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春の前  作者: 固ゆでたま子
第2章 土鳩と夜桜
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第2話

「好きな食べ物とかあるん?」

「朝ごはんです」

「じゃあ好きな朝ごはんは?」

「水曜日の朝ごはんです」


 喪服の女は「夜桜といいます」と、深々と頭を下げて名乗った。まるで俺が喪主であるかのような気分になった。何時間か静かすぎる会話を続け、折を見て「なんでずっと喪服なん?」と尋ねてみると、「私、翼が生えてるんです」と彼女は答え、真っ白い翼を隠すには、真っ黒い喪服を着て人の目を欺かなければならないことを、さも理屈立った経営戦略のように説明した。

 昼になると、どんよりとした雲の層が、人々の友情や恋といった営みにのしかかりはじめる。夜桜は俺をつれて、郊外のだだっ広い、短い草木だけが生え、これまでにも短い草木以外は生えたこともないのだというような空き地に案内した。蚊が一匹、音もなく飛んできて、「ようこそ」か、あるいは 「帰れ」と言ったように俺は思った。



「闇落ちしたライト兄弟」

「ブラックライト兄弟、ですね。存じ上げております」

「存じ上げてる奴はどこにもおらんねん」


 夜桜は「どんな物でも人でも運んで飛べるんですよ」と言いはなち、周囲に人目の絶えていることを確認すると、鎧のように着込んで脱ごうともしなかった喪服を、鎧のように脱ぎだした。

 あらわになった彼女の細い背中には、人々が欲して止まない類の純白を纏った、柔らかな羽根の翼が生えている。彼女はその翼を1、2回、悪と憎しみとに別れを告げるように羽ばたかせ、そのままこの世でないどこかへ飛んでいくかのように、浮き上がった。

 彼女は美しく空を旋回しながら、羨望と、その陰に潜んだ羞恥との板挟みになった俺を見下ろし、「私の心が綺麗な内は、この翼も白いんです。心が汚れると黒くなってしまうんです」 と言った。

 

なかなか進まなくて申し訳ないですが、応援していただけますと幸いです。章ごとに違う女を登場させる予定です。

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