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273  作者: Nora_
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07

「はーい――椿先輩!」

「久しぶりだな」


 喋り方は似ているけど、やっぱり世良君と椿先輩は違うなあ。


「お疲れ様です」

「ありがとう」


 ただ、こういう時間こそ梨里先輩と一緒に過ごすために使ってほしいという気持ちが強くある。

 とはいえ、彼がどうかは分からないから出すことはしない。

 いま出すのは冷たい麦茶ぐらいでいいのだ。


「最近、世良と会えているか?」

「はい、昨日も一緒に過ごしました」

「そうか、それならよかった」


 凄く優しそうな顔だった。


「でもな、世良も武藤も俺には冷たいところがあるんだ。優しく対応してくれるのは宇藤だけだよ」

「そうですかね」

「いまさっきだって武藤に『遊ぼうぜ』って誘ったのに『暑いからいいわ』って断られたんだ」


 はあ……なにをしているのか。

 好きな相手から誘われて、舞い上がって思ってもいないことを返してしまってから後悔していなければいいけど。

「勝人のことが好きよ」と私の前では堂々していてもそのまま同じようにできるとは限らない。


「あ、でも、柑奈とは落ち着いて話せるようになったのはこの夏で唯一と言っていい程のいいことだな」

「義理でも兄妹ですからね、仲良くできた方がいいに決まっています」

「ああ、自分のせいでやりづらくなっていたから馬鹿だったと反省したよ」


 話を聞いてもらって楽になったのは確かだ。

 あと、ここで梨里先輩のことを出してきたのは彼の方だし、連れていくことにしよう。

 事前に連絡をすることは大事だけど、たまには突撃した方がいいこともあるのだ。


「なんか悪いな、これじゃあ後輩を使って女子と仲良くしようとしているみたいだ」

「そんなのいいですよ」

「なにも予定がない日なら俺も協力するからな」

「はは、困ったときはお願いします」


 問題はすぐに出てきてくれるかどうかか。

 無駄に焦らせたいわけでも、煽りたいわけでもないから彼と一緒にいることをメッセージで送るだけでいいか。


「あれ、これでも……?」


『好きにしなさい』とそれだけ、もしかして体調が悪いとかかな。

 本当ならここで諦めるべきだけど、このまま私といても彼的にメリットがないだろうからチャイムを鳴らす。


「……なんで諦めないのよ」

「へへへ、すみません」

「まあ、上がって、そっちのぼけっとしているのもね」

「おう!」


 ほらね、彼も嬉しそうだ。


「はぁ……凄く暑いんだから家で大人しくしておきなさいよ。特に勝人、あんたはいま頑張っている状態なんだからフリーの日ぐらいは、さ」

「ありがとな」


 なんかいい感じですやん?

 初日にすぐに帰っていなければ空気を読んで離れているところだ。

 それで私は何故か気に入ってくれている風のところにいけばよかった。


「柑奈でも呼ぶか」


 少し前までなら彼女、彼、世良君……だったのかな。

 それが少し変わって彼女、彼、柑奈さん、私になっている。

 待った、同級生組とだけではなくて先輩組とも仲良くなれているのはすごいことでは……。


「勝人さんっ、なにも言わずに出ていくのはやめてくださいって何度も言っていますよね!?」

「はは、急に宇藤の顔が見たくなってな」

「あ、宇藤さんこんにちは」

「こんにちは」


 健康的な焼け方だった。

 実はこっそり彼女とだけお出かけとかしていたのかも。


「宇藤さん、よくやってくれましたね」

「え?」

「梨里さんですよっ、昔から夏は本当に付き合ってくれない女の子なんです、なのでこうしてお家に入れたことがすごいことなんです」

「あ、そうなんですか?」

「でも、相手が勝人さんなら素直に受け入れるんですからね」


 ツンツン魂全開でいられても困るからその方がいい。


「そりゃまあ、あんたと違って勝人は好きな人だからね」

「いやちょ……」

「あ、もう本人にはぶつけてあるわよ?」


 そ、そうなのか、だからこその余裕なのね。

 余計な心配をしなくてもやることはやっていると。

 物凄くいいことだなあ!


