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半年後に死ぬらしい俺の家に、ポンコツ悪魔が営業に来た  作者: 友利色良


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23/32

心太、ファウスト、ベルク、怪異と対決する


 なんなんだよ、コイツ……。

 

 重なっている。男と、女と、子供の声が。

 壊れたスピーカーみたいに音が割れて、そして少しだけズレて、同じ言葉を発している。


 生まれて初めて感じた。

 そこに居るはずのないものが、いる気配。


 俺は思わず、ファウストを見る。


「……なぁ」


「……分かっている」


 珍しく、即答だった。


 その顔は――さっきまでのポンコツじゃない。

 やる気になった“悪魔”の顔だった。

 ベルクも無言で、ゆっくりと立ち上がる。

 部屋の空気が、重くなる。


「どうするつもり?」


「……この場で戦うしかない」


 ファウストが低く言う。


「心太様はどうか安全な場所で」


「そういう事は、こんな奴が来る前に言ってくれる?」


 頑張っておどけてみせた。

 その時。


 ―――コツ。


 ドアの向こうで、怪異が音をたてた。

 ノックじゃ……ないな。

 爪で、軽く引っかいたような音。

 ぞわ、と背中が粟立つ。


「……帰ってくんねぇかなぁ?」


「……強制的にお引き取り願おう」


「ドアが……開きます」


 ベルクが静かに言った。


 ―――ギィ……


 ドアノブが、ゆっくりと回った。


「は?」


 俺、鍵、閉めてたよな?

 今、カチャ、って軽い音がしたぞ。

 ―――閉めていたはず。ガチャガチャさっき廻してたし。

 そのドアが、ひとりでにゆっくりと開いた。

 そして怪異ソレが入ってきた。


 人―――“みたいなもの”。


 俺の喉が、カラカラに乾く。


「……なんだよ……なんなんだよお前……」


 思わず出た声は、情けないぐらい掠れていた。

 そいつは、首を傾げる。

 コキ、と。

 嫌な音がした。


「なんだよ……?」


 今度は一つの声。

 でも次の瞬間には、


「なんだよなんだよなんだよなんだよお前お前お前お前なんだよなんだよお前なんなんだよなんだなんだよなんなんだよ―――ケラケラケラ………!」


 と、また何人もの重なった声で、狂ったように俺の真似をする。

 そして。

 にぃ、とまた、左右でズレた笑みを浮かべた。


「ケラケラ……つながってる……つながってる……」


 ―――ぞわっ。


 背中に、冷たいものが走る。

 次の瞬間。

 そいつの“影”が、先に動いた。

 足元から、スッと伸びて。

 俺の足に―――触れた。


「うおっ!?」


 瞬間、頭の奥に何かが流れ込んでくる。


 知らない声。


 知らない記憶。


 知らない感情。

 

 足に絡まりついた影がじくじくと濡れるように、上半身へと這い上がる。


 それと同時に。

 黒い煙が俺の腕にまとわりついた。

 それを振り払いながら。

 俺は半歩踏み込む。


「触るなァ!!」


 拳を振り抜いた。


 ―――が。


 手応えが、ない。


「……は?」


 殴ったはずの場所に、“いない”。

 気づいたときには。

 そいつは、俺のすぐ横に立っていた。

 いつの間に―――!!


 コイツ……早いもクソもない!


「いいなぁ……」


 耳元で、囁かれる。

 ぞくりと、背筋が凍る。


「ちゃんと……ギリギリで……つながってる……いいなぁ……」


 その手が、俺の胸に触れた。

 心臓の上。


 ―――ファウストと魂が繋がっている場所。


 ビリ、と。


 何かが“引っ張られる”感覚。

 そして。

 ブツッと。

 嫌な音がした。


「っぐ……!!」


 膝から崩れる。

 ヤバい、これ―――持っていかれる。

 呼吸が……うまく……出来ない。

 これ……ファウストと繋いでいた糸を……切られたのか?

 すると怪異は、今度は自分自身の体の中に、その手を突き刺した。


「ボクと……私と……俺……とつないだよ……」


「心太ぁ!!」


 俺の背後にいたファウストが素早く動いた。

 黒煙が一気に膨れ上がる。

 その手に、凝縮される。


「貴様ァアアアアア!!!」


 振り下ろされる一撃。

 空気ごと引き裂くような衝撃。

 それが、怪異を直撃した。

 ―――はずだった。


 なのに。

 ファウストは捉えられなかった。

 そして、ソイツは。

 全くの無傷で、今度はファウストの背後に、立っていた。


「おそい」


 ぼそり、と。

 その声と同時に。

 ファウストの体が、ビクリと震えた。


「――っ!?」


 見えた。

 怪異の手が。

 ファウストの背後から胸の中に、“入り込んでいる”。


「やめろォ!!」


 ファウストが叫ぶと怪異は、ゆっくりと引き抜いた。

 その手に。

 黒い、揺らめく何か。


 アレ―――ファウストの“魂”か……?


