第3話
「友達の友達は友達か?っていう問いあるやん。アンタはどう思うん」
「友達の友達が父親です」
夜桜との日々が始まって、何が変わったかといって、特に何も変わることは無い。一体彼女がどこから来て、これから先どんな不思議な場所へ行くのか、その謎への小さな興味が常に生活の中に漂う以外は、俺はいつも通り仕事へ行くし、いつも通り寂れ切った部屋に帰ってくる。
当の彼女はというと、翼のことを誰にも言わないだけの、真の理性を持った人間を見繕っては、彼らの為に宅急便の真似事をするのに楽しみを見出したようだった。どうしてそういう人間を見抜けるのか、と問うと、天使の翼を授かる人間は天使の眼も同時に授かるものなのだ、と説明した。
ある快晴の日の夜、夜桜は、あいも変わらず大阪であり続ける大阪の街を歩き、傍らで、タレントを追いかけるカメラマンの様に彼女に付き従う俺に向かって、「会ってもらいたい人がいるんです」と言った。
「アンタと同じ天使か? 翼生えてるとか」
「確かに彼も天使ですが、翼を必要としない天使なんです」
彼、と夜桜が呼んだ男は、人々が明日や、明日と名のついただけの昨日と変わらぬ一日へと向かって歩き去る大通りの、コンビニエンスストアの前に立っていた。便利さを売りにしたために、便利さ以外の何者をも失ってしまった世の中にあって、その男は、これで十分、といった風情の服装と佇まいをし、これで十分というような僅かな愛を湛えた眼を世界に向け、夜桜と俺を遠目に見つめていた。
彼女が言う。「遅くなってごめんなさい。こちらの方が例の」
その男は軽くうなずき、俺に向かって名乗った。「はじめまして。会えて嬉しいです。暁と言います」
「お生まれはどちらですか?」
「この汚い街の生まれですわ。そちらは? 実は俺はどうも、夜桜さんの生まれもまだ知らんのですよ」
「お前、この人にまだ話してないのか」
「ええ。だって生まれといっても、自分が本当に生まれているのか、わからないんですもの。私」
「そりゃあそうだがな……。実は僕もまだ、生まれたつもりは無いんです。『汚い街』と仰いましたけど、この街のどういうところが汚いとお考えですか?」
「簡単な話ですわ。綺麗なところが見つからない。だから綺麗じゃない所は全部汚いって訳です」
暁という男は、どうやら数年の時間を夜桜と共に過ごした間柄らしかった。別に仔細に尋ねた訳ではないが、数年という時間は、何事もなく過ごすには少し長い。それとなく話題を振ってみると、思った通り、男女二人が世間を降りて羽休めするときにすることを、この二人も例にもれずしていたようだった。
「それで、夜桜。暁さんと俺を会わして、何する腹なん?」
「手伝って欲しいんです。私たちの子供を探すのを」