「だから少し面白くなかったのは事実ね」

「だったら相手をしてくれればよかっただろ?」

「うるさいうるさい、星はこっちに来なさい」


 ただ廊下に出るだけではなくて階段を下りて一階まで移動することになった。

 彼女は壁に背を預けると腕を組んでから「よく連れてきてくれたわね」と。


「一緒にいられるのは嬉しいですけど、こういう時間を梨里先輩と過ごすことに使ってほしかったんです。あとは話を聞いてもらったのもありましたから」

「電話がかかってきたから相手をしただけだけど、そういうのでも役に立てたのならよかったわ」


 やっぱり彼女はいいなあ。

 柑奈さんが気に入ってしまう気持ちも分かる。


「なにその顔」

「あの、抱きしめてもいいですか?」

「は? あ、まあ、したければ――いたたっ、あんた抱きしめる力が強すぎ!」


 おっと、流石に力を込めすぎた。

 結局、そのミスのせいで五秒ぐらいしか触れられなかったのは残念だ。


「ふっ、それを世良に対してできるようにしなさい」


 世良君か。

 その場任せで口にしたわけではないと言わんばかりに何度も来てくれている。

 来てくれすぎていまは申し訳なくなっている段階だった。


「やっぱりなにかあるでしょ、全く意識していないなら女扱いをされていないかもしれない、なんて不安になることもないのよ」


 前までなら考えなかったことだよなあ。

 とはいえ、「泊まらせてくれ」なんて頼まれたのが初めてだったのも影響していると思う。


「毎日は無理でも二日に一回ぐらいは会っているでしょ?」

「そうですね、あれからはそんな感じです」

「だったらもっと時間を重ねることね」


 申し訳なく感じつつも結局のところは……。

 なんかもう、寝ていてもいいから隣にいてほしいとまで考えてしまうときがある。

 もちろん、そんなのも初めてですぐに「わー!」と叫んでやめるけど……。


「戻りましょ、本当のところを言うと相手が柑奈でも仲良くしているところを見るのはきついのよ」

「分かりました」


 解散になったらいってみるか。

 あと、気持ちを弄ぶみたいでアレだけど、今度風を思い切り抱きしめようと決めたのだった。




「風!」「星さん!」

「顔を合わせる度に抱きしめてて飽きないのか?」

「「飽きるわけがないよ!」」


 ちゃんと許可を貰って抱きしめてからこうなった。

「どういうつもりなの……?」みたいにシリアスな雰囲気になるどころかノリノリだった。


「あ、でも、世良君も星さんにしたいよね」

「……なんか宇藤と仲良くするようになって宇藤みたいになってきたな……」

「それなら嬉しいけど」


 可愛いなあもう。


「まあ、今日は程々にな。昼にはしゃぎすぎて祭り本番を楽しめなかったら嫌だろ」

「そう考えると私達ってガチすぎない?」

「ガチ勢ならもうこの時間から会場にいっているだろうな」


 大きなお祭りだったら朝にもなにかあって好きな人達は集まっていそうだ。


「宇藤、去年はどうしていたんだ? 俺は男友達と祭りにいったが」

「私は一人で楽しんだよ」

「私はお友達といったよ」


 そんなバラバラな三人が今年は一緒にお祭りを楽しもうとしている。

 こんなにいいことはない、そこに自分も含まれていることが最高だ。

 実は「いいなあ」みたいに考えたりしたこともあったのだ。


「実は会場で会っていた、みたいなこともありそうだな」

「んーお祭りのときでも無表情の世良君が容易に想像できて……」

「にやにやしていたら怖いだろ?」


 いや、笑っていてもお友達とお祭りに来られて嬉しいようにしか見えない。

 もう少しぐらい笑ってくれたらなあ、そう考えていたときに「そろそろ名前で呼んでもいいと思う」と少女から言われて戻ってきた。


「あー……いいのか?」

「うん」


 お、こんな顔をするのか、意外なのは彼もそうだ。


「せ、星」

「壮也君」


 あれ、こちらのことを名前で呼んでから更に酷くなった。

 もうやばいね、風がいたからなんとかタックルせずに済んだ。


「……呼び捨てでいい」

「そう? なら壮也で」


 私的には〇〇君の方がいいけど、彼女のときと同じように本人が求めているのなら応えてあげなければならない。


「きたー」

「はは、私の真似?」

「え?」

「ううん。風は空気を読んで離れたりしないようにね」

「もうしないよ」


 これでよし。


「暑いから屋内に撤収だ!」

「それなら俺の家でいいか、会場から一番近いからな」

「あーい」

「うん」


 気にするのもアホらしくなって世良――あ、壮也のお家に着いたらすぐに寝転んだ。


「だからもう少し気を付けろって」

「風、私ってそんなに露出している感じ?」

「ううん、星さんは寧ろ積極的に隠していく方だよね。いまだって日焼けを気にしているのか薄長袖を着ているぐらいで、そもそもスカートですらなくズボンだから」


 これ、私達の受け入れる能力が低かったら彼女が話す度に引っかかっていただろうな。

 いやもう変化がすごすぎる、なんで敬語なんて使っていたのか……。


「だよねーなのにこの子はいつもこうだからさー」

「世良君にとって星さんは気になる存在だからそんな相手がごろごろしているだけでも気になっちゃうんだよ」

「ははーなるほどねー?」


 ではないか。

 彼は「それは人としてどうなんだ?」と言いたいのだ。


「ごめんごめん、やめるよ」

「待て、なにか変な勘違いをしていないか?」

