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半年後に死ぬらしい俺の家に、ポンコツ悪魔が営業に来た  作者: 友利色良


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22/32

心太、詰め寄る

こんばんは。

一話目を修正、書き足ししました。

話の微細なブレを修正しました。

それと、本日、二話分アップします。

お楽しみいただけたら幸いです。

では、よろしくお願いします!


(だから言ったじゃないですか……先に話しておいた方がいいと……)


(……言えば……閉め出されそうな気がしたのだ。それに……目をつけられ……)


 おまえら、小声だけど丸聞こえだよ。

 ってか、ファウスト。

 契約したいって話を前面に押し出せば閉め出されないってそう考えたのか?

 それであんな仰々しく……でもないか。うん。

 初めからポンコツな匂いをプンプンさせてたもんな。


 でもまぁ、腑に落ちた。

 コイツ……ファウストを最初に見た時から怖いと思わなかった。

 魂が繋がってるって事は要するにあれだ、兄弟とかすごく仲の良い親戚、従兄弟みたいな感覚なんだろう。

 現に今は同居して家族みたいな生活してるし。

 あとファウストの先端恐怖症。異常に刃物を怖がるところ。

 婆ちゃんの針に死神の鎌。

 その二つがファウストにトラウトを刻んだんだ。

 とりあえず……。


「なぁ! ファウスト!」


 と、再び俺が呼びかけると。

 ビクッ!

 って、擬音が見えそうなぐらい体を縦に揺らすファウスト。

 

「黙っていたのはこの際もういいや。あの後、俺の事………子供の頃からずっと監視していたのか?」


「監視と言われれば聞こえが悪いが……。ずっとではない……。我も役割を果たさねばならないのでな……。だから……役割の間に……いや、決して気を抜いてはなく……」


 何か言い淀んでんなぁ。歯切れの悪い。

 いや、違うな。

 そうか、分かった。

 これは、言い訳してるんだ。

 

 オマエ……。

 なんで言い訳なんかするんだよ。

 いつもみたいに笑えて終わりにしたかったのに。

 ちょっと悲しくなったじゃねぇか……。

 なんか急速に腹が立ってきた……。

 コイツ……。


「へぇ……役割、ねぇ……」


 俺は一歩、ファウストに近づいた。


「じゃあ聞くけどさ」


 目の前まで行く。


「俺が火事で死にかけてた時も、その“役割”でただ死ぬ様を見てたわけ?」


「……っ」


 分かりやすい……。分かりやすいよ。

 言葉に詰まるなんてなぁ、ファウスト。

 あぁ〜あ……図星かよ。

 欲で俺の魂をただ傷つけましたってか。


「で? 契約もしてないのに、魂に触ろうとしたのも“役割”? それとも―――」


 呼吸の一拍分、置いて訊いた。


「ただの欲?」


「……違う」


 低く、絞り出すような声。


「……違う、が……否定は、できん」


 おいおい。

 そこは全力で否定しろよ。

 

「我は……あの時……」


 ファウストが、ゆっくり顔を上げる。 


「力を失っていた」 


「…………………………」


「我の資産を他の悪魔ものに騙し取られた。ゆえに……不安定になり、魔力と思考が低下していた」


 自身を鼻で笑うように自嘲気味にファウストは語る。


「ゆえに……契約を待たず、魂に触れてしまった……結果、傷つけた」


「……あぁ。そうかよ」


 ―――ドンッ!!


 気づいたら、俺はファウストの胸ぐらを掴んでいた。


「おまっ……それで俺、死にかけてんだけど!?」


「……分かっている」


「分かっててやったのかよ!?」


「分かっていなかった!!」


 珍しく、ファウストが声を荒げた。


「人の魂があそこまで脆いとは……思っていなかった……!」


 ……あ。

 なんかファウストから流れてきた。

 これ、本気で後悔してるやつだ。


「……その結果が、あれだ」


 ファウストが、自分の胸に手を当てる。

 そんなファウストと俺をベルクはただ黙って見ている。


「貴様と我の魂は、縫い合わされた」


「婆ちゃんに、な」


「……あの女……いや、あの御仁は……規格外だ」


 おい。

 このタイミングでちょっとだけ敬語になってるの、なんか笑いそうになるぞ。

 

 でも今は我慢だ。


「で?」


 俺は手を離して。


「そのせいで、お前は人間の感情が分かるようになって―――」


「……恐怖を知った」


 ボソッと、ファウストが瞬間を振り返るように絞り出す。


「針、刃物……あれらを見ると、魂が“あの時”を思い出す」


「……トラウマか」


「トラウマと言うな」


「いやトラウマだろ」


 即答したら、ファウストがちょっとだけむくれた。


 ……なんだろうな。


 さっきまで「悪魔」って感じだったのに。

 今は、ただの―――。


「……ポンコツだな、お前」


「ポンコツと言うな!!」


 食い気味で返ってきた。

 あ、これいつものだ。

 そっか、俺、もう、コイツの事、許し始めてる……。

 

