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神様代理人  作者: のん
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第二の逸脱

二回目は、迷わなかった。

一回目のあと、俺は自分でも驚くほど平静だった。

救った命は確かにそこにあって、後悔はなかった。

だからだろう。

次に拾った祈りを、俺はほとんど反射で掴んだ。

場所は海外の紛争地域。対象は十代の少年。


銃創。

肺を貫通。

助かる確率は、ほぼゼロ。


祈っていたのは少年本人じゃない。姉だった。


ー弟だけは。

ー弟だけは助けてください。

声が、震えていた。


俺は少年のそばに立つ。埃と血と火薬の匂い。

呼吸は浅く、意識は途切れ途切れ。

やることは、もう分かっている。


銃弾を消す。

破壊された肺を元に戻す。

出血を止める。

世界を、数秒だけ書き換える。

……二回目。

俺は迷わず、因果に手を突っ込んだ。

少年は助かった。

医療班が驚き、奇跡だと叫び、姉はその場で泣き崩れた。


俺は、少しだけ胸を張った。

ほらな。救えたじゃないか。

神様の沈黙が、少しだけ不安を煽ったが、それでも俺は「正しいことをした」と思っていた。


感謝の声は、大きかった。

多くの人間にとって、彼は象徴になった。

世界が、揺れた。今度は、はっきりと分かった。

感謝が、肯定が、世界を歪ませる。

世界が帳尻を合わせる。



――その日の夜だ。

世界中の祈りの流れが、一瞬、歪んだ。

音が、重なりすぎて、ノイズになる。

俺は嫌な予感を覚えて、視界を引き寄せた。


少年がいた地域。数日後。

彼は生きていた。回復も早い。

そして―― 彼は、銃を持っていた。


恐怖。

怒り。

復讐。


生き残ったことが、彼を英雄にした。

戦闘は拡大した。

本来なら、そこで終わっていたはずの小さな衝突が、

周囲を巻き込み、連鎖し、増幅した。


結果。

死者、数百。難民、数万。


俺は、呆然と見ていた。

……嘘だろ。

助けたのは、一人だ。ただの少年だ。

だが世界は、差分を許さない。

本来消えるはずだった命が、世界に残ったことで、均衡が崩れた。


神様の声が、淡々と響く。



――それが、世界だ。



感情はない。責めてもいない。

ただ、事実を述べている。

一人を無理に救えば帳尻合わせにどこかで別の誰かが死ぬ。

それは一人とは限らない。数合わせとは違う。流れがあるのだ。


俺は叫びたくなった。

じゃあ、見捨てろってのか。

最初から死ねって?


神様は、間を置いて答えた。



――選ばないという選択も、選択だ。

――お前は、選んだ。



そうだ。俺が選んだ。

一人の命を、大勢の未来よりも重いと判断した。

俺は膝をついた。

指が、震える。救ったのに。

間違っていないはずなのに。

……いや。

間違っていたかどうかは、結果が決める。

それが、この世界のルールだ。



――次は、三回目だ。



神様はそう言って、黙った。

俺は、祈りの海を見渡す。


同じ顔。

同じ声。

同じ弱さ。


そして分かってしまった。

神様は、正しい。残酷なほどに。

正しいから、何もしない。

正しいから、助けない。

俺は、その正しさを理解してしまった。


それでも――

次に手を伸ばさずにいられるかどうか。

自信は、もうなかった。

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