「やわらかい」


 ぐにゃり、と。

 それを歪めた。


「ぐっ……あ……ッ!!」


 ファウストが、俺の隣で崩れ落ちた。

 初めて見た。

 あのポンコツ悪魔が、本気で、苦しんでいる顔。

 ……ってそんな事考えてる場合じゃないよな。

 

 ただ、怪異は楽しそうに。

 喜悦に満ちた歪んだ笑みを広げて、俺とファウストを見下ろす。


「もっと……ほしい」


「させるわけないでしょう」


 ベルクが指をパキッと鳴らす。

 部屋の温度が一気に落ちる。


「ファウスト様と心太様をすぐに元に戻すんです」


 ベルクはソレを足から上半身へと徐々に凍らせていく。


「ケラケラ……ダメだよ、ボク、オレ……ワタシ……」


 言って怪異は。

 目を、カッとむいて叫んだ。


「つなげるんだからぁぁ!!」


 凍った足をボキリと折り、両手と腰だけで飛んでみせた。

 今度はベルクへ。

 

 強襲。


「処分します……」


「ケラケラ……できないよ……キミも壊れてるんでしょ……」


 ベルクの胸に手が伸びる。

 瞬間。

 ベルクが空間を握る。


 すると。


 ぐにゃり、と怪異を取り囲む空間が歪んだ。

 空中にいるソイツを掌握するがごとく。

 ベルクが得意とする魔法だ。

 ……なんて魔法だろ。今度聞いてみよ。

 

 まぁ、これは流石に圧勝。

 と、俺は確信した。

 が。


「ケラケラ……処分します処分します処分します処分します処分処分処分処分しますしますしますします処分処分します―――ケラケラ……」


 怪異がベルクの真似をする。と。

 ベルクを取り囲む空間が……!


「弾き返した!? バカな………!!」


 ベルクの魔法をもろともせず、ソイツはいとも簡単にベルクへと弾いてみせて、ベルクの周囲を歪めた。


「………!!」


 苦悶の表情でベルクが膝をつく。

 

 と。


 ふたたび。

 着地すると同時に振り返って。

 片膝をついている俺に、怪異が手を伸ばしてきた。


 ―――その手が、俺に届く寸前。


 もう、アカン……と諦めた、その時だった。


 ―――カラン。


 鈴の音が、鳴った。

 空気が、変異する。

 さっきまでの重苦しさが、一瞬だけ“押し返される”。


「―――そこまでだよ」


 聞き慣れた声。

 その人が俺の後ろから、ソイツに向かって手を伸ばしていた。

 すぐに分かる、温かい気配。


「婆ちゃん……!」


 いつの間にか、そこに立っていた。

 背筋をピンと伸ばし、いつもの着物姿で。

 ただし―――さっき見た時とは違う。


 空気が、張り詰めている。


「まったく……出てきたら、私ゃ時間が無くなるってのにねぇ……」


 いつもの“優しさ”じゃない。

 この場の皆を守るため? 

 強さが、むき出しになっていた。


 婆ちゃんは一歩前に出る。

 それだけで、怪異の動きが止まった。

 ……いや。

 止められた、のか?

