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273  作者: Nora_
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03

「はいはいっ、いま出ますから――いったあああ!?」


 ちくしょうっ、なんで夏休み初日にこんな目にあわなければいけないのか!

 あと、お客さんだからと、早く出てきてもらいたいからと連打しすぎだ!


「はぁ……はぁ……は、はい?」

「よう」

「えっ」


 やっぱり椿先輩は怪しい人だったのかもしれない。

 とりあえずは上がってもらったけど、大事な人もいる状態でこれは……どうなの?

 興味を持った相手も静井さんの次に私と、女の子ばかりで……。


「いやー急に悪かったな、世良に教えてもらってここに来たんだ」

「椿先輩はかんなさん……? という人と仲良くした方がいいです」

「うおっ、な、なんでそれを宇藤が知っているんだ!?」


 この前、聞いてしまったことを話しておいた。


「柑奈はな、俺の……」

「彼女なんですね!?」


 あ、いかん、悪い癖が。

 椿先輩――彼ももう少しぐらいもったいぶらずに話してほしいところだと人のせいにしておく。


「いや、俺の妹なんだ」

「え、なんでそれで言いづらそうにするんです?」

「義理の妹でさ」

「じ、実際にそういうことってあるんですね!」


 あるのか、いいのか!


「でも、上手く相手をすることができなくてさ……俺の方が逃げちゃっているんだ」

「なんでですかっ、もったいなさすぎますよ!」


 と言いつつ、仮に私に急に弟なり妹なりができたら空回りして同じことになりそう……みたいに不安になってしまった。

 静井さんに対する高校初期の私がその証拠だ。

 一度で上手くいかなかったら相手のためだ~とか言い訳の理由を考えて諦める。

 それが小さい頃からある本当に悪い癖だった。


「だから、武藤がいてくれるのはありがたいんだよな。武藤と柑奈も話しやすそうだから」

「なるほど、武藤梨里先輩ですよね」

「武藤に一回だけ『柑奈は武藤の妹になれた方がよかっただろうな』って言ったら『私の両親は仲良しだから無理よ、そもそも嫌よ』って返されたわ」

「武藤先輩可愛いですね!」


 これぐらいの年頃になるとどうしても両親に素直になれない子達が出てくる。

 それでも、武藤先輩は違うのだ。


「ただ、武藤は俺にだけ厳しくてさ。それなのに世良には優しいから世良のこと、好きなんじゃないかって」

「え、なんでそうなるんですか」


 というか、なにもないなら気にしないよね?

 これはきた……のでは?


「だ、だって俺にだけ厳しいんだぞ?」

「まあ、本当のところがどうかは分かりませんけど、それで椿先輩がここに来た理由ってなんですか?」

「え、それは暇だったからだけど」


 なんじゃそりゃ……。

 世良君みたいにそれっぽいことをしていてくれよ。

 別に不特定多数に対してしているわけじゃないならいいんだからさ。


「はあ~」

「お、大きなため息だな」


 しゃーない。


「いまから外にいきましょう」

「おっ、いいな!」

「な、なんでそこでそんなに嬉しそうにするんです?」


 もうどうせなら武藤先輩との仲を見せつけるとかしてほしい。

 私と彼二人だけでは意味がないのだ。

 そりゃ……仲良くできた方がいいけど、もう少しぐらいはなにかがあってからでもいい。


「だってこんなに晴れているんだぜ? 家にこもっていたらもったいないだろ?」

「……着替えてくるので外で待っていてください」

「おう!」


 って、不味った……。

 今日の私は外に出るつもりがなくて髪なんかもボサボサだった。

 お化粧とかをしているわけではないから顔自体の差はないものの、そこは女子として気にならないなんてこともないわけで……。


「あの、また急に来られてもあれなので連絡先を交換しませんか?」

「俺、スマホ持っていないんだよ」

「え、じゃ、じゃあ……普段はどうやって?」

「世良の家とかなら直接いくな」


 マジかこの先輩……。

 なんか世良君がああいう対応をしたくなるのも分かった気がした。

「いい天気だな」と言いつついい笑みを浮かべているところはいいけど……。


「明日から忙しいからな、今日は遊んでおきたかったんだ」

「あ……」

「はは、そういうのもあって宇藤が家にいてくれてよかったよ」


 なんだいなんだい、ずるいなこれ。

 でも、私だからなあ。

 これから大変になる人のことを考えて楽しませられるような能力がない。


「椿先輩、私――ぐぇ」


 急に頭ががくっと……。

 目の前の彼ではない、私の頭に体重をかけてきているのは、


「丁度いいところに頭があってな」


 そう、彼と似ている世良君だ。


「まったく、先にいかないでくださいよ」

「はは、悪い悪い」

「でも、連れ出せるなんてやりますね」

「宇藤が協力的で助かったぞ」


 あ、そういう。

 つまり、今日も私はおまけでしかないと。

 なんだこれはっ、滅茶苦茶いいじゃん!


