05
「ふぅ」
二時間ぐらい集中してやることができた。
こうしてちゃんとやらなければいけないことをできた日はそれだけで達成感がすごい。
「世良――」
物凄く集中しているみたいだ。
こうしてまじまじと見る機会はなかったからじっと見ていると「これぐらいでいいか」と彼は終わらせてしまった。
まあ、私もこれ以上は集中できないからこれはありがたいか。
「ぐはー」
「宇藤、ちょっとトイレ借りるわ」
「どぞー」
なんか甘い物が食べたい。
でも、寝転んでしまってからは背中に根が生えてしまったみたいに動けなかった。
「おい、もう少しぐらいは気をつけろよ」
「んー?」
「なんか色々薄いからな」
別に極端に短いスカートというわけでもなく、上だって極端に露出が多いわけでもないのに大袈裟すぎだ。
「世良君、チョコとかない?」
「ないな」
「しゃーない、買いにいくか」
どうせ冷蔵庫にはないだろうから確認をしないでお家をあとにした。
やる気満々の太陽さんに「あっつー」とお決まりのセリフをぶつけておく。
「海にでもいくか?」
「あ、それもいいかもね。そうと決まれば梨里先輩や静井さんを誘ってー」
「おう」
積極的に意地悪がしたいわけではないから柑奈さんのことは出さないでおいた。
ただ、梨里先輩を誘うなら付いてくるか。
ここは静井さんのためにもまずは同級生三人で遊ぶべきだった。
「まずは静井だけにしておくわ」
「うん」
神対応感謝。
結構動いてから「大丈夫だったかな?」と不安になることが多いから彼のこういうところは大きい。
また、静井さん的に自然と彼といられるわけだからそこでも大きいはずだった。
「あっ、宇藤さんっ、世良君っ」
うんうん、この暑い夏にこの天使は最高だ。
「宇藤も静井も水着はあるのか?」
「あるよーん」「あ、あります」
ここに来る前に走って取ってきた、なんなら着てきた。
人気のスポットというわけでもないからお金を払う必要もないし、準備運動をするだけですぐにでも遊べるようになっている。
「世良君は?」
「俺は短パンだからこのまま入ればいいだろ」
まあ、男の子ならそれでもいいか。
十分もかからずにいけるから楽でいい。
奇麗……かどうかは分からないけど、遊泳禁止の場所ではないからその点は大丈夫だ。
「暑いから脱げるのはいいな」
お……おぉ、なかなかに筋肉が、うん。
恥ずかしいとかそんなのはないからこちらも脱いでおいた。
「う、宇藤さん……」
「分かった。ちょっといってくるよ」
「おう」
本当に恥ずかしいとかはないけど、砂で遊んでいるぐらいがいいのかもねえ。
お腹や背中が隠れるような物にしていても熱が、ね。
日焼け止めを塗っていてもほとんど負けてしまいそうなぐらいだった。
「うん、人はいないみたいだから大丈夫だよ」
「はい……」
同性だからと見るわけにもいかないから背を向けておくと「お、お待たせしました」と。
振り返ってみる、すると彼女らしくないチョイスだった。
ほっそ、しっろ、えっ――はアレだとしてもこの子、脱ぐと意外と……。
あと、私からすれば白色の物を選ぶなんて大胆だなと思った。
「ど、どうですかね……?」
「ふっ、似合っているよ」
「あ、ありがとうございますっ」
ああ、前髪を上げてくれたりしないかな。
「お待たせー」
「逆じゃないか?」
「ね、静井さんすごいよね」
「えっ、へ、変ですか……?」
「ううん、最高」
さ、しっかり体操をして水に触れよう。
プールよりは窮屈ではなくていい。
ここなら座っていてもなにも迷惑にならないし、少し気になるのかそわそわしている彼女がもうね。
「落ち着けよ、よく似合っているんだから大丈夫だ」
「そ、そうですか」
上手いな、これなら彼女も安心できるはずだ。
でも、そこからいまいち進んでいかないのは彼のせいでもある。
「よっこらしょっと」
「あれ、座るの?」
「これぐらいでいいだろ、水をかけあってきゃっきゃするような年齢でもないだろ?」
「じゃあ、私もそれでいいかも」
「わ、私もっ」
ぷはーっ、それでくっついてくるかねこの子は!
