれなくてさ」
「あれは星が悪い、体調が悪いときに素直に休もうとしないからだ。それに俺は『それ以上意地を張るようなら無理やりにでも運ぶからな』と言ったのに『ふっふっふ、できるものならしてみなよ』と煽ってきたからだろ」
「変な噂が出たら困るとか考えなかったの?」
「そんなのどうでもいい、星が休めるならそれでよかったんだ」
仲良くなったいましたわけではないのだ。
まだまだこれからというところで動けるなんてすごい、私なら考え込んで時間だけが経過してしまうところだと思う。
「ま、まあ、あのとき私の口から出た言葉は『好き』じゃなくて『変態!』だったけどね」
「それでも全く気にならなかったな」
「……変態?」
「星が相手のときならそれでもいい」
うわあ、変態だあ。
「好きなんだ」
「……朝となにが違うんですかね? これならまだ寄りかかられていたときの方が告白のタイミングとしてはよくない……?」
「そうか? こうして静かな場所でほとんど二人きりなら悪い選択じゃないだろ?」
なんで利用者がこんなに少ないかなあ!
もっと人がいればそのまま告白……なんてことにもならなかったのに。
あと、静かな場所を求めていたのなら昨日の夜の方が最適だったでしょうが!
「馬鹿っ、変態っ、考えなし!」
「で、どうなんだ?」
「君なんかっ」
……不満なところはあるけど、ここは乗っかっておこう。
冷静に、にやにやされないようにちゃんとね。
「いやほらっ、私がこんなのだからその相手がしっかりしすぎていても疲れるだけだしっ? うんっ、私みたいにどこか変なところもあってくれないと――ん!?」
結局、攻め攻め壮也にはなれなかったということか。
「ぷはっ、な、なんでここでキスじゃなくて頭を抱きしめることを選択するの!」
「いや……流石に外でキスはできないだろ、流石に早すぎるだろ……?」
「うがー! なんなんだこいつぅう!」
私が化け物だったらこの公園どころか他の場所までいまので終わっていたところだ。
あんまり力がないただの女の子で感謝してほしいぐらいだった。
「世良壮也です」
「困ったときの私を真似しなくていいわ!」
「はははっ、やっぱり星はいいな!」
た、楽しそうやん……?
ふぅ、少し落ち着こう。
でも、違う意味で心臓が忙しくなったのは悪いことだけどね。
「はあ……帰ろ?」
「おう」
一時間ぐらい休んだら報告をしにいこう。
流石にこういうことは直接聞いてもらいたかった。




