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273  作者: Nora_
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04

「ふふ、可愛い寝顔」

「宇藤が背負ってやればよかったのに」

「いやそれはね」


 だって求められていないだろうし。


「で? さっきのはなんだったんだ?」

「ん? ああ、最初はただ空気を読もうとしていたんだけどさ、途中からは自然とそうなってしまっただけなんだよ」

「じゃあ、なにか遠慮をしていたってわけじゃないんだな?」

「うん。今日は楽しかった」


 静井さん次第では三人で集まることはもうないかもしれないけどね。

 まあ、それで見られなくなってしまっても二人が仲良くできているのならそれでいいのだ。


「静井、家に着いたぞ」

「……ごめんなさい」

「気にするな」


 前々から一緒にいるなら名前で呼んであげればいいのに。


「今日はありがとうございました、楽しかったです」

「いや、付き合ってくれてありがとな」

「ありがとね」

「はい、それではこれで失礼します」


 うーん、私が彼と二人きりになってもねえ。

 どうせすぐに別れることになるし、それならここで別れてしまった方がいいと思う。


「じゃ、私は寄りたいところがあるからこれで」

「待て、暇だから付いていく」

「流石に二人同時に攻略しようとするのはちょっと……」

「なに言っているんだ、いいからいくぞ」


 いくぞっていきたいところも決まっていないのにどうするのだろうか。


「いた……なんで攻撃されたの?」

「宇藤が余計なことばかりするからだ」

「なんでさ、静井さんとの件で協力してあげたじゃん」

「静井との件?」


 そこは貫き通したいのか。

 彼は彼らしくやっているだけだと、他意はないのだと言いたいのかもしれない。


「なんか変な勘違いをしていないか?」

「していませんが」

「その割には静井と一緒にいさせようとするよな」


 えぇ、そんなことを言う前に自分が口にしたことを思い返してみればいいのに。

 誰が相手だろうとあそこまで重ねられれば協力するか、自分に興味はないのだと判断して離れるぐらいのレベルだ。

 彼的には心配になるからしているだけだとしてもね。


「はいはい、この話は終わりね。あと、いきたいところもないからお家に帰るよ」

「家にいく」

「ま、帰らせてくれるならそれでいいよ」


 もう静井さんの方から「実は……」と言ってきてくれればいいのに。

 そうすれば彼はともかくとして静井さんに協力する形で二人が仲良くしているところを見られる。


「ふぅ」

「もしかして世良君の方がなにかあるんじゃない?」

「分かるか? 実はな、昨日の夜に椿さんが来たんだ」


 椿さん……ということは柑奈さんか。

 あ、私の方も昨日の夜に変なことがあって、何故かこちらの連絡先を知っていた武藤先輩が漢字とかも教えてくれたのだ。


「マジで意味が分からなかった、理由を聞いても『たまたまそうしたくなっただけなんです』としか言わなくてな」

「あれ、柑奈さんって年上さんだよね?」

「ああ、高校二年生だな。でも、最初からずっと敬語なんだよ」


 静井さんと同系統の人なのか。

 でも、流石に柑奈さんと二人きりになるようなことはないだろうから不安になる必要はないか。

 椿先輩と世良君、同性なら武藤先輩にしか興味がないから大丈夫。


「結局、また俺の家に来た先輩のおかげでなんとかなったがな」

「仲良くしてみればいいじゃん」

「苦手だって言っただろ?」

「なにが苦手なのさ」

「目が……苦手なんだよ」


 いやまあ、意識を向けたら二つの目が見えたとかなら確かに怖いけどさ、それとは違うわけでしょ?


「漫画とかアニメのキャラみたいにオッドアイとか? あれって本当は病気だからいいことじゃないんだよね」


 ふむふむ、虹彩異色症と言うのか。

 スマホは便利だなあ、調べればすぐに知りたいことを教えてくれる。


「いや、普通に黒い目だよ。ただ、顔を見て話しているとなんか……」

「吸い込まれそうな感じ?」

「あ、そうかも」


 それって、ねえ?

