煉獄統一編2ーーー煉獄うなぎとバトル決着
「マズいね……。心太! そこを動かないでおくれよ」
上を見上げた婆ちゃんが緊張した面持ちで言う。
上に何かあるのか……?
婆ちゃんの視線の先を追おうと、上を見上げる途中で。
イヤな光景が視界に入った。
「おぉ、お……」
頭を失った巨大うなぎの胴体が、体内の血を盛大に天へ向かって放出していた。
それは蛇口を全開にしたホースのように、ブッシャブッシャと撒き散らして空を赤く染めている。
確か……うなぎの生き血ってやばかったような……。
「ヤバ……! も、猛毒が降ってく……」
「クロストライアングル!」
猛スピードで針と光る糸で縫い上げた婆ちゃんが、俺に向かって手をかざす。
すると三角の編み込みで分厚い層になったカーペット状のシールドが、俺の頭上をすっぽりと覆った。
「お、おぉ……」
間一髪、ギリギリのタイミングだった。
トライアングルのシールドが、降り注ぐ血液シャワーを『バシャッ!』と受け止めてくれた。
おかげで猛毒シャワーを浴びずに済んだ……。
いやぁ……危なかったわ……助かった。
そして、またしても。
ブシュッ―――!!
首なしウナギの体から黒ずんだ液体の飛沫が、霧のように撒き散らされた。
それが、砂に落ちる。
と。
ジュッ―――。
「……え?」
砂が、焼けた。
いや、違うな……。
これ、溶けてるよな。
「……うそだろ」
「この血は……強力な酸のようだね。浴びればもう終わりじゃったな」
「うん、うん……ありがとう婆ちゃん」
その横で、ファウストが一歩下がる。
「……厄介だな。殺すだけなら容易いが……この血は汚いな」
自身で張った結界シールドの中でファウストが独りごちる。
「この血が厄介なので市場に中々出回らず、高級食材となっています。味はもちろん美味です」
「ベルク……コイツ食ったことあんの?」
「……そんな事より、さっき呑まれた加藤を一応、助けておくかね。ベルク、加藤を呑んだうなぎの位置は分かるかい?」
「はい。我々から真っ直ぐ5メートル先で、地中へ深く潜ろうとしています。どうやら深く潜伏した所で消化するようです」
「潜られたらまず助けられないねぇ。2人共、引きずり出す方法はあるかい?」
「でしたら、私よりファウスト様が……」
ベルクがチラッとファウストを目でやると。
「分かった。加藤入りのヤツは引き受けた。そっちにいる6匹を頼む」
「ファウスト……加藤入りって言い方、ちょっとエグい……いや、待て。”6匹?”」
今、現れた3匹。加藤入りのヤツを合わせてもあと4匹のはずだ。
ファウストに聞き返すより早く、うなぎ達が跳ね上がり地上に姿を現した。
ファウストの言った通り、本当に6匹現れた。
砂の中からぬらりと姿を現したそれらは、蛇のように鎌首を持ち上げて、こちらを“品定め”するように頭を揺らした。
「……2匹増えた」
「群れじゃな」
婆ちゃんが軽く肩を回す。
「このサイズで群れとかありかよ!」
俺が叫んだ直後だった。
ズドン!!
6匹が一気に地を跳ねた。
我先に呑み込まんと、襲いかかって来る。
「来るぞ! そいつらは頼んだぞ」
ファウストが短く言う。
その瞬間、空気が“張り詰めた”。
ファウストが地面に向かって手をかざす。
体から噴出された黒煙がその手包む。
「―――土竜炎!」
翳したファウストの手から炎の龍が飛び出した。
それが地中へと侵入した。
火炎の竜で追い立てて地上へ出すのか。
ただ……こんな時に細かくてどーでもいい事だけど。
火炎の呼び名……モグラじゃなくて竜でよくね?