んー年頃の女の子が男の子にベタベタくっついていても微妙だし、これぐらいでいいか。
「宇藤、次は頑張ってみるわ」
「あ、柑奈さんのことね。おけおけ、協力するよ」
「はは、静井も頼むぞ?」
「私にできることなら頑張ります!」
夏休みモードはすごい。
もっとも、そのモードになってしまったせいで大胆になってしまっているとしたら、夏休みが終わって振り返ったときに「うわー!」と叫ぶことになってしまいそうだけど。
だからお友達の私にできることはなるべくそうならないようにコントロールしてあげることだ。
実は出していないだけで最初からこういう子だとしたら、それなら上手く引き出してあげるのも大事だった。
「宇藤、夏休み静井ってすごいな」
「か、柑奈先輩とは話したことがあるので……」
意外、でもなんでもないかな。
「え、もしかして俺がどうこうという話をしたとか……?」
「は、はい。どうすれば世良君と仲良くできるのかと聞かれまして」
本人にぶつかって無理なら周りからか。
彼は動こうとしているところだから逆効果にはならなそうだ。
とはいえ、周りに対して動かれるぐらいなら「直接来てくださいよ」となりそう。
「悪かったな」
「いえ、気にしないでください」
「早く動かないとな」
そう、だってもう八月になってしまっているからね。
お祭りは十二日にある、そろそろ動かないと間に合わない。
「お祭り、一緒にいきたいです」
「いいな」
いいな!
「そのときはこのメンバーでいきたいですね」
なんでやねん!
はぁ、ああでもそうか、彼女にも協力してあげないといけない。
「なので、宇藤さんもそのつもりでいてくださいね?」
「あーい、静井くんといけるのを楽しみにしているよ」
「……はい」
え、いまの間は……?
本当は二人きりがよかったのに仕方がなく私も誘うしかなかったのだとしたら……申し訳ないからやめるけど。
結局、それからすぐに話題が変わって聞くことはできなかった。
「宇藤さん!」
ち、力強いな。
「昨日っ、世良さんが来てくれましたっ、ゆっくりお話しできました!」
「よかったですね」
私としては静井さん派かなあ。
仲良くなりたいのだとしてもそこまでで留めてくれるのが一番だ。
「でも、お祭りは他のお方とのお約束があるみたいで一緒にいけないそうなんです……」
「梨里先輩を誘うのはどうでしょう?」
「私と梨里さんはいつも一緒です」
そのいつも一緒の梨里先輩は客間でぐがーぐがーと寝てしまっているけどね。
夏モードなのは柑奈さんもそうなのかもしれない。
「ちなみに、誰といくかは言っていました?」
「いえ、お祭りに他のお方といく以外の情報は教えてもらえませんでした」
静井さんと私だあ、みたいに教えるべきなのだろうか?
「あ、そういうことですか」
「え?」
「世良さんは宇藤さんに興味を持っています、つまりそういうことですよね」
まあ、嘘をついても仕方がないから頷いておいた。
そうしたら「やっぱり!」と、でも、残念そうな顔には見えない。
「来年は一緒にいきましょうね」
「はは、まだ今年のお祭りも終わっていないのに面白いことを言いますね。分かりました、そのときになっても柑奈さんが覚えていたらそうしましょう」
ちゃんとお友達のままでいられるようにしなければならない。
「あ、そのお顔っ、世良さんと一緒にいたいというお顔ですよねっ?」
「いえ、来年のいま頃もみんなといられているといいな、そんな風に考えていただけです」
私は壁とかでいいんだよなあ。
静井さんでも、世良君でもいいからここにいて盛り上がっていてほしい。
課題だって頑張ってやっているんだからさあ、少しぐらいはご褒美的ななにかがあってもいいよね、ということで、
「ばんばんばんっ、起きてくださいよー!」
まだ連絡先を知ることができているわけではないから我慢して、爆睡中の梨里先輩を起こしてしまうことにした。
ふふふ、彼女はどこまで耐えられるかな?
「うるさいわよ!」
「結果は十五秒でしたー」
フライパンを思い切り叩いていたとかではないし、そこまで大きな音ではなくても起きてくれるのは大きい。
「はぁ……なによ?」
「せっかく来てくれて一緒にいられる状態なんですから寝るのはやめてください」
「はは、なに? もう私のこと気に入ってんの? あんたも可愛いところがあるじゃない」
「梨里先輩はいい人ですからね。名前で呼んでも怒らないし、すぐに名前で呼んでくれましたし」
椿先輩のことが好きだと教えてくれたことも影響している。
あとは応援しても他の誰かが困ることにはならないからかな。
普段、私のしている行為は少し危険なところがあるのも確かなのだ。
世良君の本当のところ、静井さんの本当のところ、その二つはまだはっきりと分かっているわけではないのに勢いに任せてしまっていた。
「あーあの壁に張り付いているのはなに?」
「起こしたくても起こせない、でも、自分ではない誰かが動いてくれてラッキー……そんなところではないでしょうか?」
三人でリビングに戻る。
梨里先輩がソファに座ったところで彼女が横からくっついてまた悪い癖が出てしまった。
いま危険な行為だと考えたばかりなのにこれだから困る。
「あんたなんかドキドキしてない?」
「し……ていません!」
「そう? その割には鼓動が速いんだけど」
いやいや、すぐに妄想してしまう私もアレだけど、同性だからと平気で胸に触れてしまえる梨里先輩もすごいな。
それでいてなにも影響を与えないと考えているところが怖い存在だった。
静井さんと同じような白さの彼女がどんどんと赤くなって……大爆発!
