心太とファウスト。死の真相
「なぁ婆ちゃん、あの縁食ってのは死んだり消滅したりしないの?」
ソファーにへたった俺は、縁食が消えた場所に視線を向けながら訊いた。
心臓がまだうるさい。体がまだ興奮冷めやらぬだ。
俺のほぼ正面に近いところで、ファウストは冷蔵庫に背を預けている。
もしかして、体を冷やしてんのか?
「あれはね、魂の残滓の集合体が一体の怪異となったものだからね。消えたりはしないんだよ。ただ、今は……リロード中ってとこだね」
「じゃあ次いつ出てくんのかな?」
「……それは分からないね。まぁ、出てきたら祓うよ」
またベルクが机に向かって、ノートにデータか何かを書き込んでいる中、その横に立って優しい目で婆ちゃんが心強い事を言ってくれる。
ベルクの作業を見て、そういえば……訊かなきゃならない肝心な事を思い出した。
「っつうか、なんで俺が死ぬって分かるの? 俺別に病気もしてないし。運命書みたいな物があるのか?」
そうなのだ。
さっきファウストは俺がどんな最期を遂げるか分からないって言い方をした。
でも、俺が死ぬのは確定はしている。
ここのところがちょっと矛盾しているんだよな。
どんな最期をかも分からないのに、死ぬって事だけは分かってる。
じゃあ、人、生き物の寿命が記されている、その運命書みたいなものがあるって事だ。
「いや……。我ら悪魔……まぁ天使、死神もそうだが、見分け方を知っているのだ。死期が近い人間は、その体から魂の力、まぁ魔力や神通力に近いものを漏洩させる。それで分かるだけだ」
「……それ、俺から出てんの……? 今も?」
「あぁ、まぁ……出ているな……」
「それってどんな……あ!」
そうか。
思い出した。魔獣食った時、俺の体からファウストにまで繋がっている黒い靄が出ているのを見た。
……アレかよ。
あぁ。そうだった。俺出してたわ……。
………いや、ちょっと待て。
「ってかさ……」
俺はファウストを見据えてきいた。
「……ファウストからも漏れてたぞ? それも俺と繋がってる箇所から。あれはいいのか?」
「……!」
聞いたらファウストが目を見開く。
あ、これ、訊かれたくなかった事なのかな。
と、思っていたら。
「心太様。実は実際に死ぬのは心太様では無かったのです」
そうベルクがとんでもない事を言い出した。
「おい! ベルク!」
ファウストが慌ててベルクの口を止めようとする。
が。
「……あぁ、そうなのかい。わかっちまったよ……。私も厄介な事をしたもんだねぇ……」
ベルクが言っている事を察した様子で、婆ちゃんが納得の言葉を出した。
「……どういう意味? 婆ちゃん」
すると婆ちゃんは。
怖いぐらい真剣な顔でファウストの方を向いた。
「死ぬのは……消滅するのはアンタなんだね? ファウスト」
「………え?」
「……………………」
婆ちゃんにそう問われたファウストは、視線を落としたまま、返答もしない。
おいおい……冗談……。
そんなファウストにさらに婆ちゃんは。
「死神の鎌……」
そう言いながら、ファウストの目の前まで行って屈み。
「あの時の傷が原因だ。今、魔力でダメージが広がるのを抑えているが、それもそろそろ限界に近い……そうなんだね?」
そうファウストに訊いた。
ただ、当のファウストは俯いて黙ったまま何も言わない。
「心太とファウスト。アンタ達二人は今、魂の不足分を互いに補い合いながら生きてる。もし、ファウストが消滅すれば、心太も……」
代わりにベルクが。
「仰せのとおりです。ファウスト様が消滅し、心太様も強制的に後を追い……となってしまいます」
ノートをぱたん、と閉じて返答した。
そんなベルクを見て、やがて諦めたようにファウストが。
「だが我と契約をすれば……心太は生きながらえる」
静かにそう言った。
「なんで? どういう事?」
俺が訊くと。
「契約の内容に”我、ファウストの魂。その全てを託す”と書いている。そうすれば……」
言いながらファウストはやっと顔を上げた。
その顔が悲しげで寂しげな表情で……俺を見て話を続ける。
「心太の魂は修復される。しかし……一つ問題があるが」
「どんな?」
「心太……貴様、いや……そなたは、人間をやめる事になる。そして、悪魔となり魔界で生きねばならない。我らと同族になるのだ。さすれば、魂は譲渡できる」
「……でも、それじゃ、お前は助からないんだろ?」
「……我が……そなたに出来る事はこれぐらいしか無い。元々、我が原因を作ったのだからな。我は自業自得だ」
「……そんな話、俺がうん、て言うと思うか?」
「……気にいらぬか」
「あぁ、当たり前だ」
まったく……こいつだけは。
友達でって俺が言った意味が……まだ分かってないんだ。
「俺もお前も助かる。その方法があれば何にでもなってやるよ。契約も喜んでやる」
俺がそう告げるとファウストはなんとも間の抜けた顔で俺を見る。
「いや、しかし…そんな都合の良い方法は……」
「無いってか? なんか見落としがあるんじゃないか?」
俺が投げかけると、ファウストは苦悶の表情を浮かべた。
あ〜……。
やっぱり無理ゲーか。
そう思っていると。
「……一つだけあります」
ベルクがはっきりと言った。




