理解
しばらく、俺は何もしなかった。
祈りは聞こえている。
止めようと思えば止められる願いも、いくつもある。
でも俺は、手を出さなかった。
二回目の逸脱のあと、世界は何事もなかったように回り続けている。
死んだ人間は戻らない。
助けた少年も、今もどこかで生きている。
全部、現実だ。
俺はようやく気づいた。
神様と俺の違いは、力じゃない。
力だけなら、同じだ。
どんな病気も治せる。
どんな怪我も消せる。
運命も、才能も、成功も、失敗も、いくらでも捻じ曲げられる。
――代理人だから。
神様の代理である限り、神と同じ「権限」を持っている。
問題は、その先だ。
俺は人間だ。だから、使ってしまう。
目の前の泣いている顔を見ると、
今すぐ救える命を見ると、どうしても、手を伸ばしてしまう。
合理じゃなく、感情で。全体じゃなく、個で。
それを――
遥か高みから、揺らがずに選ばない存在。
それが、神だ。
神様は迷わない。葛藤しない。正しさを疑わない。
世界全体を見て、
「ここで介入しない方が、長い目で見て正しい」
そう判断したら、どれだけ悲鳴があっても、何もしない。
残酷だ。
でも、正しい。
そして俺は、二回目で理解してしまった。
同じ精神性を持てば、代理人の文字は外れる。
人間であることをやめ、個を見ず、感情を切り捨て、ただ均衡だけを守る存在になれたなら。俺は、神になれる。
――だが。
それができない限り俺は人間のままだ。
泣き声に引きずられ、目の前の命を優先し、結果として世界を壊す可能性がある存在。
だから、ルールがある。三回まで。
四回目は、終わり。
神様は脅しているんじゃない。
保護している。
世界を。そして、俺自身を。
人間のままで神の力を振るい続ける存在は、いずれ必ず選んでしまう。
だから、いつか必ず死ぬ。
俺は夜空を見上げる。
星は何も語らない。
祈りは、今日も止まらない。
三回目を使うか。
それとも、神になるか。
……どちらにせよ。
この仕事に、ハッピーエンドは用意されていないらしい。