 彼はこういうところが多いから困る。

 彼が彼らしくやっているだけで私が盛り上がれるようになってしまっているのだ。

 意識してやっていないところが質が悪いところだ。

 そのくせ、私が一人で盛り上がっていたら「変な勘違いをしていないか?」と言葉で刺してくるわけだからね。


「世良君、苦手から始まる恋物語もあるものなんだよ。ううん、苦手から始まるからこそよくなる物語があるの」

「実は最初、静井も苦手だったんだ。すぐに答えてくれないし、動くのもゆっくりだから合わせづらくてな」

「きたー!」

「でも、興味を持ったのは宇藤だ」


 分かっていないねえ……。

 興味を持って近づいた結果、その対象は残念なところが多いと分かったのだ。

 逆に最初は苦手だった静井さんや柑奈さんという人とはこれからもっと変えていける、変わっていく。


「よしよし、お姉さんが協力してあげるからね」

「まあ、その方がありがたいな」


 あら、今回は素直だ。

 たまにこういういいところも見せてくれるからそういうところは好きだった。




「はい――失礼します」

「まあ待ちなさいよ」


 私のお家はみんなに知られすぎだ。


「今日は柑奈が来なくてね、退屈だったのよ」

「今更ですが武藤先輩は二年生さんだったんですね」

「そうね」


 柑奈さんを連れてきたりしなくてよかった。

 まあ、本番を迎えてしまえば多少の気まずさはあってもなんとか乗り越えられただろうけども。


「椿先輩は三年生、それなのにため口を許されているということはつまりそういうことですよね?」

「私、勝人のこと好きよ?」

「おお!」


 なんていい人なんだ!

 この前は内とはいえ失礼な思考をしてしまったようだ。


「でも、あんたも知っているだろうけど、勝人はふらふら自由人だからね。しかも対象は女子ばかり、困っているから助けたいんだとしても好きな身としては気になるわよね」

「でもですよ? 武藤先輩だって柑奈さんのことを出していたじゃないですか。だから結局は似た者同士さんなんですよ」


 困っている人を見つけたら放っておけない、うん、私のクラスにもいるよねそういう男の子が。

 どう育てられればああなるのか。


「それは……柑奈が寂しそうだからよ」

「ただ、たとえ男の子だったとしても急には仲良くできませんよね」

「そうね、難しいと思うわ。もっとも、勝人の場合はもう五年ぐらい経過しているけどね」


 意外だなあ、だって私相手にもすぐに「よう」と来られる人なのに。

 それこそ、ある男の子と同じように柑奈さんの魅力にやられてしまっているのだろうか。


「はぁ……今年は期待できそうにないわよね」

「そうですか? 確かに就職活動中で忙しいでしょうが、なにも夏休み全て一緒にいられないというわけではないと思いますけど」

「や、自分が一緒にいたいからってそのままぶつけたら駄目でしょ」


 乙女かっ、いや乙女か。

 そういう相手のことを考えて動けるところを椿先輩も気に入っていそうだけど。


「私が仮に椿先輩のことを好きでいるなら会わないなんて無理ですけどね」

「どうだか。あんたみたいなタイプは一番遠慮するのよねー」

「え、私は自分に甘いので無理ですって」

「その割には静井って子とばかりいさせようとするじゃない」


 世良君ではないけど、なにか変な勘違いをされているみたいだった。


「私は世良君が他の女の子や人と仲良くしているところを見たいんです。世良君的にないでしょうが、自分が選ばれるのは違うんですよ」

「はは、そこで勝手に世良の名字が出てくるあたり――な、なによ?」


 私はいい子ちゃんではないからここは遠慮しない、というか、できない。


「武藤先輩は椿先輩を頑張って誘ってください」

「あんたそういうタイプだったの?」

「私は相手が先輩さんだろうと遠慮しません」


 これが証拠だ、納得してくれるかな?

 仮にここで納得できなくてもここから先は疲れるだけでメリットがないからやめるか。


「それこそ、椿先輩にとって武藤先輩が気になる存在以上のレベルだったのなら『会おう』と誘ってもらえた場合、嬉しいと思いますけど」

「神でもないんだからいまどれぐらいの好感度かは分からないでしょ。好きになってしまったらそれは一種の呪いみたいなものなのよ、その状態で自由に積極的に動けるのなら苦労はしないの」