そんなツッコミを心で密かにしていると。
「6匹……引き受けました」
ベルクは返答すると凄まじい量の黒煙を、体から放出させた。
今までと比べものにならない、どうやら本気モードになったらしい。
両腕を伸ばしてその先で、ゆっくりと、ベルクは両手の平を交差させた。
気流が起こり周囲一帯の砂が上昇している。
そして右手を拳にして、その右手を左手で包んだ。
「魔力最大……空間掌握!!」
ベルクがそう告げると、並んだ5匹の巨大うなぎ達は静止した。
そして。
ーーーブギッ!
って、ちょっと嫌な鈍い音が鳴った。
うなぎ達は絞られたように、その身を……縮こませて……って……。
え……?
並んだ6匹の内、1番右端の1匹が……。
その腹の辺り? なんか、ちょっと、膨らんでいるような……。
まるで……。
ペットボトルみたいにボディが膨れていて、人間1人を呑み込んだらちょうどそんな膨らみ具合になりそうな……。
そう訝しんでいると、その膨らんだうなぎの腹に亀裂が入った。
その腹の中から眩い光が立ち込めて漏れている。
刹那だった。
ドンッ!!
爆音が響いて、うなぎの内側から弾けた。
すると、中から何かが転がって出て来た。
「うおっっっ!!」
出てきたのは、粘液でべっちょんべっちょんになったーーー。
「―――はぁっ!!」
ーーー加藤だった。
「加藤!?」
全身どろどろになった加藤が、両膝に両手を当ててゆっくりと起き上がる。
髪と僧衣から体液を垂らしながら。
ただ、その手には―――。
光を宿らせていた。
「いきなり……締め付けてきたので……ハァハァ……仕方なく……炸裂浄化の呪文を……ハァ……ハァハァ……つ、使いました……」
サラッとすごい事を言った加藤。
いや、お前、エクソシストだろ。
なんでそんな、炸裂魔法みたいなの出来るんだよ。
違う、今はそれよりも……。
「ファウストォォォォ!! 加藤そっちじゃねぇーよ!! こっちの1匹から出てきたぞ! お前、間違えてんじゃねーか!!」
「何!?」
叫んだ俺に目を丸くして振り返るファウスト。
いや。
”何!?” じゃねぇよ。
危うく加藤がスムージーになるとこだったじゃねぇか。
こぉの……ポンコツ悪魔め。
そう、俺がポンコツファウストとやり取りしていると、婆ちゃんが。
「加藤……あんた冷静だねぇ。いきなりあんなのに呑まれたってのにねぇ」
「いえ……その……もう無我夢中で………」
「ハァァッ!」
孤高に戦うベルクがトドメの一喝。
すると、ウナギ達はドスンドスン……! と、次々に地上に落下した。
片付けるのが趣味なのか? ってぐらいにベルクはうなぎ達を綺麗に横一列並べた。
性格出てるよなぁ……。
「ちょいと……加藤。あんたの服……焦げてきてるよ。早く脱ぎな」
「は……? うわっっ!」
ほんの少し加藤はうなぎの返り血を浴びたらしい。
ジュワッと溶け始めて、体液でドロッとしている僧衣を急いで脱ぎ捨てる。
「へ、へる、フレイム!」
ファウストが少しバツの悪そうな、歯切れも悪く魔法を唱えた。
地上に出て来た最後の1匹を焼き払う。
周囲に香ばしい、胃にくる匂いが漂う。
「どうやら今ので最後じゃな」
婆ちゃんが、そう笑った。
ようやくの静寂。
風の音だけが残っている。
「……終わりましたね」
「う、うむ……終わったな」
「死ぬかと思った……」
「一回呑まれましたけどね」
「いや、本当にすまぬ……」
ファウスト、めっちゃ反省しているらしい。
元、天敵に素直に謝ったよ。悪魔なのに。
とりあえず。
砂鰻を俺達の一行は倒した。
ただ、すぐに、俺、何も出来てねぇな。
いや、違う。
何も出来てないんじゃない。
何もしなくて済んだだけだ。
きっと。
いや……うん、たぶん………。