「ぴっしりとまではいかなくても他の人のお家ならちゃんとしておけって言いたいんでしょ?」

「いや……違うが」


 ち、違うのかーい。


「別に休んでくれる分にはいいんだ、でも……せ、星は女子だから……」

「お、風の正解だったみたいだよ?」

「ふふ、世良君のことならある程度は分かるよ」


 当たっていたのはいいけど、たかだか名前を呼ぶ程度であの無表情君がこうなるとは思わなかった。


「私だけ仲間外れなのは寂しいし、かといって星さんと被るとアレだから……壮也さんで!」

「え、別にそれなら壮也君でいいんじゃない?」

「あ、そっか、仲良くなれた際に今度は柑奈さんと被ってしまう可能性があるか」

「あーあの人、壮也と仲良くしたがっているからね。それで一緒にいる人全員に対してさん付けをしているからそうかも」


 いや待て、こうなってくると変に仲良くされてもそれはそれで……。

 すぐに変えてださいとしても遠慮、我慢ができない私としてはへらへら笑って見ておくだけなんて対応はできない。

 あーあ、だから嫌だったのに。

 元はと言えば彼がさっさと他の異性と仲良くしなかったからだ。


「うんっ――あ、壮也さんは自由にしてくれればいいからね? 星さんのことだけ名前で呼びたいならそれでいいから」

「お、おう。なあ風、夏休みが終わったら爆発四散したりしないか?」


 もうこれやっぱりここがくっついた方がいいでしょ。

 彼女が相手なら悔しさなんかも出てこないからいますぐにでも動いてほしい。


「え? あっ、多分大丈夫だと思う!」

「そ、そうか、あんまり無理をしないようにな」


 でも、いまはその夏休みモードに頼っていくしかないのだ。

 なんか急に離れたくなって出ていこうとしたら「なにしているんだよ」と彼が付いてきてしまった。

 まるで二人きりになりたくてこんなことをしたみたいで恥ずかしい。


「うわ滅茶苦茶赤いぞっ、大丈夫か!?」


 ああ、不味い、これはガチで心配してくれているようだ。


「だ、大丈夫大丈夫、少し恥ずかしくなっただけさ」

「まだ時間はあるから寝ておけよ。それこそ大丈夫、ちゃんと時間になったら起こしてやるから」

「……悪い」

「はは、物真似ができるなら心配なさそうだな」


 中に戻ったら内が影響してかにやにややらしい笑みを浮かべているように見える風が。


「空気を読もうとしたら許さないから」

「ふふ、大丈夫だよ」


 すっかり立場が逆転してしまっているのはこちらの方だった。

 抵抗しても構ってちゃんにしかならないから素直に甘えさせてもらうことにした。




「はぁ……家にいってもいないと思ったらこんなところにいたのね」


 で、寝ていると。

「自由か!」そうツッコミたくなる。


「あの、武藤先輩」

「静井ね」


 学校のときとまるで違う、短期間でここまで人は変われるらしい。

 ただ、上の方で結ってはいても夏に合わない長い髪でうへぇとなった。

 前髪を切ってあるのはいいことだけど。


「静井、私も参加していい?」

「あれ? 星さんは『梨里先輩は椿先輩と過ごすだろうから私達だけでいこう』と言っていましたけど」

「それは星が勝手に言っているだけよ。そもそも柑奈がいる時点で二人きりにはなれないしね」


 起こすか、これは前の仕返しだ。


「はい、ばんばんばんと」

「いへっ、うへっ、えへ!?」

「はーい、もう朝ですよー」


 へらへらしていてたまにむかつくときもあるけどまあ、この子のことは嫌いじゃないからね。

 正直、静井の目が怖いから早く起きてもらいたいのもあった、攻撃したら益々酷くなったことには気づかないふりをしつつね。


「あれ、梨里先輩こんなところでなにをしているんですか?」

「あんた達のグループに参加しようと思ってね」

「えぇ」

「な、なによその顔と反応は」


 遠慮できないと言っていたのは本当のことらしい。

 どうせ星のことだから、


「就職活動で忙しいとしても流石に夜までは影響を受けませんよね? それなのにそんな貴重な時間を私達と――んー!?」


 そう、こうなるに決まっている。

 この子は私のことを考えてちゃんと言ってくれているのだ。

 それでも、うん、ここまで顔や態度に出されたら気に入らないわけで。


「いいからいいから、もう少ししたらいくわよ――あ、それともなに? 世良とデートのつもりだったとか?」


 ふっ、まあこういうのも友達らしいやり取りよね。


「……なに変なことを言っているんですか、風もいる時点でそんな訳がないじゃないですか」


 えぇ……変わった子はここにもいたのか。


「静井、少し向こうで話しましょ」

「はい」


 本当にたまたまだとしても放った言葉が相手に刺さってしまうときはある。

 一応先輩の私として言えることはことこのことに関してはもう少しぐらい顔に出すのを抑える努力をしないと不味いということだった。

 そんなところを見せていったら……例えば世良なんかはどんどんと積極的になって「うわー!」と叫びたくなるような結果に……。


「ま、悪いことじゃないからいいか」

「どうしました?」

「ううん、こっちの話」


 それより不安なのはあの二人の方が早くくっつくかもしれないということだった。

 最悪の場合はどうすればいいのかを教えてもらう必要があった。

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