「お腹が空きました!」
「わっ」
「あっ、ごめんなさい……」
ここにも呪いにかかってしまった人がいたのか。
自分が気にしている人には好きな人がいるというのも呪いのような気がした。
「今日ね、梨里先輩はやっと椿先輩とゆっくり過ごせているみたいだよ」
「武藤先輩が来てくれて先輩も嬉しいかもな」
「嬉しいでしょ、疲れたときほど好きなお友達に一緒にいてほしいはずだよ」
ふぅ、今日は出したりしないぞ。
静井さんとは私が一緒にいたいと思ったときに集まれればいい。
「宇藤は?」
「私的には一人で暇なときに誰かが来てくれると嬉しいかな」
ちなみに、その一人で暇だったのが今日、いまだ。
玄関の扉を開けたときにいつもの仏頂面が見えたときにはひぇとなったけど、よかったと喜んだ私が内にいた。
「じゃ、俺も役に立っていると」
「それは、うん」
ここで「違うよ」と嘘をついてもなにも意味がない。
「どこかいかないか? ほら、宇藤の家に集まるのは課題をやるためだが、外でならその条件はないわけだよな?」
「はは、いちいちいち気にしなくていいよ。世良君にいきたいところがあるなら付き合うよ?」
なんて、私が課題のためとか言ったからこうなっているのか。
お世話になっているし、今日はちゃんと付き合おう。
「映画……も興味ないからなあ」
「なんでもいいんだよ?」
いきたいと言えば合わせるけど、私もじっと画面を見つめておくのは微妙だから映画館はなしかな。
「あ、服でも見にいくか」
「おお、いこういこう」
屋内専用物が増えすぎてお出かけ用の服が減ってきていたところだったから一着ぐらいは買ってもいいかも。
センスがいいわけではないから彼に聞いてみるのも参考になっていいかもしれないね。
「服買え買えってうるさいんだよな。正直、服なんて余程ボロボロな状態でもなければいいと思うんだが」
母は「まだ着られるよ」と止めてくる方だからありがたかった。
たまに物凄く甘くなってぽんと万札を渡してくるところにはひぇとなるけど。
「服好きのやつらってまだ比較的新しくて奇麗な物があるのによくあんなに買えるよな」
「別に否定はしないけど、自分達みたいな人ばかりじゃないって分かってほしいかな」
「ああ」
はは、それでもいまはその服屋さんに向かっているということは言うことを聞こうとしているということか。
もう、可愛いところが多いんだから。
「もうこれでいいわ」
「私もシンプルなやつでいいなあ」
「もう会計を済ませてくるからゆっくり見ていてくれ」
単色のTシャツに短パン、夏ならこれぐらいでいい。
ズボンの方は既に余裕があるから上だけを求めていく。
七百二十円っ、こういう破格な値段で買えるお店はありがたいね。
「宇藤ももう買ったのか」
「うん」
「じゃ、そこでなにか食べていくか」
「いいね」
ガッツリ食べられなくていい私にとっては物凄く都合のいいお店だった。
冷房が効いていて涼しい、かといって寒く感じるほどではないから落ち着く。
オレンジジュースとハムサンドを選択、が、これはさっきの服より高い八百五十円だ。
うん、仕方がないとしてもお金はなるべく残る物に使えた方がいいかな。
「あ、ごめん、世良君はもっとお肉とか食べたかったよね」
「ん? ああいや、なにか食べられればそれでよかったんだ。それにあんまりガッツリ宇藤に食べさせると寝てしまいそうだったからな」
仮にそうなっても背負ってもらったりはしなかった、ふらふらしながらも自力で帰っただろうからお財布的にも体的にもダメージ、みたいなことは避けられただろう。
「はは、優しいじゃん」
「はは、だろ?」
すっごく落ち着く。
彼の周りに静井さんという最強の女の子がいなければ頑張ってみるのもありだったかもねえ。
「美味しいな、たまに食べるならこういうのもいい」
私が積極的ちゃんだったらこういうのを聞いて「そ、それなら作ってあげるよっ」と乗っかっていたのかな。
まあ、知ることのできたタイミングが夏休みだからそれでも活かせないか。
「はぁ……」
「どしたの?」
「ああ、椿さんが『夏休みが終わったら世良さんのお弁当を作りたいです!』とか言ってきてな。意地を張っているんだよ、もう逃げてはいないんだから普通にしてくれていればそれでいいのにな」
気持ちを知っている梨里先輩相手に頑張ることはできないか。
別に嫌ではないのなら受け入れてあげてほしかった。
「ただ、今日は逃げてきた結果だから矛盾……してしまっているが」
安地がなければ潰れてしまう可能性がある。
なので、そういう場所、そういう存在になっているのならそれは普通にありがたいことだ。
「なんで宇藤のときと違ってやりづらさがあるんだろうな」
なんでだろうなあ?
今日は出さないと決めているからここではなにも言えない。
でも、やっぱり他の人のことで難しそうな顔をしている彼は可愛かった。