「武藤先輩なら俺の家にいますよ」

「お、助かる。宇藤、そういうわけだから……いいか?」

「外に出ようと言ったのは私なので大丈夫です」

「よしっ、いくか!」


 やたらと嬉しそうですやん?

 ただ、やっぱり素直になれない世良後輩と攻め攻めな彼という組み合わせも捨てがたいけどね。




「あ、あの……」


 だいぶ重い……。

 武藤先輩――彼女は私の上で足を組んでから「あんたのせいで勝人がふらふらして困ってんのよ。『よろしくね!』みたいに歓迎するわけがないでしょ」と。


「そ、それは私じゃなくて世良君とか静井さんという女の子――」

「なに嘘をつこうとしてんの? 実際、あんたの家にいっていたじゃない」


 じ、事実だからなにも言えなくなってしまった。


「ふっ、いいな、ついでに鍛えておけ」

「む、武藤やめてやれよ」

「そもそも、一番悪いのは勝人なんだけど?」


 ああこれ、実は武藤先輩の方が意識しているのか。

 それなのに彼が優しくするのは女の子ばかり、それなら面白くないわけで。


「つか、短い距離なのに汗をかきすぎでしょ。気持ちが悪いから離れておくわ」


 えぇ、彼女のイメージがあ!?


「宇藤、ほらタオル」

「ありがとうございます」


 意地悪を言ってきた世良君にはべーっとしておいた。


「今日も不機嫌か」

「もしかして難しい子なの?」

「んー少し面倒くさくて子どもっぽいところがあるやつですね」

「はは、勝人と似ているじゃない」

「ですね」


 そうそう、こういうことで利用されるのなら全く構わないのだ。

 だから、この小さく攻撃してくるところにも耐えてにこにこしていよう。


「あら、上に乗られていたのににこにこしているわ」


 私のことなんかどうでもいいわっ。

 マジでいまは他三人だけで、他の人のことで盛り上がってほしい。


「武藤、柑奈来たか?」

「九時ぐらいにね」

「その割にはまだ帰ってきていないんだよな、だから暇で出てきたんだけど」

「え、どうするのかと聞いたら『もう帰ります』と言っていたけど」

「マジ……?」


 なんとなく髪が長そうな人だと想像してみた。

 世良君はこそこそ属性も持っているからもしかしたら知っているかもしれない。


「宇藤」

「ん? ――え?」


 なんで私は引っ張られて離脱することになっているのか。


「あの人はすぐに『それなら探さないと!』となるからな、だから逃げたかったんだ」

「ふふ、どうせその人も知っているんでしょ?」

「知っているが……苦手だ」


 あら、珍しい。


「でもさ、どうせ君のことだから協力しちゃうでしょ?」

「心配しなくても帰ってくるだろ」

「じゃあさ、私が行方不明になっていたら――」

「別に約束とかないなら探さないな」


 なにも遮らなくてもとは思うけどね。

 差を作るななんて言うつもりはないから心配する必要はない。


「し、静井さんなら?」

「静井の場合は冗談抜きでなにかにやられていそうだから探すな」


 やっぱり静井さんは違うよね。


「じゃ、静井さんを呼んであげないとね」

「なにが『じゃ』なんだ?」

「だって元々はそういう約束だったじゃん」

「でも、今日は忙しいみたいだから無理だぞ」


 ほ、ほーん、よく知っているようで……。

 いくら聞くことや見ることが好きな私でも流石に複雑な気持ちになった。

 そんなに好きなら椿先輩達に協力していないで静井さんといればいいのに。


「私、今日は帰りますわ」

「また急だな」

「中断してしまっているやらなければいけないことがありますの」

「そうやってふざけているときはなにもないってことだな」


 ふっ、お客さんが二人もいるところで自分のお家から出ていけるわけがない。

 普通の神経をしていたらほっぽってこちらに付いてきたりはしないのだ。


「私はこれで帰ります、かんなさんがお家に帰っているといいですね」

「え、もう帰るのか?」

「ごめんなさい、やらなければいけないことを思い出しまして」

「そうか、なら仕方がないな」


 つ、椿先輩のがっかり顔は効くなあ。

 でもっ、残りたくないから仕方がない。


「ふぅ、あっついなー」


 大人しく課題でもしよう。

 明日もせっかくのお休みなのだからベッドの上でごろごろして、夜になったら冷たいアイスを食べる。


「おい」

「どなたですか?」

「なに拗ねてんだよ」


 なーにを言っているのか。


「はは、静井のことを出されて嫉妬したか」

「はあ? 私としてはその静井さんと仲良くしてもらえた方がお得なんですけど」


 うん、やっぱり別に自分が意識してもらいたいとかではないからね。

 ただ、あれだけ出すなら本人のところにいった方が効率がいいと、もったいないことをしている場合ではないと考えただけで。


「それなのに帰るのか?」

「私は別に君に誘われたわけじゃないからね」

「先輩、寂しそうな顔をしていたがなあ」

「うっ」


 い、痛いところを突いてくるじゃないか。


「なんだ? もしかして先輩のこともう気に入っているのか?」