 婆ちゃんの威圧に。


「へぇ……」


 怪異が、首を傾げる。

 ぐにゃり、と。

 角度がおかしい。


「さっきの止めた……オマエ……止めた……」


「私の孫に触るんじゃないよ」


 静かに言い切る。

 その手に、いつの間にか―――糸切り鋏が握られていた。

 チョキ。

 空を、切る。

 瞬間。

 俺と怪異の間にあった“何か”が、弾けた。


「っ……!」


 胸を引っ張られる感覚が消えた。


「……ベルク、まだ動けるかい?」


 婆ちゃんが低く呼ぶ。


「はい」


 短い返事。

 立ち上がると、ベルクが一歩前へ出た。


「貸してやるから使いな。私はコイツを抑えているから」


 婆ちゃんがあの針をベルクに渡す。

 受け取ったベルクのその目が冷たい。


 あぁ、これ……ベルク、分析してる時の目だわ。


「三針分……縫い止めます」


「やりな」


 パチン。

 空間に、細い光が走る。

 ―――糸だ。


 だが、さっき婆ちゃんが俺とファウストを縫う時に使ったものとは違う。


 もっと鋭い。


 きっと“拘束する”ためのもの。


 一本。


 二本。


 三本。


 現れた糸を使ってベルクが怪異を、突き刺さしていく。


「―――固定いたしました」


 ギュン、と。

 空間ごと、縛り上げるように。

 怪異の動きが、完全に止まった。


「……おお」


 ソレが、楽しそうに声を漏らす。

 が、すぐにその顔が、歪む。


「いたい……ケラケ……いたい……」


「当たり前だろ」


 婆ちゃんが吐き捨てる。

 チョキ。

 もう一度、鋏が鳴る。

 今度は、怪異の体の“継ぎ目”に向けて、婆ちゃんがまた何かを切った。


 ――パチン。と、乾いた音がした後。

 体が“ズレた”。

 肩と腕の位置が合っていない。

 顔が、二重にブレる。


「……ぁ」


 初めて。

 この部屋に来て怪異の声に、“乱れ”が出た。

 そして。

 ソイツが持っていた黒いもやもやが。

 ファウストの元へと戻った。


「今だよ、ファウスト……」


 婆ちゃんが言う。

 床に崩れていたファウストが、起き上がって歯を食いしばる。


「……言われずとも……!」


 震える手を持ち上げる。

 黒煙が、再び集まる。

 さっきよりも荒い。それを―――。


「ぶっ飛べぇ!!」


 ドス黒い波動を起こしたファウストは、怪異に直撃させた。


 渾身の一撃。


 今度は、確かな手応えがあったようだ。

 怪異ソレの体が、大きく歪んだ。


「――――――」


 声にならない声。

 そして。

 その輪郭が、崩れ始める。

 まるで。

 無理やり寄せ集めたものが、ほどけていくみたいに。


「……ぁぁ……」


 顔が、揺れる。

 一瞬だけ。

 怪異が俺の顔をした。


「っ……!」


 息が詰まる。

 次の瞬間。

 スッと薄くなって―――消えた。


 そして、ようやく静寂。

 何もかもが、一気に静まる。


 婆ちゃんがまた、俺とファウストを縫い合わせた。

 婆ちゃん……めちゃくちゃ早ぇな……。


「……はぁ……っ」


 俺はその場にへたり込んだ。

 心臓が、まだバクバクいってる。


「……今の、何だよ……」


 誰に聞くでもなく、呟く。

 婆ちゃんが、ゆっくりと息を吐いた。

 鋏を懐に戻す。


「あれはね」


 一拍、置いて。

 はっきりと言った。


「 ”縁食えんじき” だよ」


「えん……じき……?」


「縁と魂を喰って、自分を保ってるモノだ」


 ベルクが補足する。


「契約も、輪廻も、創造でも関係ない。完全な“外”です」


「怪異、ってか?」


 ファウストが、荒い呼吸のまま言う。


「……本来なら……こちらに干渉できる存在ではない……」


「でも来たじゃん……!」


「あぁ、そうだよ。来たね……」


 婆ちゃんが、俺を見る。

 真っ直ぐに。


「心太」


「な、なに……」


「あんた、さっき縁を切られたろ」


「……うん」


「ああいうのはね、“匂う”んだよ」


「匂う……?」


「弱った縁。切られた繋がり。―――ああいう連中にとっちゃ、ご馳走さ」


 背筋が、寒くなる。


「じゃあ……また来るのか?」


 婆ちゃんは、少しだけ黙ってから。


「来るね」


 はっきり言った。


「しかも次は、もっと上手くやる」


「おいおいおい……」


 勘弁してくれ。

 心の底からそう思う。

 一撃を喰らわせてちょっとへたっていたファウストが、ゆっくり立ち上がる。

 まだふらついている。

 でも、その目は―――決意していた。


「……心太」


「ん?」


「今のは……我の責任でもある」


「は?」


「貴様の魂は……普通ではない。

 あのようなモノを引き寄せる」


「いやだから……ちょっと待てって。それ困る」


「だが」


 一歩、前に出ると、珍しくまっすぐ俺を見る。


「―――今度は守る」


 短く、言い切った。

 俺は少しだけ、間を置いて。


「……おう。頼むわ」


 そう返した。

 婆ちゃんが、ふっと笑う。


「やれやれ……厄介な縁が増えたねぇ」


 その言葉に少しだけ。

 本当に少しだけ、安心した。

 ―――でも。


 胸の奥に、残っている、あの感触。

 引っ張られる感覚。


(……なんなんだよ、あれ……)


 やっと冷静になってきたところで室内を見渡す。

 気づけば色んな物が散乱していた。

 テーブルも、脚が壊れてる……おぉい、マジか……。

 ベッドも引き裂かれて……これ、たぶん、ファウストの攻撃の余波だな……うん。


 しっかし……やってくれたな……あの怪異ってのは。

 次来たらどうなるか……。

 まぁ、その答えは、まだ出ない。

 ただ一つ、分かるのは。

 ―――あれは、また来る……って事だけか。


 あ!

 今、思った。

 別に……さぁ、あの化け物とだね……。


 ここで戦わなくてもよかったんじゃね!?


 キャンプ行った時みたいにテレポートすれば……!

 はぁぁ、せめて、次はそうしてもらうか。

 できればもちろん、次、なんて無い方がいいんだけど!



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