 そう何度も動かない理由をぶつけられても困る。

 別にいま以上の関係を望んでいないのであればそのままでいいのだ。

 でも、お付き合いがしたいということなら動くしかない。


「あんたじゃ駄目ね」


 自由かっ。


「なにその顔」

「いえ、お役に立てなかったみたいなのですみません。帰る際はお気を付けてくださいね」


 私達はお友達ではないのだからこれぐらいの距離感が自然だろう。

 別に「自由に言いやがって!」みたいにむかついてこの対応をしているわけではない。


「は? あんたには言ったでしょ、柑奈も来なくて暇だって」

「じゃあ、世良君のところにでもいったらいいじゃないですか」

「いいの?」

「どうぞ?」

「……つまらない」


 そ、そう言われても困りますが。


「あっ、柑奈に会ってみるってのはどう?」

「でも、来なくて寂しかったんですよね?」

「大丈夫大丈夫っ、どうせ勝人の家にいけばいるわよ」


 もうこれ椿先輩じゃなくて柑奈さんが好きでしょ……。

 いやでもね、そのパターンでもありだ。

 私で言えば静井さん? 静井さんも真顔で「勘弁してください」と言うか。


「かーんーなーちゃーん、あーそーびーまーしょー!」


 え、マジか……。

 ま、まあ、こういう感じでいてくれた方が話しやすくはあるか。

 それで結局、柑奈さんは出てきてくれなかったからスマホに頼っていた。


「反応がないわね」

「あ、いま」

「ん? なんだ、いるじゃない」


 外から変な絡み方をされたら出たくても怖くて出られないものだ。

 更に待っていると「お、お待たせしてしまってすみません」と柑奈さんが。

 残念ながら髪はそこまで長い方ではなかった、が、これは……。


「初めまして宇藤星です」

「初めまして、椿柑奈と言います」


 とにかく、内はともかく挨拶は大事だからしておいた。


「ちょっと、家にいるなら反応しなさいよ」

「い、痛いです」

「まったく、あんたが相手をしてくれなかったから後輩に甘えてしまったじゃない」


 あれは甘えているというかサンドバッグが欲しかっただけのような……。

 大事なことで頑張っている椿先輩には言えないだろうから仕方がないのかもしれないけど、他人と仲良くするためでなければ複雑だ。


「勝人さんや武藤さん、それから世良さんからも宇藤さんのことは教えてもらっていたんです」

「え、そ、そうなんですか?」

「勝人さんが初めて宇藤さんに話しかけた日から興味が出まして……」


 まさかライバル認定とか……されていないよね?

 彼女だって変な勘違いをしていたぐらいだし、不安になり始める。


「会って直接お話ししてみたかったんです、だから今日来てくれてありがとうございます」


 柑奈さんが私に対してもこんな風に動けるのなら椿先輩のときも同じようにやっているはず、だから全ては椿先輩に原因があると。

 上手く対応できないのは世良君と同じ理由なのだろうか?

 なんか仏頂面の彼女を見るときとは違う、目が合う度に私でも気になるぐらいだし。


「梨里先輩」

「は? あんたなに名前で――ちょっと……」


 ふわふわしている女の人。

 それでも、ぼうっとしていてこちらが話しかけても反応しない、なんてこともなくすぐに反応してくれてそのうえで笑みを浮かべて相手をしてくれる女の人だ。


「まさか椿先輩、意識してしまっているとかじゃないですよね?」

「ない……とも言えないわね。だって未だに上手く対応できないって怪しいし……そういえば世良も『苦手なんですよ』とかなんとか言っていたわ、それもそこからきているのだとしたら柑奈はやばい女子ね」


 で、本人は意識していなかったとしてもどんどんと他の人達のところにいっては仲良くしていくと。


「あのぉ……」

「あんたさ、勝人のことどう思ってんの?」

「もっと話せるようになりたいです」

「好きとか……」

「ええ!? あっ、と、特別な好意とかは別に……そ、そもそもですねっ、勝人さんが好きなのは梨里さんじゃないですか!」


 ドカーンッ、そう効果音が――ではない。

 まあそりゃあ、私には話して前々からお友達の柑奈さんには教えないとかないよね。


「宇藤さんも世良さんのことで警戒しないでくださいね。私、世良さんにはどこか避けられているような感じすらするんですから」


 ちぇ、なにもないのか。

 これで静井さんの中にもなにもないのだとしたら梨里先輩に頑張ってもらうしかなくなる。

 でも、動こうとしても時期が悪いと。


「もういいわ、ここは後輩のあんたが頑張りなさい」

「え、わ、私ですか?」

「世良よ、世良を攻略するのよ」


 だからさあ……。

 つまらないのだとしても無理なことを言わないでほしい。

 延々平行線になるから本人を召喚したよ。


「うわ……宇藤は裏切り者か?」

「な、なんでですか、普通に仲良くしましょうよ世良さん」


 え、マジ? あの世良君が私の後ろに隠れるレベルで苦手とはすごい存在だ。


「世良、先輩命令よ。星がすぐに不安になっちゃうからこれからは毎日、星の家にいくこと」


 え、梨里先輩は梨里先輩で嬉しいことをしてくれるな!

 もうこれ滅茶苦茶いい人でしょ、チョロいと言われても全く問題ないぐらいにはいい。


「俺はそのぐらいのつもりでいますが」

「ふっ、だそうだけど?」

「お家に来るのはいいけど、その際は課題をやるために集まるだけだからね?」

「おう」

「なんだこの二人は……」


 世良壮也君と宇藤星だ。


「私もいきますっ」

「大丈夫――んー!?」

「学年も違うし、出されている課題の内容も違うから集まったって意味な――な、なんでくっつくんです?」

「許可してくれるまで離れません」


 きたー!

 いやでも、冗談でもくっつくことができないぐらいなのに柑奈さんはよくやるな。

 たまに見せる冷たい顔にはひぇとなるのが私なのでそんな感想が強く出てきたのだった。

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