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神様代理人  作者: のん
5/6

理解

しばらく、俺は何もしなかった。

祈りは聞こえている。

止めようと思えば止められる願いも、いくつもある。

でも俺は、手を出さなかった。

二回目の逸脱のあと、世界は何事もなかったように回り続けている。

死んだ人間は戻らない。

助けた少年も、今もどこかで生きている。

全部、現実だ。


俺はようやく気づいた。

神様と俺の違いは、力じゃない。

力だけなら、同じだ。


どんな病気も治せる。

どんな怪我も消せる。

運命も、才能も、成功も、失敗も、いくらでも捻じ曲げられる。

――代理人だから。

神様の代理である限り、神と同じ「権限」を持っている。


問題は、その先だ。

俺は人間だ。だから、使ってしまう。

目の前の泣いている顔を見ると、

今すぐ救える命を見ると、どうしても、手を伸ばしてしまう。

合理じゃなく、感情で。全体じゃなく、個で。

それを――

遥か高みから、揺らがずに選ばない存在。

それが、神だ。


神様は迷わない。葛藤しない。正しさを疑わない。

世界全体を見て、


「ここで介入しない方が、長い目で見て正しい」


そう判断したら、どれだけ悲鳴があっても、何もしない。

残酷だ。

でも、正しい。


そして俺は、二回目で理解してしまった。

同じ精神性を持てば、代理人の文字は外れる。

人間であることをやめ、個を見ず、感情を切り捨て、ただ均衡だけを守る存在になれたなら。俺は、神になれる。


――だが。


それができない限り俺は人間のままだ。

泣き声に引きずられ、目の前の命を優先し、結果として世界を壊す可能性がある存在。

だから、ルールがある。三回まで。

四回目は、終わり。


神様は脅しているんじゃない。

保護している。

世界を。そして、俺自身を。

人間のままで神の力を振るい続ける存在は、いずれ必ず選んでしまう。

だから、いつか必ず死ぬ。


俺は夜空を見上げる。

星は何も語らない。

祈りは、今日も止まらない。

三回目を使うか。

それとも、神になるか。

……どちらにせよ。

この仕事に、ハッピーエンドは用意されていないらしい。

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― 新着の感想 ―
予想より奇跡の代償が大きくて驚きました。 「神になる」=「力を持つ」ではなく、「神になる」=「人の精神を捨てる」という点に着目した面白い作品だと感じます。人のまま「力」が備わっているところが残酷です。…
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