 ―――ふぅ。


 深く息を吐く。

 怒りが、完全に消えたわけじゃない。

 でも。

 ぶつける気が、なんか無くなった。


「……まぁいいや」


「なに?」


「結果的に俺、生きてるし」


「……それは……まぁそうだが」


「婆ちゃんのおかげだな」


「……否定はしない」


 少しだけ、沈黙。


「……で、これからどうすんの?」


「……何がだ」


「俺とお前の関係」


 言うと、ファウストが一瞬だけ固まった。

 あ、考えてなかったなコイツ。


「……契約を―――」


「しない」


 即答。


「契約を勧めるのは理由があるのだ」


「どんな理由だよ? 俺、死なねぇんだろ?」


「……心太。残念だが、貴様が死ぬのは事実だ」


「……へ?」


「……悪いが、それは嘘ではない。本当に死期が迫っている。どんな最後かは分からぬが」


「……………ウソだろ?」


 俺が聞き返すと、ファウストは視線を逸らして。「……すまんな」と、謝る。


「…………そっか……そうなのか……」

 

 どうしよう。

 今度は俺が言葉に詰まっちまった。

 何か言おうと言葉を探す。


「でも……」


「ぬ?」


「契約はしないぞ?」


「……では、我との関係が曖昧あいまいだ……」


 俺は少しだけ笑う。


「じゃあ、契約とか無しでさ……」


「……?」


「普通にいろよ」


「……普通に、とは?」

 

「友達とか、そういうのでいいだろ」


「……とも、だち……?」


 ファウストが、その言葉をゆっくり噛みしめる。


「……それは……契約よりも、効力があるのか?」 


「知らん。でも」


 俺は言う。 


「そっちの方が、面白そうじゃね?」


 少しの沈黙。

 ファウストは受け取った事のない物を押し付けられたような……変な顔をしている。


 そして。


「……フッ」


 ファウストが、ほんの少しだけ笑った。


「……変わった人間だな、貴様は」


「お互い様だろ、ポンコツ悪魔」


「だからポンコツと言うな!!」


「ファウスト様、黙っていた理由についてそろそろ言った方が」


 ベルクが突然、話に割って入る。


「なんだよ、他にもなんかあんの?」


「……そうだった。心太よ。今、貴様は自身の魂が縫われて保っている事を自覚した」


「うん。うん?」


わば不安定な状態だ。そういった者には厄介な……」


 ファウストが何かを伝えようとしてきた―――その時。


 ピリッ、と空気がわずかに震えたのを感じた。

 また何かが現れた、な。

 何度も感じている空気だけど、ちょっと異質な……。


「……ん? なんだこれ。オイオイ……また ”お仲間” かよ」


 ファウストの表情が、変わる。

 やけに険しい表情だ。


「どうした?」


「……心太よ、これは仲間などではない」 


「は?」


「貴様にも繋がっているはずだ……感じろ」


 言われて、意識する。

 ん〜〜〜………なんだろ、胸の奥か?

 あの時、縫われた場所だ。

 そこが―――何やらズキン、と痛んだ。

 これは……警告?


「……っ!?」


「……始まったか。存続がバレた」


「何がだよ? バレたって!?」


 ファウストが、静かに言う。


「貴様の魂は異形の縁を持っている。人間なのに我と繋がっているからな」


「……は?」


「つまり、貴様はもう、普通の人間ではない」


 一歩、ファウストが俺に近づいて。


「人と、悪魔が繋がる存在―――。そんな存在を欲するモノがいる。貴様が自身の魂の事を自覚した今だからこそ、なおさらだが……」


 その目が、鋭くなる。


「だから何の事だ―――」


 訊くとベルクが言葉を継いだ。


「―――規格外、創造の外、輪廻を失った存在……。この国ではこう呼称いたします」


 言葉を切ったベルクは俺を真剣な表情で真っ直ぐに見て、こう言った。


「 ”怪異” と……」


 ―――ガチャガチャ……………………………


 ―――ガチャガチャガチャガチャ…………!!


 何者かが、俺の部屋のドアノブを、猛烈な勢いで廻す。

 俺は、ゆっくりと玄関へ向かった。


 そして。


 ドアスコープを覗くいた。

 そこにいたのは―――。


「……何だよ……コイ……オイ! 二人共! これ何なんだよ!」


 そこにいたのは言葉で言い尽くせぬ何かだった。

 人の形はしている。

 背丈は俺と同じくらい。

 服は……スーツ、なのか?

 いや、違う。よく見ると、上と下で微妙に色が違う。袖の長さも左右でズレている。

 顔のパーツもバラバラだった。

 違う形をした合わないパズルを無理矢理に合わせたような―――。


 その顔が。

 さも嬉しそうに笑っていた。


 ―――いや。


 右側だけが笑っている。

 左側は、何も感じていないみたいに、ただ“貼り付いている”。


 スコープ越しに目が合った―――はずなのに、視線が微妙にズレている。

 こっちを見ているようで見ていない。

 その口が、ゆっくりとそして、深海魚のようにガバッと開いた。

 人間なら開けられない、口の開き方をしてそいつは。


「―――見ぃつけた……」


 喜悦に浸ってそう言った。

 声が、ひとつじゃなかった。男、女、子供、老人……。   

 何人もの合わさった声だ。

 背筋が、凍った。

 そんな俺の後ろで。

 ファウストが、低く呟いた。 


「……下がれ、心太」



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