「普通に仲良くしたいとは思っているけど?」

「ふーん」


 いやふーんて。

 ああ、あれか。

 先輩に素直になれないように静井さんが相手のときも難しいと。

 対異性となればそうだよなあ、それに静井さんの場合はゆっくりやってあげないときっと逃げてしまう。


「ストップ」

「なんだ?」

「静井さんの用事って午前中だけで終わりとかない?」

「いや、今日は午後も無理みたいだ」


 夜も無理だよね、となればこれだ。


「そっか。じゃあ明日っ、明日いってあげなよ」


 動くのは早い方がいい。

 夏はイベントが多くて動き出しが遅いと大事なときに間に合わなくなってしまうから。


「そのとき宇藤は?」


 ふふ、そうかそうか。


「勇気が出ないみたいだから付いていってあげるよ」

「ふっ、そうか」

「なに笑っているの」


 って、少し仲良くなれたから静井さんと同性の私がいるのは大きいよね。

 協力してやろうじゃないか。

 夏休みが終わる頃には静井と名字ではなく名前で……あれ?


「ねえ、静井さんって名前は?」

「風《ふう》だ」


 静かな風か。

 え、待って、滅茶苦茶本人に合っていますやん。

 私なんて星みたいにキラキラしていないというのに……なんかせっかく両親がつけてくれた名前なのに恥ずかしくなってきた。


「じゃ、明日宇藤の家にいくからちゃんといてくれよ」

「え、も、戻るんだ……?」


 だからこれもそうだよね。

 なんだいなんだい、可愛い存在じゃないか。

 一人で難しそうなときはお友達を頼る、彼は普通のことをしているだけだ。


「なんだ、俺にいてほしいのか?」

「いや、また明日ね」


 いまから楽しみだ。

 が、そのせいで課題には集中できなかった。




「宇藤さんっ」

「こんにちはっ」


 今回はボールが襲ってくるなんてこともないのにこんな距離感でなんて……ふひょー!


「宇藤がどうしても静井といたいって言うからな」

「そうなんですか?」


 こんなに普通に会話ができるなんて奇跡か?

 あと、大人の私はいちいちそんなことでは引っかからない。

 そういうことにしておかないと彼は大変なのだ。


「ふっ、なにか冷たい物が食べられるお店にいかないかない?」

「いまならかき氷……とかですかね?」

「それはいいね、流石静井くんだ」


 さて、ふざけるのもここまでにして、と。

 お店を知っているわけではないから先導してもらうことにした。

 その際は当然、静井さんには彼の横にいてもらっている。


「世良君は何味がお好きですか?」

「静井、よく普通に話せるようになったな」


 でも、何故か彼に対して敬語になってしまっている。

 なんでだ……? やっぱりこそこそ二人で会っていてなにかがあったのかもしれない。


「……夏休みなのも影響しているかもしれません」

「はは、静井もそういうのに影響を受けるのか――あ、俺はブルーハワイとかかな」

「ブルーハワイっ、いいですよね!」


 おぉ……お? いい感じだけど、こうなってくると今度は私が邪魔すぎない?

 ふっ、彼と彼女はこちらを何回も悩ませてくれるものだ。


「宇藤さんは何味がお好きですか?」

「私が好きなのはレモン味かなあ」

「そうですかっ、レモン味も美味しいですよね!」


 いや誰これ……。


「うわ……混んでいるな」

「静井さんは世良君にくっついていた方がいいよ」

「は、はい」


 でも、早い者勝ちとかではないからね。

 並んで大人しく待っておけば、うん、割とすぐに座れたし、注文も済ませられた。

 丁度、窓際だったから外を見て待っていると「お待たせしました」と。

 いつもならハイテンションになっているところだけど、今日は静かに「いただきます」をするだけだ。

 冷たい、甘くて美味しい。

 今度、お家でできる安いかき氷機でも買って作ってみようか。


「宇藤さん」

「美味しいわね」

「え、あれ……?」


 なんだなんだ? スプーンを持ったまま固まっていらっしゃる……って、そうか。


「スプーン貸して? こうして――はい、あーん」

「えっ!?」

「静井、遠慮せずに食べておけ」

「そ、それなら――あむ!」


 いいね、お友達らしいことができている。

 なんだろう、それでもなんかここに来た頃から内がしんみりとしてしまっているというか。

 この暑い夏、そして私には本当に似合わないけど、落ち着いてしまったから仕方がない。


「宇藤、さっきから変だな」

「そう? それより早く食べなよ」

「まあ、食べるが」


 心配しなくたって今日は「帰ってくれ」と言われるまでは付き合うさ。

 静井さんの可愛いところも見られたし、この先を見ないで帰るのはもったいないから。


「宇藤さんどうぞっ」

「いいの?」

「は、はい」

「あむ――美味しいね、ありがとう」


 この状態を維持できれば彼に攻撃されることもなくなるはずだ。

 なので、このお出かけが終わっても変わらないでほしかった。

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